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第12話「沈黙が落ちる瞬間」

翌日。

警視庁の一室に、

緊急捜査会議が召集された。


氷室は席につきながら、

昨夜の城ヶ崎との対面を思い出していた。


(……あれは、絶対に“人間の動き”じゃない)


あの背筋を撫でた静寂。

城ヶ崎の足音が響かない感覚。

一瞬だけ世界が止まったような異常。


思い出すだけで、

額に薄い汗が滲む。


会議室の扉が開き、武田課長が入ってきた。


「……みんな、聞いてくれ。

 新しい“消失”が発生した」


ざわめきが走る。


氷室は息を呑んだ。


課長がディスプレイを指す。


映し出された映像。

工場地帯の監視カメラ。


午前2時38分。

画面に倉庫の外を歩く男たちの姿。


2時38分30秒。

カメラにノイズ。


2時38分31秒。

――倉庫も、男たちも、“跡形もなく”消えていた。


「……昨夜と同じように、

 建物ごと消失した」


氷室は頭を抱えそうになった。


(まただ……また同じパターン……

 これは完全に……“狙っている”)


すると隣の席の刑事が呟いた。


「……おかしいだろ。

 こんなの、地震でも爆発でも説明できないぞ」


「倉庫周辺には爆発痕なし、ガス管の異常なし、

 地盤沈下も確認できない」


武田課長が言う。


「だが、もっと問題がある」


会議室が静まる。


課長は重く言った。


「消失の約5分前……

 現場近くで“城ヶ崎悠”が目撃されている」


空気が一気に凍りついた。


氷室の心臓が跳ねる。


(やっぱり……!)


しかし課長は困惑顔で続けた。


「だが……

 目撃者は“ありえないこと”を言っている」


「ありえないこと……?」


誰かが問う。


課長は一枚のメモを掲げた。


「目撃者の証言だ。

 曰く──

 “裁判官の周りだけ、音が消えていた”」


会議室に衝撃が走った。


誰もが言葉を失う。


氷室は静かに目を閉じた。


(……妹と同じ……そして俺が見た光景と全く同じだ)


課長は顔をしかめる。


「氷室……

 お前は、以前の報告で同じことを言ったな?」


「はい。

 音が消えた、と」


課長は全員を見渡す。


「証言が複数出た以上、

 “異常現象”として捜査を拡大することに決めた」


異常現象。


その言葉は、警視庁の空気を完全に変えた。



会議が終わったあと。


氷室は廊下で深い溜息を吐いた。


(こんな捜査……前代未聞だ……

 けど、もう逃げられない)


スマホが震えた。


──妹:氷室彩花


またか、と慌てて出る。


「彩花? どうした」


『お兄ちゃん……

 いま、家の前に……』


「家の前? 誰かいるのか?」


妹の呼吸が荒くなる。


『……黒い……コートの人が……

 こっちを見てる……』


氷室の血の気が引いた。


(まさか……城ヶ崎!?)


「彩花! すぐに家から離れろ! 外へ出るな!」


『違う……違うの……

 あの人……』


震える声が続く。


『……“私を助けてくれた人”だった……』


氷室は息を呑む。


(助けた……?)


妹が震える声で囁いた。


『怖いのに……

 でも、あの人……

 “危ないから家に入れ”って……

 静かに言った……』


氷室は思わず壁に手を突いた。


(……城ヶ崎が……妹を……守った……?)


頭の中が混乱する。


敵なのか。

味方なのか。

人間なのか。

それとも──


妹の声が途切れた。


『……お兄ちゃん……

 さっきから……』


「どうした、彩花!」


『……家の周りの音が……

 全部……なくなってる……』


氷室の背筋が凍った。


「彩花! 聞こえるか!? 彩花!!」


『……お兄……ちゃん……』


その後、

電話の向こうは沈黙に飲まれた。


『…………』


氷室は、震える声で呟いた。


「……彩花……?」


返事はない。


世界の音が消えたような沈黙だけ。


氷室の心臓が止まりそうになる。


(……まさか……

 城ヶ崎……!?)


違う。

あれは恐怖の沈黙ではない。


氷室は直感した。


これは──

“何かが始まる前の静寂”。


むしろ──

大きな危機が近づいている合図だ。


氷室は走り出した。


(俺が行かなきゃ……!)


その瞬間。


背後の廊下の空気が、

ふっと揺れた。


振り返る。


そこに──

城ヶ崎悠が立っていた。


黒いコート。

表情は穏やかで、冷静そのもの。


だがその瞳には、

これまでの彼にはなかった“決意”が宿っていた。


城ヶ崎が口を開く。


「氷室。

 急いだほうがいい。

 あなたの妹さんが──

 “狙われている”」


氷室は息を詰まらせる。


「お前がやってるんじゃないのか……!?」


城ヶ崎は氷室を見据えた。


「違う。

 今回の敵は──

 “私でさえ止められるか分からない相手”だ」


世界が、一瞬、静まった。


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