79話 急襲
自重を止め、力押しすると決めた後の俺の行動は早かった。教国の大まかな方向を皇帝から聞き出し、そちらの方角へ向けてゴルラドを飛ばせる。ちなみに村長達は安全のために一緒に来ていたイレーネさんに渡してかばんごと持って帰ってもらった。何かあったときに足手まといとなっても困るからね。
教国へはゴルラドで飛び続けて一日ほど。細かい場所が分からなかったため、いちいち下に下りて方角を地元住民に確認するのが面倒だった。さすがになにもしていない村の上にゴルラドで乗りつけるのは可愛そうなので、ちょっと遠くで降りて村に行き、場所を聞いてまた戻りというのを何度かする羽目になってしまった。
やっとたどり着いたヴァレ教国の首都は・・・とても立派だった。もちろん立派と言っても褒め言葉ではない。宗教国家と言う割りに、その総本山はどう見ても軍事施設の様相を呈していたのだ。
教皇様様がお住まいになる大聖堂?こそ立派な、大層立派な教会だった。けれども。その周りにあるのは軍隊の養成所みたいな所だったし、俺達が行ったときも大勢の兵士(聖騎士とか聖教兵とかいうらしい)が訓練をしていた。その上、町を囲う城壁は30mはあろうかと言う巨大さだった。一体なにと戦うことを想定してるんだか・・・。
城壁の上にはバリスタや大砲のような物も置かれ、とてもじゃないけど神に祈るのに必要な施設には見えなかった。これらの防備が迫害された結果と言うのならまだ分からなくもない。だがこの世界で最大の宗派だということだし、この壁を作ったのも30年ぐらい前だということだ。300年前ならともかく30年前には人間の支配がかなり今と近い状態になっていたはずだ。完全に示威行為である。
ゴルラドから降りて城門で長時間並び、そのはてに教会に赴いた所で素直に教皇に会わせてくれるとは思えない。向こうからすればどこの馬の骨とも知らない若造だからね。いきなり教皇に会わせろ!と言っても頭がおかしい人として攻撃されるのが関の山だろう。
そんな訳で最初からスマートに教皇に会うことを諦めていた俺はゴルラドで直接乗り付けた。大聖堂前の階段がゴルラドの勢いに任せての着地で崩れたけど、見なかった事にしよう。強気!強気の交渉で行くんだ!
ゴルラドの着地でとても大きな音がしたし、突然のドラゴンの襲来だ。わらわら、わらわらと軍人を始め、司祭や枢機卿などの高位者まで出てきた。もちろん枢機卿等のえらそうな人たちは後ろの方で指示出しているだけで、ゴルラドを囲んでいたのは軍人だけだが。
最初に驚いたのは、軍人とはいえゴルラドを躊躇なく囲ってきたことだ。ゴルラドは性格はともかくとして強力な力を持ったドラゴンである。それをなんの準備もなしに囲ってくるなんてかなりの異常事態だ。そう思って鑑定してみると、どいつもこいつも新型の竜殺しを武器として所持していた。新型の出所はここだったようだ。その他にも竜の鱗を主材料とした盾や、防具などもたくさん所持している。こいつらの装備のためにどれだけのドラゴンが犠牲になったやら・・・。俺の自己満足だというのは分かっているのだが、もしかしたらゴルラドの親族かと思うといい気分がしない。ゴルラドも装備の素材を理解したのか珍しく怒りの感情を周囲に放っている。
相手にそこそこの余裕があることを理解した上で、わざわざ彼らに言ってやった言葉はこんな感じだ。
「おう、アホの教皇だせや。さっさとしないと焼け野原にすんぞ!(意訳)」
当たり前だけどそれで素直に出てきてくれる訳もなく、むしろプライドを傷つけられたようでかなり激怒していた。
「ふざけるな!この神都に侵入しただけでも許せんのに教皇様に会わせろだと!?そんな動けもしないドラゴンごときで俺達がびびるとでも思ったかっ!死ねっ!!」
隊長の言葉を合図に四方から竜殺しで切りかかってくる。これが耐性のないドラゴンならそのままろくな抵抗も出来ずに即死だろう。むしろこれだけの竜殺しに囲まれてしまっては動くどころかそのまま呪いの効果だけで息絶えてもおかしくはない。
だが俺が鍛えたゴルラドに新型だとしても竜殺しなんぞ効かん!
「グルアアアアアアアア!!」
ゴルラドが咆哮とともに尻尾で周囲をなぎ払う!動けなかったはずのドラゴンからのカウンターに対応できた者はおらず、飛びかかろうとした全員が弾き飛ばされた。きれいにぐるっと一周分弾き飛ばされた兵士達は石畳に突き刺さったもの達がほとんどで、受身を取れた者はいなかった。突き刺さらなかった者たちも他の兵士に当たって大怪我したり、尾の一撃で首が飛んだりと無事な者はいない。
「こ、これだけの竜殺しに囲まれてなぜドラゴンが動ける?しかもこの者達が持っていたのは開発されたばかりの新型だぞ!?」
「そりゃ竜殺しが一切効かないからに決まってるでしょ?」
「な・・・に?」
「だから、このドラゴンには竜殺しが一切効きません。分かった?」
ついさっきまで嘲りの表情を浮かべていたお偉方も、青い顔をして固まっている。この世界最強の生物に唯一対抗できたはずの手段を失ったのだ。しかもそいつがいるのは自分達の目の前。短期的にみては自分達の命。長期的にみても自分達の宗教の象徴たる神都を破壊されることによる権威の失墜。どちらで考えても絶望的な状況だろう。
「それで教皇はまだか?」
「し、し、しばしま、待て!」
「え、待てって命令?ねえ、今俺達に命令した??」
「い、いや、お、お待ちください。い、今すぐ、呼んで参りますので!」
「待つのはちょっとだけだぞー」
この世界の枢機卿達の実態は知らないけど、聖職者でありながら肥え太ってたんだからたぶん悪人だろう!だからいじめてもいいよね!
しばらくゴルラドの上で座って待っていたが、誰かが出てくる気配もない。取り残された司祭達がこちらの様子を窺いながらも、奥から早く出て来いとばかりに頻繁に振り返っている。
日が暮れるほど待っている訳ではないので、実のところもう少し待っていても構わないのだが、ここは更なるプレッシャーを与えるところだろう。
「ねえ」
「は、はは、はい!」
「教皇の腰はどうやらかなり重いようだね。ここはひとつ少しでも早くお出ましになれるよう、こちらの力をもう一つ見せておこう」
「い、いえ、結構であります!も、もう十分お力のほどは、はい」
「いや、さっきのこのドラゴンの攻撃だけではドラゴンさえ押さえ込めればまだなんとかなると思わせてしまったんだろう。すまない。こちらの落ち度だった。だからこのドラゴンを押さえ込んだところでどうにもならないと言うことを見せてあげよう。そっちの壁にご注目!」
ゴルラドに司祭を見張らせたまま、30m?の壁に向かって走っていく。そしてパンチ一発。壁の一部を完全に砕いてやった。自慢であろう壁には直径5mほどの大穴が出来た。一応の修復は出来るだろうけど、これで安全の象徴としては片手落ち間違いなしだ。
俺が聖堂前に戻ってくると司祭たちは今にも死にそうな顔をしていた。
「それで、教皇様はまだ?早く呼びに行ってくれない?」
「た、ただ今!」
「今すぐ!!」
あ、高位の人間が全部行ってしまった。自分が助かることだけを考えて逃げるなんてひどい奴らだな!
次回更新は3/11です。




