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総合ダンジョン管理術式『Solomon』保守サポート窓口 〜ミミックは家具だって言ってんだろ! マニュアル読め!〜  作者: score


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269 新人ローテーション研修 攻略サポート編43



 初級ダンジョンと中級ダンジョンを隔てる、もっとも大きな違いはなにか。


 むろん、そこに正しい定義などは存在しない。

 それでも、ただの思考実験として酒の席で盛り上がることはある。


 ある者は、ずばり、モンスターの多様性と言った。


 初級ダンジョンには存在しない、モンスターの多様な組み合わせ。

 レベル以上に厄介な集団。連携やコンボの概念。異種族故の想定外の厄介さ。

 そういった、今まで人間の専売特許だった部分にモンスターが踏み込んで来たら、それは中級ダンジョンなのではないかと。


 それをカワセミが聞いたのは、いつの話だったか。

 確かまだ攻略サポート部に異動になる前。

 珍しい、保守サポート部の飲み会の一席であったはず。


 それを言ったのがメガネだったか、それ以外の先輩だったかは覚えていない。

 だが、今そんな言葉をカワセミは不意に思い出し、そしてこう思った。




「多様性が、あればいいというものではない」

「カワセミ先輩?」


 場所は攻略サポートの現場となる、名もなき中級ダンジョン。

 いや、名もなきというと、もしかしたら語弊があるかもしれない。


 前回の初級ダンジョンを、暫定でゴブリンダンジョンと呼称したように。

 この、なんの情報も知らされていなかった中級ダンジョンにも、あえて何か名前を付けるとしたら。


「カオスダンジョン……」


 カワセミの低い呟き声を、新人三人は不思議そうな顔で聞いた。


 ダンジョンの進度としては、ドラ子が落とし穴に盛大に落ちて無限ループをした入口から、一時間ほど進んだ所。

 このダンジョンは、通常の洞窟や石の通路とはまた違う感じの、画一的な床や壁、天井に囲まれた、謎ブロック系のダンジョンだった。


 今までのダンジョンで例えるなら、基本ダンジョン攻略技術者試験の会場にあった、空中都市ダンジョンに一番雰囲気が近いだろうか。


 この手のダンジョンの特徴としては、モンスターが生態系を築いているというよりは、魔力かなにかで迎撃の為に用意されている(設定)とか。

 罠が原始的なものだけではなく、機械仕掛けの罠の設置も多いとか。

 何か卑怯なことをすると、警備システム的なものが発動してペナルティがあるとか。

 どちらかと言えば、モンスターどうこうというよりも、設計者の意図を読んで進んで行くのが正攻法となることが多い。


 とりあえず、カワセミのその所感は一度置いておく。

 この時点で、トラップに関してはある程度判断できたことがある。

 この場所は、警戒していたほど殺意溢れる設計にはなっていない。


 ウェルカム落とし穴こそあったが、あれは完全に設計ミス故のデストラップ。

 本来は普通の落とし穴だとすれば、意地が悪くとも殺意があるとまでは言わない。

 その他の罠に関しても、一度穴に落ちて警戒心が最大になったドラ子が、長い棒をぶんぶんと振り回していれば見つからないことはない位のもの。


 まぁ、この点に関しては、罠の設置が割と『素直』だったことに加えて、ドラ子の天性の勘が成せる技だろう。

 実際、同じ新人であってもビッグ天丼やマイマイは、ドラ子が見つけた罠に度々驚いていたりする。

 もちろん、これは新人が悪いというわけではない。


 たとえばビッグ天丼やマイマイであれば、通路に設置する罠のセオリーを考えて『あの辺に罠がありそうだ』などとあたりを付けて進むだろう。

 ダンジョンの構造上『ここに罠があったら嫌だな』という場所は往々にして存在する。

 曲がり角の死角だとか、開く扉のちょっと脇だとか、段差になっている通路の下だとか。そういう意識の隙を狙う罠は、気をつけていれば逆に気付けるものだ。


 当然、それは実際の冒険であってもその通りで、その通りだからこそ、そういったセオリーを外した罠なんかが混ざってくると引っかかったりもする。

 そういうところは、中級ダンジョンらしさを生む良いアクセントになる。


 だが、ドラ子はセオリーとかじゃなくて『なんかあの辺』で、的確に罠の場所を突くので、そういう『知っている人を狙う』ような罠をよく見つける。

 これに関しては、監督している側のカワセミをして、初心者とは思えぬと感心するところであった。


 まぁ、逆にセオリー通りの罠に普通に引っかかることもあるので、プラマイゼロだが。

 思うに、ドラ子は罠の脅威というより、悪意に敏感なのではないか。

 以前の試験の時にも、なんとなくドラ子の評価はそんな感じだった。


 とまぁ、カワセミのドラ子評はこのくらいでいい。

 現時点でこのダンジョンの罠について言えるのは、ドラ子が思いのほか相性が良かったということくらいだ。


 では、何に対してカワセミが『カオス』と評したかと言えば。



「モンスターの種類に、法則性が無さ過ぎる。コンセプトが何も分からない。コンセプトが無いのがコンセプトなのかしら?」



 そう。

 罠と違って、登場するモンスターの無秩序さについてである。



 最初に現れたのは、でかいダンゴムシとイモムシの虫コンビだった。

 次に現れたのは、フェアリーと木人の森の妖精コンビ。

 この時点で『森林テーマ?』と思ったが、その次は、空飛ぶ怪魚と転がる岩。

 次は、走竜と泥人形。

 コウモリ、スライム、雪女、リザードマン、グール、ムカデ、ローパー、スケルトン。


 とにかく、訳の分からない組み合わせのモンスターがこれでもかと出現してきて、カワセミは混乱の最中にあった。

 しかもそれらが別にシナジーを持っているとか、連携を取ってくるとかでもない。

 ただ、中級クラスのモンスターが無秩序に現れるだけなのである。


 探索装備であるにも関わらず、驚くほど苦戦せずに倒せるレベルである。


 先に述べたように、初級ダンジョンに比べて中級ダンジョンは、出てくるモンスターが多彩になる傾向がある。

 が、多彩になると言った所で、ダンジョン製作の根底にある部分はそう変わらない。


 それがコンセプト。

 このダンジョンは、こういうものを売りにしていて、こういう設計思想で作られているという、製作者の意志のようなもの。

 そのダンジョンで、何がしたかったのかという芯の部分だ。


 ゴブリンダンジョンが、ゴブリンを使った一癖あるダンジョンを作りたい、という目的が明白だったのと比較して。

 このダンジョンは、一体何がしたいのか分からなかった。


 中級ダンジョンらしい罠はたくさんある。

 中級ダンジョンクラスのモンスターも出てくる。

 中級ダンジョンらしい広さも、恐らくあるだろう。


 だが、それだけだ。


 このダンジョンが、世界のどこに、どんな理由で現れ、どんな冒険者が攻略しにくる想定なのか。

 そういうのが、今の所まったく分からない。


 分からせないのがコンセプトと言われたら『そうですか』と言うしか無いのだが、それははっきり言って悪手だ。

 意味の分からないダンジョンに、人気は出ない。

 だって、何をしに潜るんだ? って話になるから。


 極論を言えば、コンセプトの分からぬダンジョンは、あと一分進んだら唐突に古代遺跡っぽいステージから、雪山っぽいステージになるかもしれない。

 いきなり砂漠に、火山に、森林に、海底になるかもしれない。

 だって、何を考えているのか分からないから。


 カワセミはそのせいで、今とても困っている。

 いったいいつまで、ドラ子に先頭を任せればいいのか。


 それくらい、今の無軌道に罠が現れるステージとドラ子の相性が良い。

 逆に、ビッグ天丼とマイマイのような、対応性を高めた装備の出番がない。


 だが、本来ならコンセプト不明のダンジョンは、二人の装備が正しいはずなのだ。

 ドラ子のは、トライアンドエラー前提の、アバター再生成式特化装備のはずなのだ。

 どうしてそっちの方がハマってしまっているのか。


「……うーんでも、研修ですしねぇ」


 それ故に悩んでいたが、カワセミは決断することにした。

 恐らくだが、このフィールドがこの先変わることは無い気がする。

 ドラ子先頭で、勘に任せた斥候をさせるのが安定な気がする。


 だが、別にダンジョンの攻略が目的ではない。攻略サポートの研修が今回の目的だ。

 最適解を突き詰める必要はないだろう。


 ビッグ天丼やマイマイにも、挑戦するだけはして欲しい。

 罠の発見だけが斥候でもない。

 ──それに一時間ほど歩いたので、そろそろ、いいタイミングだろうなと、カワセミは経験で培った勘で考えていた。


「うん、ドラ子ちゃん絶好調だけど、そろそろ先頭を交代してみましょうか。色んな人のやり方を見てみるのもまた勉強ですからね。じゃあ次はビッグ天丼くんで」


「はーい!」

「了解しました」


 カワセミの指示で、ドラ子とビッグ天丼が先頭を交代する。

 パーティの一番前に立ち、こちらを振り返ったビッグ天丼は、ふっと意味深に笑った。



「後ろから見ていて良く分かった。このダンジョンは罠の設置の仕方にやや特徴がある。僕はここから一つのミスもしないっ!」



 凄い自信だ、とカワセミは感心した。

 そして意気揚々とビッグ天丼は歩き出し──





「うそだぁあああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………………」





 十歩目くらいでパカッと開いた落とし穴に落ちて行った。


「やっぱり、そろそろ油断する頃だもんねぇ」


 なんとなく、本当になんとなくそろそろあるかなと思っていた。

 こういう飛び道具みたいな落とし穴は、油断したころにまた変な所に現れるのだ。



「ぎゃははは! 『僕はここから、一つのミスもしない(キリッ)』──だってお!!!!」

「ドラ子さん……」



 悲鳴が反響していくダンジョンの中で、ドラ子の汚い笑い声がやたらと響いていた。




ぎゃはは笑いが似合う美少女(自称)

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― 新着の感想 ―
やっぱりこのドラゴン・・・・・ 目隠し眼帯と首枷と手枷と足枷と腕枷と太腿枷と口枷を着けて、 何も見ることも聞くことも動くことも話すことも考えることも思うことも出来ないように意思も思考も感情も身も心も戒…
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