ドライアイのやつ!
この世界で唯一のもふもふとの別れ。
私は切ない思いで手を振ってその背中を見送った。
「でも、逃がしちゃって良かったの?」
「居場所が分かる魔道具を付けておいた。森の周辺に繋いでおくよりは安全だろう」
わお、GPS。
魔道具でGPSの代わりまで作れちゃうのね。
まあ、魔法を使える人は魔力を感じられるらしいから、それを利用すれば案外簡単なのかもしれない。
魔力を発するようにしておけば良いだけだからね。
私はまだ魔力を感じられないけど。
身体の中に流れてる魔力は分かるけど、外に出ちゃうともうダメ。
それを証明に、魔力感知のスキルはいまだに取れていない。
だからGPSもどきの魔道具を使っても、私にはさっぱり分からないのだ。
「ただ魔力を発してるだけではないがな」
違うの?
魔力以外にも何か発してるの?
逆?
強い魔力を発すると魔物が寄ってきちゃう?
魔物が好む魔力の性質を隠して、魔物が好まない魔力だけを強めてるの?
ふうん、電波の周波帯みたいなもの?
なんにせよ馬が襲われないならいいよ。
借り物だしね。
仕組みを詳しく聞いたってどうせ分かんないし。
それじゃあ森の中に行こうか。
でも、これどうやって入るの?
なんか鬱蒼としすぎてない?
森ってもっとこう、木漏れ日が差し込んでキラキラしてるイメージだったんだけど。
これ、足の踏み場もないよね?
人は全く踏み込んでない場所みたいだね。
うん?
どうしたの、しゃがみ込んで。
おんぶ?
馬を降りたら、今度は骸骨に乗るの?
確かに私じゃこの森を歩くのは難しいだろうけどさ、おんぶとか、二十歳過ぎてやるものじゃないでしょ?
酔っ払ってるわけでもないのに、恥ずかしいよ。
誰も見てないけどね。
乗らないとこの先には行けない?
そうなんだけどね。
うーん、まあ、仕方ないか。
よいしょ、っと。
重くない?
大丈夫そうだね。
そりゃそうだよね。
クリスのステータスなら、きっとどんな巨漢でも軽々と運べると思うよ。
私は重くないけどね。
城では自堕落な生活をしているけれど、ダンジョンに潜ってるから運動不足ではないし。
むしろ前世よりスタイル良くなってるんじゃないかな。
おっぱいは大きくないけどね。
おんぶされるのなんて何年ぶりだろう。
クリスって、おんぶしてもらいやすいね。
骨だから掴むところいっぱいある。
骨なんて掴みたくないけどね。
ゴツゴツしててちょっと痛いかもだし。
それで、どうするの?
「うわっ!」
跳んだっ!?
すごい!
跳んでる!
私は風になったんだっ!
じゃなくて、怖い!
ちょっ、跳び過ぎじゃない!?
これ、人間の跳躍力じゃないよ。
人間じゃないけどっ!
何で助走もほとんどなかったのに棒高跳びくらい飛べちゃうわけ!?
ステータスの産物なんだろうけどさっ!
怖い!
落ちる!
怖い!
すとっ、と意外と衝撃なく着地するクリス。
ってか枝の上に着地して飛び移るとか、どこの忍者か。
すと、すと、すと。
着地の衝撃はほとんどないんだけど、ずっと飛び移ってるからガックンガックン。
うう、酔いそう……。
ってか速い!
速いよ!
何で馬から骸骨に乗り換えて、骸骨の方が速いわけ!?
森の中なのに!
おかしいよ!
おかしいよ、異世界!
ガックンガックン。
うう、気持ち悪い……。
飛んで、飛んで、飛んで……。
私の意識まで飛んでしまいそうだ。
あ、今上手いこと言った。
上手いこと言った、私っ!
高速道路みたいなスピードで走り続けるクリス。
遮るものが何もないので、ゴォゴォと吹き付ける風で目が乾く。
目薬プリーズ!
ドライアイのやつ!
目が痛いから目を閉じる。
目を閉じると何も見えないのに、風と振動で高速で移動していることだけが分かる。
余計に怖い!
「たーすーけーてー!」
叫んでみた。
口の中にまで風が入り込んで来て、口が乾いた。
口乾くと口臭酷くなるっていうよね。
大丈夫かな?
ぴた、とクリスが止まる。
「何か言ったか、主よ」
私の叫びが聞こえたらしい。
「……………………」
声を出そうとしたら出なかった。
喉が乾いて張り付いたような痛みがある。
み、水……。
声は出ないけど言いたいことは分かったのか、クリスが魔法で水を出してくれる。
ごくごく。
「あー、あー」
声は出た。
クリスに乗る時は水が不可欠だ。
あとはドライアイをどうにかしてほしい。




