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77話 戦争

後半は視点が複数変わります。

城壁の上に戻ってみると帝国の軍隊は三方に分かれての布陣を始めていた。この国の一辺はがけに程近いため、そちらの方向へは軍を配置することは出来ないし、俺達も逃げられない。そのため、残りの三方から押して来るようだ。主翼、右翼、左翼、そして山脈という壁で四方を囲まれている俺達に逃げる場所はない。


俺の実力が先ほどの奴らによって、正確に伝わっているのならこれだけの囲みをしても意味はない。最悪ほぼ壁と言えるような山脈を駆け登る事だって出来るのだから。そういう意味でも獣人の殲滅か捕獲が目的に見えるのだが・・・。


「どう思う?」


「本当にご主人様と私達が狙いだとするならこの布陣は確かに無意味ですよねぇ。狙うなら少数精鋭。私達を上回る人材を投入するしかないですし・・・」


「ケンさんの実力を過小評価されてるのでは?情報源が先ほどの方々ですし・・・」


「そっちの方が濃厚かな?俺に実力があるとは少しも考えてなかった様子だったし」


さっきの態度を鑑みるに、俺なんて芝居が上手な詐欺師ぐらいに思ってたことだろう。っと、そうなるとあいつらは俺の特訓は受けてないのだろう。もし受けた上でそう思えたのならよっぽどのお花畑なんだろうしな。




「よし、敵が布陣を終える前にちょっかいかけるか。事前の通達どおり、俺達は敵の指揮官を狙って軍を荒らすことにする。君達は万が一にも城壁を越えられないことに終始せよ」


昨日の作戦会議で俺とアイラが遊撃として指揮官を殺して回り、オリヴィアがとにかく魔法を打ちまくるということが決定している。俺とアイラで相手の指揮系統を崩し、オリヴィアが打てば当たる状況を生かして、固定砲台になるのだ。昨日の時点では相手の布陣がわからなかったため、俺とアイラが一緒に行動する予定だったが、せっかく三方向に分かれてくれたのだから、一人一箇所でいいだろう。


「イエッサー!!」



・・・。


ちょっと調子に乗ってこの返事を一部に教えたら、勝手に全軍に伝播していた。敬礼もびしっとした格好良いものだ。怪我人も出さなかったし、そんなに厳しくしたつもりはないのだが、途中から俺の返事にNOと返すやつはいなくなった。やりすぎた感がないでもないが、知らないふりでいこう。戦う以上この方が便利だしな!


「それじゃ、二人とも一応気をつけて!」


「「はい!!」」


二人に声をかけた後、垂直の城壁を駆け下りる(・・・・・)


最後にどんっと壁を蹴ってぽかーんと俺を見つめている最前線の兵の前に降り立つ。


「死にたくなきゃ避けるんだぞー」


一応声だけかけた後、ジャンプして先頭を飛び越える。いちいち歩兵を相手にする気はないので頭を踏んづけての移動だ。当然頭を踏まれたやつは死ぬが、そんなことに構う気はない。俺達の縄張りに侵略してきたのだ。当然殺される覚悟は持っててもらわないとね。


「あなたがこの辺の指揮官で間違いない?」


大勢の歩兵の真ん中に馬に乗った集団がいた。たぶんなんとか家という立派な名前のつく貴族だろう。衣服も戦場とは思えないぐらい華美だしな。


「え、なっ!?」


動揺しすぎてまともな返事が期待できなさそうだった。それにまあどんな返事が来たところで指揮官クラスは殺さねばなるまい。馬に乗ってそこにいた12人の首を、まとめてはねた。




アイラ自身も無駄な人死を出す気はなかったが、手加減して自分達が舐められるつもりもなかった。そのため自身と相対した不幸を恨んでくれとばかりに、手加減抜きで攻撃をした。


「ハッ!!」


その膂力でもって長く持った斧槍を体ごと使って振り回す。運悪く刃の位置にいた人間は上下に別れる羽目になり、柄の部分に当たった者は周りの人間を巻き込んだ上で吹き飛んでいく。もちろんアイラの出現に気づいた者達は、その武器が振られるさまを見て盾、武器、防具などを用いて攻撃を弾こうとする。しかしオリハルコンを鍛えて作られた斧槍の切れ味と、アイラのパワーの前にはそのすべてが無意味であった。アイラの前に立った人間のことごとくが一撃で戦闘不能となり、その半分は死んだ。運よく一撃死を免れた者も、鎧のまま空を飛ばされてはそのほとんどが助からない。一振りすれば密集していたはずの人間の群れにぽっかりと大きな空間が出気あがる。


「死にたくなければ、道を明けなさい!」


アイラは倒すべき指揮官を目指し、人間の山に大きな穴を穿ち続ける。




オリヴィアは最近になってやっと、人間に自分達魔族が滅ぼされたであろうことを諦めとともに受け入れた。獣人が主とはいえ、この国にはいろんな人族が集まってきている。にもかかわらず、自分の兄弟や家族、それを知る人たちは一人としていなかったのだ。竜の森方面へ逃げると言う家族の言葉を信じ、ドラゴン達の協力を得てかなりの広範囲を探したが、その姿を見つけることは叶わなかった。


自分をダンジョンから解放してくれたケンも同じ人間族であるため、普段はその恨みを口にすることはない。また自分が封印されていた期間を考えると、今攻めてきている人間達と自分達を追い込んだ人間達が直接関係ないことも明らかだろう。



だからと言って人間への恨みを水に流すつもりはなかった。普段は自分を抑えるストッパーたるケンもアイラも、ジークもいない。この国の人たちからの目は悪くなるかもしれないが、一度は吐き出しておきたい恨みだった。


「貴方達にぶつけるものじゃないことは分かっていますが、攻め込んできたのは貴方達です。おのが不明を恨みなさい」


オリヴィアの魔法ぜんりょくが降り注ぐ。



拳大に圧縮された火魔法が、オリヴィアの周りに次から次へと浮かんでいく。ある程度の数が揃うと遠く離れた人間の山へ散らばりながら突き進む。無数の火の玉が自分達に向かってくる様は、かなり異様な光景であった。しかしそのサイズを見た兵士達は恐怖の顔を、嘲りに染め直す。


「なんだ、脅かしやがる。ほとんど届いてねえじゃねえか!」


確かにこれだけの距離を消えずに届く技量はたいした物だが、こんな小さな火の玉で人間を殺すことはできない。それに魔法をあまり使えない下級兵であっても、抗える威力だと予想された。


「こんなもん、消えろ!」


一番最初にその魔法を弾こうとしたのは下級兵の中でも腕に覚えのある冒険者上がりの男だった。彼は冒険者時代に仲間の魔法を相手にたくさんの訓練をしてきたし、その手に持つ盾は魔法で強化された一品だった。


圧縮・・されたオリヴィアの魔法でなければ、その一撃で火の玉は何事もなかったかのように掻き消えたことだろう。


ドカーン!!


盾が触れた瞬間その小さな火の玉に込められた威力が一気に開放される。爆心地近くにいた3人ほどは即死し、その周りにいた兵士にも漏れた炎が飛び火した。


「ぎゃあああああ、熱いいいいい!!」


その爆発を合図としたかのように、軍全体で次から次へと爆発の音が連鎖する。嘲りを浮かべていた兵士達は、再度の恐怖に見舞われる。その爆発を間近で見たものたちは、パニックを起こして火の玉から距離をとろうとするものの、密集しているためにほとんど逃げることが出来ない。次から次へと爆発の、あるいは燃え盛る炎の犠牲者となっていった。




竜殺しの存在から、直接的な戦闘を禁止されたドラゴン達も、ただ戦いの成り行きを見ているだけではなかった。彼らにだって身内を殺された恨みがある。山の上から大きな岩を掘り出し、それをマジックバックに詰め込む。そして飛び上がり、高度数千mの上空からその巨大な岩をばら撒き始めた(・・・・・・・)のだ。岩であるがゆえに、オリヴィアの魔法の様に爆発はしない。しかし巨大な岩はそれだけで十分な質量兵器だ。そしてドラゴン達はその質量兵器の落下先を風魔法を使ってコントロールしていた。人間達がより多く存在するところへ、一つの岩でもより効果のあるところへ。ケン、アイラ、オリヴィアが叩かなかった森の中の軍人達は、森を突き破って落ちてくる岩にその命を削られていった。




準備に二ヶ月、移動に一ヶ月半をかけた帝国の軍隊が、戦場に留まれた時間は戦闘開始からたった15分。指揮官をピンポイントで殺され、兵士を燃やされ、潰されて、森の奥地からの壊走を余儀なくされたのだった。

次回の更新はお休みさせていただきます。

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