退団
ラルクアン視点です。
守衛騎士から城門で面会を求めている者が居ると言うので、王太子殿下に許可を取り急いで向かうとエリーの店の常連であるヤンギルさんとマタイさんが焦った顔をしている。エリーに何かあったのだろうか。
昨晩は、セラフィム殿下がエリーを怒らせた。いや正確には王城に来た時には既に機嫌は悪かった。短い期間しかまだ一緒に居ないが、あんなに不機嫌な彼女は初めて見た。後を追おうとしたが、執務中の王太子が動かなければ、護衛騎士が離れる訳には行かなかった。仮眠を交代で取ったまま帰宅すらしていない状態では今のエリーの状態をしる術は無い。
「エリーの彼氏さんよ。エリーは何処へ行ったんだ?昨日はまた明日って言って居たのに何があったんだ?」
ヤンギルさんがクシャクシャの紙を出して来た。
ご愛顧頂いている皆様へ
エリーのカフェは突然ではありますが、昨日を持って閉店させて頂きます。数ヶ月ではありますが、良くして頂きありがとうございました。
もし、またお会いする機会がありましたら宜しくお願い致します。
エリー
居なくなった?何故だ?
『アレクさんも店の周りウロウロするし、引っ越ししようかな。って思っているんだけど。』
あの時は俺とアテナさんの手を借りて引っ越しと言っていたが。これは俺とアテナさんにも行き先を告げるつもりが無い?
「南の魔女アテナー!」
城門付近でアテナを呼んだ。早く来て欲しい。
「ラルクアン。久しぶりねぇ。どうした?呼ばれた場所も凄いけど。」
周りを見回し苦笑する。
「エリーが居なくなったのはご存知ですか?」
「何で?カフェはどうしたの?」
ヤンギルさん達が持って来た紙を差し出すと奪う様に取り読み始める。段々と顔が険しくなっていく。
「何があったの?」
「俺が知っているのは、セラフィム殿下にプロポーズをされて、怒っていました。」
アテナは大きな溜息を吐いた。
「だから来るなって言ったのに。」
マタイさんがアテナと俺の顔を交互に見ながら
「大分前に、この兄ちゃんが王太子付きになって店に来なくなって、エリーが弁当届け始めたんだよな。」
俺が頷くとアテナの表情には怒りが顕になった。
「そんな事したら逃げるのは当たり前じゃない。また独りぼっちになっちゃうじゃない!探さなきゃ。ごめん。行くわ。」
アテナはあっという間に消えた。
「エリーはもう店やらないのか?」
解らない。そんな事解らない。でも今やらなきゃいけない事は分かる。
「ヤンギルさん。マタイさん知らせてくれてありがとう!」
二人に手を挙げて礼を言い、駆け出した。騎士の控え室に行き自分の荷物を纏めて、退団届けを急いで書き上げた。退団届けを手に持ち王太子の執務室へ向かった。ノックをして許可を得て中に入ると殿下の前へと進み退団届けを机に置いた。
「何だこれは。」
王太子の目が鋭く射抜く。しかし、怖いものなんか無い。もっと前にこうすれば良かったんだ。そうすればこんな馬鹿話しにエリーが付き合う事なんか無かったんだ。
「本日を持って退団させて頂きます。」
「ダメだ。許可出来ない。」
「いいえ。辞めさせて頂きます。これから大切な人を助けに行かなければなりませんので。」
「エリーに何かあったのか?」
教えるべきでは無い。教えたら王家はエリーを力ずくで探し出す。嫌がるエリーの気持ちなんてお構い無しに。
「私的な事です。申し訳ありません。」
腰を折って礼を取り、直ぐ様騎士の控え室へと向かい荷物を持って、エリーの店へ忙しいだ。
アテナから何かあった時の為にと預かった鍵を取り出して開けた。カウベルが響き渡る。
しかしテーブルには布が掛けられていて、それを見るだけでもエリーが居ない事が伺える。2階へと向かう。
エリーの部屋に入ると綺麗に片付けてあり、テーブルに俺とアテナ宛の手紙が置いてあった。
ごめんなさい。場所を言ってしまうと二人に迷惑掛けるので、黙って出ます。探さないで下さい。
今までありがとうございました。感謝しています。
俺を助ける為に4回も殺された癖に。感謝するのは俺の方なのに。クローゼットを開けてみると、アテナが
『何かがあった時の為に。』
と作ったドレスだけが一着掛けられていた。
今の俺の様にポツンと寂しげに映った。
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