表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二番目な僕と一番の彼女  作者: 和尚@二番目な僕と一番の彼女 1,2巻好評発売中
2章 僕と彼女と感情の名前

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/83

17話


 どの位の時間を抱き合っていたのだろうか。

 いつの間にか、涙は止まっていた。


 喉の乾きを覚えて、僕と千夏は身を離す。

 先程まであった温もりがなくなるのが、どうしようもなく寂しく感じられてしまう。


 こんなに近くにいるのに、そう思って僕は少し笑った。

 千夏もまた、同じ事を思っていたのだろうか。少し微笑んでいるように見えた。


 もう大丈夫だと思った。

 何も状況は変わっていないけれど、沢山泣いて、今自然と微笑むことができた僕らは、きっとこれからも大丈夫に違いなかった。


 用意していた飲み物は、もう冷めてしまっていたけれど、僕らはそれで喉を潤した。

 あれだけ目から水分が出たのだ、身体が潤いを欲するのは当たり前な気がする。


 しばし、飲み物を飲む音だけが響いた。もう深夜で、外も中も静寂に包まれている。

 そんな沈黙を破るように、ねぇ、と千夏は言った。うん、と僕は頷いた。


 それだけで僕らの間では通じ合った気がした。先程、抱き合って、名前を呼び合ったのが全てな気がしていた。

 ただ、それは錯覚かもしれなくて、だから、ちゃんと今更ながらに先人のアドバイスには従うのだ。

 僕らが今言葉にしないといけないことは、もうお互い伝わっている、そう思える。

 どちらから言葉を発しても良いような気はした。


 ただ、千夏が先に口を開く。きっとその言葉は――――。



「キスして、いいかな?」


「…………え?」


 ほんの一瞬前の僕を殴りたくなるほど、千夏の口から出てきた言葉は僕の頭の中に欠片も無かった。

 想定に無い時、人はこんなに間の抜けた声を出すんだな、と僕は他人事のように自分の声を聞く。

 そんな僕に、首を傾げるように千夏は問う。


「嫌なの?」


「そんなわけ、無いけど」


 言葉を失った僕は、千夏に見つめられて、言葉の意味に頭が追いついて、その瞳にまるで恥じらう乙女のように顔を赤くする。


「じゃあ、しよう――――ちょっと確かめたいことがあるの」


 千夏が男前だった。

 誰が何と言おうと、完全にこの目の前の美しい女の子は男前だった。


「ん…………」


 いつまで経っても見慣れることがない整った顔が、少し首を傾けるような角度で近づいて、甘い香りと共に、僕の唇に柔らかい感触が触れた。

 ――――僕らの二度目のキスは、歯が当たることもない、穏やかなキスだった。


 ゆっくりと、千夏が離れていく。

 そして、うん、と千夏は何かを確かめるように、納得するように頷いて、呟くように言った。


「やっぱりさ、うちはハジメが好き」


 真っ直ぐだった。

 その瞳が問うていた。貴方はどうなのかと。

 僕の答えもまた、決まっていた。


「僕も、千夏が好きだよ………………あ、でも少し違うのかも」


「…………?」


「僕はさ、自分の感情の名前が、『好き』って気持ちかと思ってたんだけど」


「うん」


「色々考えて、感じて、溢れすぎないようにとか思うこともあったんだけど」


「うん」


 僕は千夏のように、バシッと言えなかった。

 まるで言い訳のように少しばかりの言葉を並べてしまう。

 でも、そんな僕の言葉に千夏は、何より大事なもののように頷いてくれていた。


 だから、僕は言葉に、今この胸にある熱と想いを全て載せて――――。


()()()()


 そう告げた。


「あ…………」


 千夏のただでさえ大きな瞳が、見開かれて、口から(かす)れたような声が出る。

 高校生程度の恋愛でと言われるだろうか、もしかしたら、正直初めての恋に浮かされているだけなのかもしれない。

 それでも、ただ好きというだけじゃ伝えきれない気がして。

 あの瞬間、僕と同じことを千夏もまた思ってくれていた気がしたから。


「正直、愛とか恋とか好きとか、よくわかってなかったんだけどさ…………何だろう、それが一番しっくり来たんだ」

 

 はは、そう言って、流石に照れくさくなってしまった僕は、頭をかいて下を向く。


「…………あぁもう!」


 そんな声がさっきまでの言葉よりとても近くで聞こえて。

 顎に手をかけられて、強引に顔を上に向けられ、そうして僕はまた、唇を奪われた。

 先程よりも少し乱暴に、でも長く、少しだけ深く、僕と千夏は口づけを交わす。


「……カナさんが、言ってた」


 そうして離れて、呼吸が乱れながら、紅潮した顔で、千夏は言った。


「え?」


「キスをしても、もっともっとしたくなったら、本物だって……本物じゃなかったら、したら冷めちゃうって」


「はは……じゃあ僕のこれは、本物みたいだ」


「……ん」


 今度は僕からした。

 三度奪われるようにしてキスをして、四度目にようやく自分からできる。

 そんな僕の情け無さもまた、僕と千夏の関係のようで。


 本物が何かはわからない。

 恋は下心、愛は真心とは誰の言葉だっただろうか。


 わかっていることは、どんなにキスを交わしても、この胸の中の想いが消えるとは思えないということ。


 僕の心の中にはもう、千夏の場所があった。

 そして千夏の心の中にも、きっと僕の居場所は用意されていた。



「ねぇ、千夏」


「なに? ハジメ」


「僕と、恋人になってくれますか?」


「…………ええ、喜んで」


 千夏は、僕の言葉にまた少しだけ静かに涙を流して、笑ってそう答えてくれた。

 その涙はもう、先程までのそれとは意味を変えていて。

 僕らの感情の名前を知った日、こうして僕らの関係もまた、名前を変えたのだった。







二章 僕と彼女と感情の名前 完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ある意味おとんが仕事したな。 素晴らしいね。
[良い点]  なにもかも。 [気になる点]  そろそろ同姓同名の佐藤はじめの出番が近い? [一言]  君達の恋愛は、これからだ!
[良い点] 4話連投にびっくりしたけど、キリが良いとこまで読めて良かった。 あと、感動した。 先週は仕事帰りの電車の中で、読んでて思わず泣きそうになったシーンもあった。 [気になる点] >「キスをしま…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ