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座頭の石 (ざとうのいし)  作者: とおのかげふみ
第二章 ソの郷

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ep.7 荷車

(いし)は手持ち無沙汰で、道の端っこで中座(ちゅうずわ)りをして、まわりの音に耳を()ましていた。

風の()、虫が鳴く声。女性達の会話。

煙草が吸いたくなったが、さっき注意されたばかり。


「ふぁぁあい」


ヒマしていた、石は急に長旅の疲れが襲って来て、生欠伸(なまあくび)ばかりしている。


...やる事ねえと、眠くていけねえや


(よし)さん、荷車(これ)どうやって動かすのでしょうか?」


洗い物で汚れた(おけ)の水を捨てに店の裏に回った、よしの声がする。


「ちょっと待って。桶を洗ったら戻るから」


ひくひくと石の耳が動く。

どうやら、帰る準備は出来たようだ。

後は荷車を外に出して、屋根の下に腰掛けを入れたら、終わりとなっている。


...そろそろ、あしの出番かな?


立ち上がると、背を伸ばした。

「ああっ」と声が出る。

腰を叩くと、のそのそと店に向かって歩いた。


店の中では荷車を見つめて、(つる)が...どうしようかとまだ考えていた。


「可愛いお嬢さん、ちょいと目の前を失礼しますよ」


そう言うと石は、つるの前に割り込み、荷台の横に手を這わせて、さっき確認していたストッパーらしきものを触った。

ガクッ、と荷車が揺れ、かすかに動いた。


「荷台の横にあるストッパーを引けば、動くようになるか・ら?」


よしが、そう言いかけて立ち止まった。


よしの目の前で、石は車輪に手を伸ばして、()ませていた輪留(わど)めを外している。


(ねえ)さん、コイツは持って帰るのかい?」


輪留めを見せると、よしは戸惑った顔で


「あ、いや・・・店に置いて」


と言った。


「そうかい、じゃあここに置いとくよ」


輪止めを脇に置くと、石は荷車の()()を握って動かし始めた。


「つる、荷車(こいつ)を外に出すから案内してくれ」

「はい」


...え?


よしの目の前で、石が、つるの指示で荷車を外に出して、腰掛けを屋根の下に収めた。


そして石はまた荷車に近づくと、取手(とって)の囲いの中に入って()()(つか)み引き上げる。


「あっ・・石さん、ちょっと待って。荷車は、あたしが()いて行くから」

「こう云う力仕事は、男がやるもんだって教えられて育ったんでな、気にするこたぁねえよ」


そう言うと、石はいつでも出発できるように合図を待つ。


「好きにさせて下さい」

「えっ・・でも」

(たえ)ちゃんも働いてたのに、いっさんはずっと(なま)けてただけですから。ほら、あのお腹を見て下さい」


つるの指差すほうに、石のぽっこりとした中年腹(ちゅうねんばら)があった。 


「最近、太り気味なんです。()せるのに、これぐらいの力仕事は必要なんですよ」


つるは、笑顔で辛辣(しんらつ)な事を言った。


...(ひで)ぇ言い方・・


石は心で愚痴(ぐち)をこぼした。

よしを納得させるための方便(ほうべん)だと思いたいが、本心かもしれない。


「でも、石さんは・・」


目が見えないと言葉にしそうになったが、口に出すことは(はばか)られた。

まだ、そこまで話せるほどの仲ではないからだった。


つるは、よしの言いたいことを理解している。


「大丈夫ですから、いっさんに任せてください」


笑顔で、よしに言うと石を見た。


「行きましょうか、いっさん」

「ああ」


石は()()を握りしめ、荷車を引き始めた。






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