76話 憎き人間を排除するためなら
「いやー・・・人間多すぎだね」
国のある場所だけ5m?ほど地面ごと盛り上げ、さらにそこに作った石壁の上から終結した軍隊を眺めている。
「そうですね・・・。これでまだ森からはみ出した部隊だけというのがとても恐ろしいです。どうしてここまでして私達を滅ぼしたいんですかね?」
「俺にもわかんないなぁ」
アイラの言うとおり森からはみ出した平地には人、人、人。まさにアリンコのごとく大量の人で埋め尽くされている。弓矢の射程には誰も近寄りたがらないため、壁から離れたところに布陣している。だからこの見えるアリンコが軍のすべてではない。さらに多くの人数が森の中で布陣している。いわば見えているのは氷山の一角であり、先駆けの軍だ。元の世界の母国の思想と違うのであれば、やられてもいいはみ出しものの軍ということも考えられるが。
「もっと城壁のサイズが小さければ私の障壁で囲うこともできたんですけど・・・」
オリヴィアの空間魔法は今ではLv9となりかなりの広範囲を覆うことが出来る。ただ、いくらなんでも守らなければならない範囲が大きすぎてさすがにそれは不可能だった。国の中にまで乗り込まれた暁には障壁で覆って持久戦、というのも出来ないではないかな。
アイラの竜殺し対策はなんとか決戦に間に合った。耐性レベル10となり、無事カンストした。これで新型が大量に配置されていたとしてもアイラに悪影響を及ぼすことはなく、安心して戦場に送り出すことが出来る。戦場に安心して送り出すというのもおかしな話だが。
俺と一緒に戦いに出れるということでアイラはとても嬉しそうだ。はたから見ていると、これからショッピングにでも行くかのようだ。最近お留守番を命じて何度も悲しませていたからその反動なのだろう。少々浮ついたところでアイラに勝てる人材がいるとも思えないが、一応注意はしておこう。
人の山を肴に雑談に花を咲かせていると獣人の伝令が俺達を呼びにきた。
「イギーレ殿がお呼びです。至急お話したいことがあるとか」
「なんだろう?」
「さあ?今になって至急とは穏やかじゃありませんね」
イギーレ達が待つ作戦本部に行くと、そこではものすごい怒鳴り声が響き渡っていた。なんだなんだと駆け込んでみると3人の男が縄を打たれ、そいつらを怒鳴りつけている長集団がいた。縄を打たれた男達はその様に拗ねた様な態度で応じており、叱責されることに不満を持っているようだった。
「どうしたんです?そんなに興奮なさって。大声が外まで響いていましたよ?」
「あ、ケン殿・・・。申し訳ない!!」
俺の姿を認めたうちの一人が、素早く俺の前に来るといきなり土下座をした。ってなんだこりゃ!?
「ちょ、ちょっと、いきなり謝られても訳が分かりませんよ!」
「実は・・・」
土下座した村長はそのまま頭を上げなかったため、イギーレさんが解説をしてくれた。
それによると彼らが人間の軍隊をこの国の在り処まで呼び寄せた張本人達だと言うことだ。
「うーん。なぜそんなことを?同族である獣人族に何か恨みでも?」
「けっ、なにを馬鹿いってやがる。俺達が仲間に危害を加える訳ねえだろうが。俺達は仲間の正義のために行動したんだぞ」
土下座していた村長が顔を真っ赤にして立ち上がる。
「なにが正義か!貴様達のせいで、今実際に危機を迎えているだろうが!」
「じいちゃんはわかってねえな。この国は獣人の国といいながら、その影にはこいつらが、人間がいるんだよ。だからその害虫どもを同じ害虫で排除しようとしただけのことさ」
手が動かせないからか、あごで指し示された害虫はお察しの通り俺だった。こないだの件で少しはましになったかと思っていたのだが、害虫呼ばわりとは嫌われたものだなぁ。
「こ、こ、この大馬鹿者が!!!困っていた我らに手を差し伸べてくれたのがこの方々であろうが!この場所が我らの国としてあるのも、この方々のおかげ!それが何で分からんのだ!?」
「ふん。俺達だけだってここを開拓するぐらいできたさ。それに元々俺達が困っていたのは人間どものせいだぞ。それから人間が助けてくれたからってなんだって言うんだ。自分で困らせておいて、自分で助ける。こいつらの自作自演だろうが」
うーむ。個人と全体の考え方が、人間とは違うのかな?それとも彼らが特殊なんだろうか?行き過ぎた種族愛と、若者ゆえの万能感って所かな?
「俺達が嫌いなのは分かったけど、実際に攻め寄せてる人間達はどうするんだ?何もせずに黙って帰るとは思えないけど?」
「あいつらのトップとは話が付いてる。お前達を引き渡せば喜んで帰るとな!」
「俺達にそんな価値あったか・・・?」
「隠しても無駄だ!お前達がバックに溜め込んでる財宝と、竜人族と魔人族の体!これだけの貴重h、ぐはっ」
この国には獣人以外にも亜人と呼ばれる人族がたくさん住んでいるというのに、俺の排除のために竜人族と魔人族を躊躇なく生贄に捧げるとは。種族愛も行き過ぎると大変だなぁ。
「それで、人間側のどんな奴と交渉したんだ?って、一撃で伸びたのか。そっちの君、続きしゃべって」
「・・・こ、公爵だ。エンバリ公爵という奴と交渉した」
「内容は?」
「国の場所を教えることと、お前達の身柄を引き渡せば、ここを攻めないと約束した」
「その約束が守られる可能性は?」
「奴らが信じる神に誓ったのだ。間違いない」
・・・
え?ギャグ?
「ぶ、文章で残したりとかは?」
「当然してある。そいつのポケットの中だ」
一応気絶しているアホの胸ポケットを検めて見ると確かに羊皮紙に書かれた契約書があった。それによれば、俺達の身柄と交換で獣人の国家:プロヒの安寧を保障すると書いてあった。誓う先も間違いなく神様らしい。ただこの神様って・・・。
「ねえ。この誓った先の神様って人間以外は下等、人間に支配されるべきって奴だったよね?下等な獣人との契約なんて守るの・・・?」
「なに・・・?」
「それから俺達が逃げ出したらこの国間違いなく攻め滅ぼされると思うんだけど、そこは考えた?」
「・・・」
「君達の力で俺を捕まえられるなんて思ってない・・・よね?」
「・・・」
うん、だめだこりゃ。指摘されてようやく考えがいたったのか、真っ青になっている。自分達の正義に酔って特によく考えてなかったらしい。こんな穴だらけの計画で何であそこまで誇れたんだ。
「お、お前達が大人しくあいつらに捕まれば・・・」
「こらこら、生贄に捧げる相手の善意?に頼るとかあほか。そんなのうまく行くわけないだろうが」
村長達もなんとも言えずに、固まっている。顔を真っ赤に染めていた土下座さんも真っ青になるばかりだ。そもそも何かをとちくるって一度は兵を引いてくれたとしても、場所がばれてるのだ。今後攻めてこない保障はどうやっても勝ち取れないだろう。武力を相手に一度譲ったら、後は何度でも譲る羽目になる。そんなこと今までの経験で分からないものだろうか・・・。
とりあえず俺達が生贄になる選択肢はない。だとすれば外の連中を蹴散らすしかないのは先ほどと特に変わりない。あいつらがまっすぐたどり着いてしまったせいで修行時間が減ったのと、脱力する茶番を見たというだけだな。
「生贄になれと言うなら、今すぐ逃げ出しますけど?」
「そんなまさか!」
よかった。さすがにこいつらに迎合する人はいなかったか。
村長全員で面白い感じに首を振っている。
「じゃあまあアホがいましたけど、呼ばれる前とやることは変わらないので行きましょうか」
「戦っていただけるのですか?」
「ええ、あほが何人かいた程度で見捨てはしませんよ。それとこいつらのことは戦争が終わった後でいいので、しっかりと公表してくださいね」
部屋を出るとオリヴィアがくすくすと笑っている。
「どうかした?」
「いえいえ、ケンさんはお人よしですね、と思っただけですよ。見捨てて逃げても誰も怒らないでしょうに」
「あいつらには怒るより、馬鹿らしくなったぐらいかな?それに俺が何かしないせいでやっと安住できた人たちが死ぬのはなんだかなぁ。あと見捨ててジークに嫌われるのも嫌だし」
そう言ったら余計くすくす笑われてしまった。




