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座頭の石 (ざとうのいし)  作者: とおのかげふみ
第二章 ソの郷

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ep.11 町へ

「おじちゃん!」


声とともに(たえ)が家から飛び出して、定吉(さだよし)に向かって一直線に走った。

定吉は苦笑しながら屈んで、たえを受け止め抱き上げる。


「たえ、俺はまだ若いつもりなんだ。その言い方は勘弁してくれよ」

「定吉さん、お帰りなさい」


家の玄関口へと歩いていた(つる)の前で、(よし)が聞き覚えのある名前を呼んだ。

つるは、よしの背後からその人物を見た。


そこには、整えた(まげ)に、小綺麗(こぎれい)な着物の若い男が、たえを抱いて立っていた。

歳は二十(才)後半、つると同い年か、少し上かもしれない。

抱きかかえられた、たえは定吉によく(なつ)いているようだ。


水茶屋(あっち)に行ったら、もう店終いしてたんで、家に来てみたんだ。今日は、誰か荷車を運ぶのを手伝ってくれたのかい?


「まさか、よしさん一人で運んだんじゃないだろうな、もしそうなら、そんな危ない真似はしない方がいいよ」


「たえもいる!」


と定吉に抱えられた、たえが口を尖らせて主張した。


「ああ、確かに、あ、えっと、・・その女性はどちらかな?」


定吉は、よしの後ろに若い女性がいる事に気付いた。


「お初にお目にかかります。つると申します」


つるは、頬被(ほっかむ)りしていた手拭いを取り頭を下げた。


一見少女のような見た目と違い、落ち着いた物言(ものい)いの女性。

定吉は、軽く気圧(けお)され慌てて頭を下げた。

その慌てようにくすくす笑いながら、よしが話した。


「今日は、この方たちが家に泊まることになったので、早めに店を閉めたの。途中で、定吉さんと会えたら良かったんだけど、会えなかったから・・、後で定吉さんの家まで行こうと思ってたのよ」


よしの話を聞いて、定吉はハタと気付いた。


...あれ、石さん一人じゃないのか? この女性も一緒か・・じゃあ、それほど心配する必要もなかったのか?


「そうか、それなら良いんだ。あ! いや、え―そうだ、じゃあ、つるさんが荷車を曳くのを手伝ってくれたのかい?


「この火鉢(ひばち)を積んだ荷車は、女性一人では重くて危険だから、誰かいてくれて良かった。二人なら安心だ」


早口で(まく)し立てる定吉を、たえが不思議そうに見上げた。


「?、・・・荷車を()いたのは、そこに居る、石さんよ。一人で曳いて来てくれたの」


「は?」


定吉は信じられないという顔で、空を仰ぐ盲目の男を見た。 




【町へ】


...そろそろ町に行きてえかな?


夕日が照らす家の前で、三人が話してる。

石は手持ち無沙汰(ぶさた)(うえ)を仰いでいた。


「いっさん。わたしは、よしさんの御厚意(ごこうい)に甘えさせて頂きますから、もう町へ行っても大丈夫ですよ」


石の心を読んだように、つるが言葉をかけると、「おっ」と石は嬉しそうに声をあげた。

そして、みんなに向かいニコっと笑うと背中を向けて、そそくさと荷車を曳いて来た道を戻って行く。


「ひとりで大丈夫なの?」


よしは、つるを見た。


「大丈夫です。・・あの人はああやって、たまに自由にしたほうが良いんですよ」


つるは、さみしそうで、またあきらめたような表情をしている。

そして、もう遠く離れていた石の背中に呼びかけた。


「小さな子供もいますからね、子の刻(ねのこく)(深夜0時前後)までには帰って来てくださいね」


いしは振り返る事なく背を向けたまま、ひらひらと片手を振った。


「俺、心配だからついていくよ」


「そうね、目のこともあるし心配だわ。つるちゃん、付いて行ってもらったら?」


つるは首を振った。


...久しぶりに一人で夜の町をウロウロしたいだろうから、誰かと一緒だと嫌がりそう


「もと来た道を戻れば、町までは一本道。棒鼻(ぼうはな)(入り口)までは迎えが来るという話でしたから。わざについて行かなくても大丈夫です。お気持ちだけ受け取っておきます」


よしと定吉にそう言うと、小さくなった石の姿をまた見つめている。


...助五郎に会うのは心配だけど、いっさんは必ずわたしの所に元気に帰ってくる。むしろ、わたしや誰かが一緒に居る方が足手まといになって、彼の身を(あや)うくしてしまう


「あの人は、大丈夫です」


と、つるはポツリと呟いた。

定吉は、その様子を不思議そうな顔で見ている。


「あの、石さんとはどういう関係で?」

「夫です」


と、つるは当たり前のように答えた。


つるが、見た目とは違う大人の女性であることは理解できた。

だが、つると石はどう見ても、親子ほど歳が離れているように思える。


...盲目の男と若い娘・・何処かでそんな話を聞いた気がする


結局、定吉は「俺がそうしたいだけだから」と結局、石を追いかけていった。

つるは、その後ろ姿を見つめ。内心は、定吉がついて行ったことで安心している自分がいた。


...心配だったんだ


旅慣れてるといっても、石にとっても初めての町。

心の奥では、ひとりで行かせるのは嫌だったんだと気付いた。


キュルキュルと音がした。


定吉に置いて行かれた、たえのお(なか)の虫がキュルキュルキュル鳴いている。


「お腹()いた?」


よしが、たえの顔を覗き込む。

よしの足下で、たえは恥ずかしそうに着物に顔を押し付けた。


「ご(はん)にしようか?」

「手伝います」


つるは、二人を振り返った。


三人が家に入ってしばらくすると、コトコトと食事の支度をする音がした。

やがて家の中から、良い匂いが外に(ただよ)ってきた。






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