6話 誤算
朝日で目が覚める。
無事にぐっすり寝ることができた。
我ながらなんだかんだ言いながらばっちり寝てしまうのだから図太いものだ。
魔法で水を出し、顔を洗って気合を入れる。
結界は案の定なくなってしまっていたが、焚き火周りも木のそばも荒らされた様子がない。
やはりこの木は魔物が近づかないとかあるのだろうか。感謝である。
さて、とりあえずは朝の運動がてら朝食の確保だ。
昨日とは反対の方向へ、枝を引きずりながら歩くことにする。
この狩りの間は『空間魔法:結界』をずっと使っている。おおよその持続時間の把握と、空間魔法のレベル上げのためだ。これはかなり役に立った。
5mといえどその中に動くものが入ってくれば察知することができるので不意打ちされることがない。といってもそもそもほとんどがスライムなので、不意打ちも何もないのだが・・・。
昨日は魔物を見つけるのに必死になっていたので、あちらこちらのものを鑑定する気持ちの余裕もなかった。今日はそれが解消されたので木の実や果物、野草などを見つけることができた。
ただ得たものを持ち帰る手段がないので、だいたいはその場で食べてしまっている。
かばんや袋、それらの代わりになるものが欲しい。
空間魔法の適正をあげたときは所謂アイテムボックスのような便利魔法を期待したのだが、今のところそれが使える見込みはない。レベルさえあがれば使えるかもしれないが、まだ先のようだ。
というか異次元に別空間を作り出す魔法なんて本当に使えるのだろうか・・・。それこそ神の業だ。
まあ神様にもらった適正なのでいける気もするが。
そんなこんなで朝ご飯は済ませてしまい、昼、夜ごはんのウサギを確保して帰路に着いた。
結界は自分を中心にして3回かけなおした。だいたい20~30分程度(体感)で切れるようなので2kmほどは進めただろうか?順調な探索だと思える。
ただ当然問題もいくつかある。
まず風景が変わらないのだ。この森広すぎじゃないだろうか。そして平らなので先が見通せない。出てくる魔物も今のところスライムとウサギだけだ。
あ、動物は一応出てきた。鹿だった。
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鹿
葉や木の実を好んで食べる
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魔物と動物の区別は名前の後ろのランクという文字で区別している。
現状、動物と呼んでいる奴はランクと言う文字がない。
強いか弱いかではなく何かの基準があるのだろう。よくあるパターンだと魔石のあるなしだろうが、今のところそれに類するようなものは見つかっていない。
スライムには核があったが、あれが魔石だとすると脆すぎるので違うと思いたい。
次に魔法のレベルが上がらないことだ。
スキルの『剣術』や『身体操作』の上がり具合からすれば『空間魔法』や『水魔法』のレベルもあがっていいはずだが、一向にあがらない。
魔法のLv1がどの属性でも簡単に取得できたことからレベル上げも簡単だと思っていたが、とんだ誤算だった。
『水魔法』はまだわかる。適正がCだからあがりにくくてもしょうがない。
しかし『空間魔法』の適正はAだ。
適正Aでもスキルやレベルのようにはあがらないとなると、先行きが非常に長そうだ。
そして魔法のレベルが上がらないことに付随するのだが、レベルが低いと行使できる魔法の規模が小さいのだ。干渉できるサイズ、と言い換えてもいい。
『水魔法』は手のひらサイズぐらいまで。『火魔法』はライターの3倍がせいぜいだ。
正直どの属性も攻撃の役には立たない。
そして最大の問題だが風呂に入れないのだ。先の魔法のサイズのせいで風呂釜が『土魔法』で作れないし、風呂に入るだけの水が生み出せない。そしてその水を温めるだけの火も足りない。ないないずくしで、つんだのである。
毎日少しずつやるなど時間をかければもちろんできることだが、一番の目標はこの森から出ることなのでひとまず棚上げすることにした。こつこつとレベル上げをしていくしかないだろう。
拠点まで戻ってきた所で昼と夜ご飯の支度である。肉だけだと栄養が偏るので、野草もとってきている。まあどう見ても葉っぱだ。鑑定した結果、食べられるとのことだったので引っこ抜いてきた。
それと一緒に抜いてきたものがある。毒草だ。
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しびれ草
葉に若干のしびれ作用がある
森を歩いていると気づかずにこの草で切ってしまいしびれることがある
抽出するとしびれ薬になる
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毒草
葉に若干の出血毒作用がある
森を歩いていると気づかずにこの草で切ってしまい血が止まらなくなる
抽出すると毒薬になる
根にはよりつよい毒がある
この根から抽出した毒を服用すると内臓に甚大なダメージ
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睡眠草
根に若干の睡眠作用がある
抽出すると睡眠薬になる
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どれも抽出することで薬になるようだ。ただ設備もないので薬を作るわけではない。
これを少量食べて耐性のスキルをつけたいのだ。冒険者をする以上麻痺毒や出血毒などは定番の状態異常だろう。暇なうちに対策をしたい。
もちろんいくら安全な場所とはいえ回復手段のない状態でこんな危険なことは実行しない。
『光魔法』でHPの回復ができるのだ。
ちなみに『光魔法』を鑑定するとこうなる。
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魔法:光属性 Lv1
光属性の魔法を行使できるようになる
闇属性と対になる
再生・回復を促進する
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解毒の魔法が使えるかはわからない。毒にかかったことがないからこれも含めてのお試しだ。回復を促進するとあるから大丈夫だと思う。この魔法もできるだけ早くレベルを上げて行きたい。
とりあえず傷の回復の練習からだろうか。失敗しても何とかなるところから始めるべきだな。
剣を取り出し、指先をちょっと切ってみることにした。
って怖いよ!そんな簡単に自分の指切れないよ!
何度か剣に指を当ててみるが、踏ん切りがつかない。
ファンタジー厳しいな・・・。
5分ほど粘ってやっと少し切れた。イタイ・・・。
傷口に魔力を集中し、そこが光りながら治るイメージ・・・できた!
「あー痛かった。二度とやらんわ。」
傷が小さかったからか、MPは1しか消費しなかった。MPが大量に必要なタイプじゃなくて良かった。傷の大小でMPがどれぐらい変わるのかいずれ検証が必要だな。自分以外で試そう。これ以上自分の体を切り刻むのは無理だ。
とりあえず次だ。出血毒をいきなり試すのは怖いのでまずは麻痺だ。
しびれ草を少しかんでみる。
「まずいはこれ・・・。なにもおいなひあ、ひははひひえあ」
これ詠唱で魔法使ってたら詰んだんじゃね?無詠唱でよかった。
今度は口の中を治すイメージで魔法を使った。
「うん、治った。よしスキルはっと・・・」
習得してなかった。がっかりである。
もう一度草を咥えて、しびれ、治すを繰り返したがスキルは習得できなかった。原因がわからない。
もしかしてそういうスキルがないんだろうか?それとも魔法で治しちゃだめとかだろうか。
次はしびれるに任せてみた。
30秒ほど口の中がしびれていたがそのうち勝手に治った。
スキル欄には『麻痺耐性 Lv1』が増えている。
「ってLv1かよ。意外と大変だな・・・」
もう一度咥えてみると今度は10秒ほどで治る。スキルはLv2になっていた。
さらにもう一度咥えてみる。
・・・
今度はちょっとしびれたかな?という程度ですぐに治まる。Lvは3だ。
このあとも何度か試してみたが、しびれないしレベルもあがらなかった。
この毒では弱いのだろう。これ以上はまた今度である。
同じ要領で出血毒の葉っぱも使い『毒耐性』のレベルを3にあげた。
体に傷をつけるのがいやだったので口に入れるだけだったが毒素はあったようだ。
問題はこれの根だ。『賢者の瞳』がわざわざ甚大なダメージと書いてるのが怖い。
とりあえず切り刻んでその汁を少し舐めてみることにした。
「ええい、男は度胸!
にっが、まっず・・・おえー」
ものすっごい苦かった。そして襲ってくる吐き気。めまい。
HPを鑑定で見ながら耐える。急に減るようだったら光魔法で解毒しないといけない。
吐き気と戦い、緊張しながらHPを見ていたが、抽出した毒ではないからなのか変動は見られなかった。良かった。
1分ほど耐えると急に吐き気がおさまった。葉っぱよりよっぽど強いようだ。間違って食べたら本気で死にそうだ。
何度か繰り返しレベルが5になったところで効かなくなる。ひとまずこれで終わりだろう。
最後に睡眠草を噛んで耐性上げだ。
「お、眠気が・・・」
バタッ
耐性は1になっていたがそのまま寝たらしい。気がついた時には朝だった。
「半日無駄にしたあああああああ」