第12話 どうしてこうなった
しばらくは毎日12時更新ざます
翌日――。
授業が終わった放課後の教室で、俺は腕組みをしながら思い悩んでいた。
その悩みとは勿論、昨日のメールの件についてである。
ヘッズベルからログアウトした後、ミモちゃんにメールをしてみたところ、彼女はテンゴウの指定した喫茶店へ行くと返事をしてきた。
「先の展開がまったく読めん! テンゴウもミモちゃんも、俺に何をさせたいんだ」
誰もいなくなった教室で一人、俺はぶつぶつと独り言を重ねては、行くかどうか決めかねている。正直な話、何か面白いことがあるのではないか、という好奇心もあった。
俺は学校を出た後、自宅のアパートまで歩き出した。
帰り道の途中に例の喫茶店があるわけだが、やはり行くべきではないな。
今日は数少ないバイトが休みの日だ。そんな貴重な時間を、意味不明な誘いに乗った挙句に面倒事に巻き込まれでもしたら、アホくさいじゃないか。
「……だが、しかしだ」
俺は次第に近づく喫茶店を前にして、ひとつ気掛かりなことを思い出した。それはミモちゃんの存在である。彼女もこの場所へ行くとメールに書いていた。
「これでもしもミモちゃんの身に何かあれば、それはそれで不味い気もする……」
いわゆるオフ会のようなものだろうから、そんなに心配することもないかもしれない。しかしきっとミモちゃんは俺を待っていると思われる。あの子は純粋というか、無条件で他人を信じてしまうような、少し危ういイメージがあるのだ。
俺はあれこれと考えを巡らせた末に、仕方なく様子を見に行くことにした。そう、あくまで様子を見るだけだ。向こうも俺の顔なんて知らないはず。適当に店の中を見回してみて、ヤバそうな人がいたら帰ろう。
「いらっしゃいませ!」
俺が喫茶店の自動扉から中に入ると、営業スマイルの美しいウェイトレスが出迎えてくれた。
「あっ……」
「お客様、いかがなさいました?」
おいおい、そういえば待ち合わせにしたって相手の顔も名前もわからんぞ。客も結構たくさんいるようだし、どいつがテンゴウなのかさっぱりわからん!
「えっと……テ、テンゴウさんていう人いますかね?」
は、恥ずかしい!
ゲーム内のキャラネームで待ち合わせの奴を探すとか、なんの罰ゲームだよ!
「て、てんごう……様……ですね?」
ウェイトレスの女性は、レジで待ち合わせの約束がないかチェックしていた。しかしどうやらそんな言付けなどなかったようだ。
「よろしければお呼び出しいたしましょうか?」
「あ、じゃあいいです」
よし、帰ろう! これで言い訳はできる。俺は店に行ったが、テンゴウはいなかった。
そう、ちゃんと待ち合わせの段取りを決めておかなかった奴が悪いのだ。さらばテンゴウ!
そして俺が得体の知れない解放感と共に、店を出ようとした時だった――。
「ん?」
目の前にランドセルを背負った幼女が立って、俺の方をじっと見つめていた。
「この子……河原にいた」
以前見かけた時と同じように、無表情で何を考えているのか解からない。ただ、それが逆にイメージ通りであり、俺は思わずその名を口にした。
「ミモ……ちゃん?」
幼女が小さく頷いた。そして、そのまま店内へと歩き出す。
「ちょっ、ちょっと!」
ミモちゃんは店の奥へと無言で進みだし、俺もその後を追って歩き出した。
店内をぐるりと周りながら、ミモちゃんはテンゴウを探しているようだ。俺はその後ろを付いてまわる。これ不審者に見えないですかね。
店内の客の視線がちょっと痛いです。
やがてテンゴウがまだいないことを確認したらしく、ミモちゃんは空いている窓際の席に腰を下ろした。
「やれやれ……」
俺はそう言いながらミモちゃんの対面に座ろうとした。
が、しかし――。
「こっち……」
ミモちゃんが小さな声で呟く。
彼女は自分の隣席をぽんぽんと軽く叩いて、俺の席を指定してきた。
「え? でも狭くないか?」
「いいの」
「そうですか」
それにしても本当に幼女だったんだな……ミモちゃん。いや待て、そもそも幼女というのは何歳から何歳までの女の子を指す単語なんだろうか。ランドセルを背負っていたとはいえ、高学年ともなれば幼女というには大きすぎる気がする。幼女と少女の境界が分からぬ! などとどうでもいいことを考えていた時、ウェイトレスが注文をとりにやってきた。
俺は適当に紅茶を頼み、ミモちゃんはアイスカフェウィンナーとやらを頼んでいた。
なにそれ? カフェオレに肉の腸詰でも入ってんのか。こういうオシャレな喫茶店にはあまり来ないのでよくわからん。ていうか紅茶一杯で四五〇円て高すぎない?
「ところでミモちゃん?」
紅茶をズズっと啜った後、俺は視線を前方の空席へ向けたまま尋ねる。どうにもすぐ隣に、小学生の女の子が座っているという状況が落ち着かないのだ。ふわふわするのだ。放課後ティータイムなのだ。
ミモちゃんは首を軽く傾げて、俺の言葉の続きを待っていた。なにこの生き物かわいい。
「テンゴウとは面識……会ったことあるのか?」
「一回だけ」
「へぇ、どんな奴なんだ?」
俺の問いかけに、ミモちゃんは指を顎にあてて考えている。
「んー……ふわふわしてるの。あと良い匂いするの」
「なんじゃそりゃ」
全っ然わからないんですけど。
ミモちゃんはリアルでも掴みどころのない娘だ。
俺は紅茶を啜りながら店の入り口を見やる。
テンゴウは一体どんな男なのだろうか? そんな事を考えながら、ぽつぽつと来店してくる人達を眺め、それらしい人物を待っていた時だった。
「げっ…あっつ!」
思わず声が洩れ、紅茶の熱さと共に驚きうろたえてしまった。
その黒くて長い綺麗な髪をユラユラとなびかせて、店内に入ってきたのは誰であろう天驚院音遠だった。
「な、なんであいつがここに……」
まずい。面倒くさい奴に出くわしてしまった。こんな女子小学生と一緒にいる所を目撃されでもしたら事案として訴えられかねん! 非常にまずいッ!
「ミ、ミモちゃん、俺ちょっとトイレに行って来るわ」
「わかったの」
俺は音遠の視界に入らないように店内のトイレへと逃げ込んだ。
「どうしてこうなった」
洗面台の前に立ち、鏡に映る自分に問いかける。当然だがこんな状況になってしまった答えなど返ってくるわけがない。とにかく音遠がさっさと帰ってくれることを願うしかないな。
俺は大仰な溜め息を吐いて、少し長めの小便を終えたあとに席へと戻ることにした。




