“ティーハウス”と、クラシック。
“私立・羽澄高校”とは、先に述べたが、創設者を『華月 陽藍』とする。彼は文字通り此の学園を『創設』したのだ。つまり『設計』し『創り上げた』のだ。故に此の学園には、『普通』は無い要素を含む部屋部屋が、存在した。此の『ティールーム』も、然りだ。活用頻度は、乏しいのだが………其れは又致し方無いのだろう。『創る方』が、可怪しいのだから。
仲村 叶は本日、此の部屋をみて、そう思ったのだ。『こんなものある方が、おかしい』と。
「………こちらって普段、…………どうされてるんですか?」
だから仲村は思わず横の和希に問い掛けたのだ。和希は不思議そうな顔をした。そして言った。“は?”と。
ひとつの高校に存在する、本格的クラシカルなティールームに、仲村の感情の方が当然なのであろうが、羽澄の“スタンダード”は“こういう感じ”だったので、今此処では仲村の方が、浮いていたのであった。
「………、あ〜、そうですね。“会議”に使用したりとかですかね。近隣との“懇親会”を兼ねる“場”なので。」
和希の其の言葉に、都内エリア出身では無い仲村 叶は、意味を理解し得なかった。近隣エリアに存在する『他校』との、『情報交換』を目的とした『会議』とは、都内エリアでも『珍しい』のだが。
「………え、あ、はあ…………。」
結局問い掛けた仲村は、理解出来ぬまま、会話が途絶えた。和希は忙しかったのだ。部屋に入ると直ぐに、来賓との会話に突入してしまい、戻って来なかった。本日彼は、“華月 陽藍”の『名代』といった処だった。招かれた面々は、陽藍と和希の関係を、知っている者達だったからだ。其処へ海や敦之も加わって、和希により来賓の彼等へと紹介が為されて行く。まるで“異世界”だった。仲村 叶には。彼は自分をそう思った。『場違い』だと。
海はそんな中、仲村を来賓へと“紹介”したのだ。『ショコラティエ』だと。
× × ×
「今日の『ショコラ』を作ってくれた『仲村 叶』さんです。過去に“マリージョア”コンテストの覇者と成った事もある、実力者です。高校の文化祭に善意で御参加いただけるとは、思っていませんでした。“お願い”ってしてみるものですね。」
海はにこりと、ほほ笑んだ。仲村はふと思った。自分は乗せられたのでは?と。
疑問解消せぬままに、周囲ざわついたのは、『華月 陽藍』の登場によってだった。『陸』と『六男』、華月 『悠太』が一緒だった。
歓喜したのは『海』だった。顔を綻ばせて叫んだ。「! 悠太兄さんっ!」と。
其の悠太はふわりとした笑顔で、其れに返したのだった。仲村がどきりとしてしまう位、美しかった。華月 悠太とは二十代も後半にして、未だ衰えぬ『美少年』為らぬ『美少女』フェイス・健在だった。
「海、お疲れ様。ごめんね? “洸”君は、仕事で“無理”だった。僕だけで“ごめん”ね?」
悠太は寂しそうに、海へと笑ってそう言った。海は否定した。
「! 悠太兄さん居れば、大丈夫! 来てくれると思わなかった! 凄く嬉しい!」
悠太は“うん”と、頷いた。それから顔を上げて言った。“和希さん”と。
「今日は、和希さん。」
「よっ、悠太君。忙しいのに、態々。お茶楽しんでってね〜“焼き菓子”も有るよ。」
「有難う御座ます。相変わらず“羽澄”の『ティールーム』は、豪華ですね。『花園』は男子校だったから、もっと質素だったので、羨ましいです。『音楽科』が在れば、僕も羽澄が良かったかな。」
と、悠太は笑った。敦之が『残念だったな』と残念でも無い顔で、そう言った。
其処で『陸』が、発言した。“駄目だよ”と。
「悠太、御前に“羽澄”は『無理』だからな?」
「? 陸兄ちゃん? どうして?」
陸は悠太へ応えた。“当時の羽澄は”ーーーー「 柄が悪かった。な? 敦之?」と。
「何言ってんだよ、陸君。 俺よか隼人だろ。 なあ? 隼人?」
敦之はしれっと、そう返した。は?と言ったのは其の隼人だった。
「何言ってんだよ。 俺は“大人しかった”ぞ?」
「隼人さん、“嘘”付き。」
「………………和希、“フォロー”は“御前の仕事”だろ。 “嘘”付き言うな。」
「……………嫌、あの…………」
いたたまれなく、フォローしたのは“悠太”だった。
「あ、ピアノ。」
悠太はそう言った。海は喜んだ。
「“先生”にお願いしたんだ。陸兄ちゃんに用意して貰ったんだよ。“雰囲気”大事かなって。」
そう勝ち誇った海へ、悠太は言った。“弾こうか?”と。海は満面の笑みだった。そして父へと声を掛けた。父の返答は、海には意外なものだったが。
「心配するな、持って来てるよ。どれ、じゃあ“弾いて”やるかな。」と。
父、陽藍はそう言ったのだ。陸以外は皆、動揺してみせた其の中で。
† † †
「………………何か黙ってるなあ〜此の人と思ってたら。意外なとこ、突いて来た。あ、はい、どうぞ。悠太君も、お願いします。」
和希はそう言った。
「……………、お父さんとって、凄く緊張します。…………和希さん、代わりませんか?」
「駄目だ悠太、御前“プロ”だろ。 滅多に無い機会だから、行って来なさい。」
「……………、陸兄ちゃん。…………。はい。お父さん、宜しくお願いします。」
“華月 悠太”は、丁寧に。父“陽藍”へと頭を下げた。美しい仕草で。父は笑みで返した。“余り緊張するな”と。
「悠太、リラックス。俺が“緊張”するだろ?」
海は父の意外な申し出に、高揚して在た。××××××
さっさと準備を整えた華月 陽藍は、舞台へと向かった。特に台座が在る訳では無く、海の要望に依り設置されただけの、グランドピアノだったが、もとより“ステージ”に向いた『造り』をしていたのは、設計した陽藍本人の狙う処で在り、『本来』の使い方なのだ。何しろ『ティールーム』なのだから。
海がティーサロンと、言い間違える位の。伝統的『クラッシック・ルーム』仕様なのだった。そうーーーー普通の、『一、高校』なのにだ。さておき。
陽藍と悠太の演奏が始まったのだ。和やかな空気の中で。とても優雅なひとときだった。
途中。
奏者が、入れ代わる。〜父と息子が。〜奏でる立場を、入れ替えた。歓喜が起きる。其のデモンストレーション・パフォーマンスに。舌を巻いたのは“ジャン・スモ”だった。横で観ていた海と陸に呆れられなから。××××
ひとしきり演奏が終わると、微笑んだ陸がーーーー海を見た。そして言った。“海も弾こう”と。××××
ぽかんとした弟を、兄は“ステージ”へと手を引いた。先で待つ父と弟の“もと”へと。
ヴァイオリンの中でも『名器』と呼ばれる『モデル』の其れを持たされた海は、兄悠太に伴奏されて、辿々しくも、身構えたのだった。ヴァイオリンの『名』は、『フェアリー』だった。『此の場』に相応しくも。
結論だけ伝えるなら、“華月 海”は此の日、校内外で、更に有名な『存在』と為ったーーーーと、だけ。××××××『天才』と。勿論だが、当人のみは『無自覚』である。『以前』よりもとよりで。
海が『演奏』に必死で、目を回し終えた頃合いで、陸は海から『名器』を受け取った。
当然の様に陸は「橋本君ーーーー」と、そう呼んだ。××××××
† † †
呼ばれた橋本は“あ、やっぱり?”ーーーーと言った顔で、彼の元へと、歩んだ。
横で隼人は“何で??”ーーーーと言った顔をしたが、敦之は和希と同じ苦笑いだった。××××
陸の処に和希が着くと、満足気な陸は、「敦ーーーー」と、彼を呼び寄せた。
勿論。
箇の『ジャンピング・スモール・スモール』の、面々は、摩訶不思議顔だった。
其の日、結論だけ云うならば。
『シークレット・スペシャル・サプライズ・ゲリラ・ライブ』の話題より、『話題のショコラトリー』の噂より、
『羽澄始まって以来の問題児集結の世代』の『意外な特技』として『都市伝説』並だった『と或る金髪不良イケメンの、プロ並みのヴァイオリン演奏が聴けた伝説のフェアリー祭』のーー『再来』として、
『バズった』のだった。勿論当人達知らぬな処で。
後日。
佐木 隼人に呼び出された仲村 叶は、言われた。『関わると面倒臭い人達』なんだよねーーーーと。
「悪気は“無い”んだけどね。」
“そうそう”と横で帽子とサングラスキャラの『ヴォーカリスト』が、頷いて在た。『メンバー』と一緒に。
仲村 叶は、陽藍の『依頼』を、受けたのだった。
× × ×
“良かったのか?”と、佐木 隼人に聞かれた。彼は答えた。“ああ”と。
「『橋本さん』ばかり警戒してたけど、むしろ『カモフラージュ』だったみたいだな。まんまと『海君』の思惑通りだろ。ーーーー」
『嫌ーーーー』と、滝 蓮は遠慮がちに言った。メンバーと顔を見合わせる。仲村は訝しむ。
山田 理一が、遠慮がちに言った。『全部だよ』と。仲村には理解出来なかった。滝が又言うーーーー
『あの人達って』と。隼人が言葉を引き継いだ。
「言っとくけど。彼奴等『ぶっつけ本番』だよ? 台本『無し』だよ? 海は確かに『悪巧み』だけど、陽藍おじさんは『黙認』してるしさ?
一応言うけど『悠太達』もーーーー、だよ?」と。
目を丸くする仲村 叶に隼人は淡々と説明した。あの人達「悪気無くとも元々の『質』、悪いからーーーーーー」と。『悠太も陸君も』ーーーーーー
「“敦之”も今回グルだよ。」と。「絵理撫さんもーーーーな」と。
「大概知らない間に『ミッション』が始まってて。気付いたら『決断』するんだよね。『乗るか剃るか』を」
「あの人達『兎乱獲』するタイプだから。」
と、瀬野尾 太一は、オーバーリアクション気味に、そう言ったので在った。俺達はいつも負けてると。
「今回も和希君『Get』出来なかったな。」
太一がそう言った。大和が呆れて窘めた。理一がそれよりもと言い出した。
「うちの義弟君にびっくりだわーーーー今回。」と。“彼奴ヴァイオリン弾けたの?”と。蓮が言った。
「“叶”さん、対抗してヴァイオリンかギターで『ジャン・スモ』参加します?」
ぎょっとした隼人を置き去りに、仲村は答えた。“遠慮します”と。
「『畑』違いなんで。ーーーー挑むなら『佐木 隼人』にでも『しときます』よ。『勝てそう』でしょう?」と。
笑い出したジャン・スモを余所に、言われた佐木 隼人は、後日陽藍に正式に『断り』を、伝えたのだった。『和希と敦之には、暫く言わないで』と付け加えて。




