江戸っ子を宥めました
久しぶりの更新です~
ちゃんと最後まで書きたいと思っています。
のんびり更新ですがよろしくです。
「つまり、この世界では、貴方の言うちょんまげという文化がなくて、髪の一部を剃ったりはしないのが、『粋』ってことですのよ」
ちょっとでも隙を見せると頭のてっぺんを剃ろうとするベアード様を縄でぐるぐる巻きにして部屋の真ん中に座らせてから、わたくしは辛抱強く説明した。
「で……でもよぉ……こんな……伸ばし放題の頭なんて……」
「ベアード様はこまめに髪を切って整えている方ですわ! 伸ばし放題などではありません!」
「…………おっかねぇ……」
「文献によりますと、前世を思い出してすぐは、多くのパターンで前世の人格が強く出てしまうようですが、次第に今世の記憶も戻ってきて、うまく融合するらしいのですから、勝手に髪を剃ったりしたら、後悔するのはご自分なんです。今はわたくしを信じて、髪を剃ろうとするのをおやめください」
少し強めに話すと、ベアード様は縮こまり、わたくしをチラチラ見ながら、観念したようにうなずいた。『おっかねぇ』って、どういう意味かしら? 怯えられてるような気がするのだけれど、気のせいよね。
「承知したんだから、縄を解いてくんねぇか?」
「あら、そうですわね。手荒な真似をしてごめんなさいね。アンナ、縄を切って差し上げて」
「はい、奥様」
ツルっとした男性を支持する仲間として、侍女のアンナとはすっかり仲良くなれた。ベアード様が髪を剃ろうとするのを阻止するために、絆はどんどん深くなった気がする。いくらツルっとした男性が好みでも、髪の毛まで無理にツルっとさせる必要はないのよ。自然にツルっとするのはべつにいいけれども。
縄を片付けるために退室しようとするアンナを呼び止めて、使用人達をサロンに集めるよう指示を出す。この状況を、邸の中にいる全員に共有しておきたい。
「さ、ベアード様、みんなに事情を説明しに行きますよ?」
「…………おう」
縄で縛られたのが、お気に召さなかったのか、仏頂面のベアード様である。まあ、お気に召されたらそれはそれで困ってしまう。
わたくし達は部屋を出て、ゆっくりとサロンに向かった。
* * *
ベアード様が前世を思い出したことは、邸のみんなが知ることになった。あのほぼ口をきかないベアード様とは対照的に、おしゃべりが好きで明るくて、感情を露にする今のベアード様は、大変な人気者だ。邸の中では。
さすがに、この状態のベアード様を一人で外に出すわけにはいかず、侯爵家の仕事も、今はストップしている。前世を思い出したことを考慮され、しばらくは元の生活をしなくてもいい。そういう配慮がされる世界である。
けれど、そんな生活を三日も続けると、ベアード様はモジモジしながらわたくしの部屋にやってきた。
「なぁ、おルゥちゃん」
ちなみに、今のベアード様は、わたくしを『おルゥちゃん』と呼ぶ。初めて呼ばれたときは、なんだかむずむずしたものだ。
「はい、なんですか? 熊さん」
自分のことを『熊』と呼んでほしいと不安げに言われたもので、わたくし達は、ベアード様の記憶が戻ってくるまではそう呼ぶことにした。
「その……」
「言いにくいお話? まずはソファに座ってお茶でもどうぞ」
「うん…………」
この三日でわかったことは、熊さんは嘘がつけないということ。そして、感情を隠すのが苦手な様子である。
「熊さん、なんでもおっしゃって?」
「ああ……あのな、俺とおルゥちゃんが夫婦だっつうのは、理解した。理解したんだがな……」
「お光さん、ね?」
生まれ変わっても前世の奥様に操をたてている熊さん。記憶がないときでも、わたくしを抱くことができないと言っていた。つまり、わたくしとは結婚生活を続けられるわけがないのだ。
「…………この世界は、俺の世界じゃねぇっつうのはわかってんだ。けどな、もしかしたら、お光も生まれ変わってこの世界にいるかもしれねぇって思ったら、いてもたってもいられなくなっちまって……」
「探しに行きたいのね?」
「…………すまねぇ!!」
たしかに、生まれ変わって近くにいるかもしれない。そうしたら、熊さんは、何がなんでもお光さんのところに飛んでいくわね。わたくしがそれを阻むことなど、できるわけがない。
「でも……お光さんの生まれ変わりが誰かなんて、わからないわ」
「いや、俺には、わかる。お光が生まれ変わっても、俺達は魂で結ばれてんだ。一目みりゃ、一発でわかる!」
「まぁ……愛ですわね……」
わたくしは、熊さんの一途さに感激してしまった。結婚したといっても、まだ愛を育むまではいっていないわたくし達。そうであるならば、わたくしは潔く身を引いて、二人が幸せになるお手伝いをできればと思った。
それで、まずは街を案内することになったのである。
わたくしは、熊さんに、最低限のルールを教えることにした。身分制度など、覚えなくてはならないことがたくさんある。
「何があるかわからないので、マナーなども学んでからお光さん探しを始めましょうね」
「…………おう、マナーか……頑張るぜ」
少し引きつった顔をした熊さんは、自分の胸をバンと叩いた。
また一週間後くらいに……更新できればと……
すみません




