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62話 怒り

今俺は


「ふー、危なく殺されるところであったわ。お主と一緒でよかったな!」


と、すげー暢気なことをのたまうゴルラドの背中に乗っている。先ほどの城はもう彼方にかすかに見える程度だ。ゴルラドに乗ったところで新しい竜殺しの武器を持ってこられると墜落してしまうため、俺達二人は足で町を出た。城壁を飛び越え、しばらく平野を走り、回りに何もいないことを確認してから変身を解いた。もしかしたら城からは見えていたかもしれないが、この暗闇の中だ。正確なところはわからないだろう。人間の領域からはかなり離れたし、この高度なら襲ってくるものもいないのでとりあえず竜殺しによる危機は脱しただろう。


だが俺はゴルラドほど楽観することはできない。なにせ死にかけたのだ。間違いなくイレーネさんにキレられる。アイラにも睨まれるかもしれない。それを考えると帰宅してからの方がピンチだ。


さっきのはゴルラドにしてみれば命の危機だが、俺からすれば雑魚に囲まれただけで特になんということもない。だが帰宅した後は違う。


・・・


どうしよう。こうなったら積極的にゴルラドを売るしかないな。




「すいませんでしたあああああ!」


帰宅早々土下座だ。周り、特に人間は寝ている時間なので小声ではあるが開口一番謝罪した。話の読めないイレーネさんはきょとんとしている。


「えっと、どうしたのでしょう?謝られるような覚えはないのですが・・・」


斯く斯く然々と説明しているうちに、イレーネさんの目がだんだん冷たくなってくる。一応ゴルラドを悪し様に言わないように気をつけつつも積極的に売った。そのおかげかイレーネさんの目は俺を通り越して後ろであたふたしているゴルラドに向いている気がする。たぶん。


ちなみに途中で


「(だ、黙っておれば分からないであろうが!?)」


とか言う妄言が聞こえたので


「剣と刀の説明ができないだろうが!後王冠も!!」


と、イレーネさんに微妙に聞こえる声で説明しておいた。王冠と言った時にぴくっと動いたので聞こえたのは間違いない。


「お話は分かりました。ケンさん、貴方の身に何かあったら悲しむ人がたくさんいるんですから、あんまり無茶をしてはいけませんよ?」


「はい!気をつけます!」


「よろしい。皆さん帰りが遅いことを心配してらっしゃいましたから、顔を見せてあげてください。武器はお父様に確認を取ってくださいね。貴方がそれを使ってどうこうするとは思いませんが、お父様が知っている方がいいでしょう」


「了解です。では失礼します」


「ええ、無事に戻ってこられてよかったです。それであなた?ちょっとお話があるのでいつもの場所に行きましょう?」


確認の形式をとってはいたが、絶対今のは命令だ。そしてゴルラドは死んだ顔をしてとぼとぼと着いていった。頑張って命だけはつなぐんだぞ。売った俺が言うことでもないが。



それから俺は長老を訪ね、武器を確認してもらった。流れで長老の巣にもお邪魔し、そこの封印部屋に竜殺しはしまわれる事となった。封印部屋といっても長老が大きなかばんで作ったマジックバックに、手に入れた竜殺しを放り込んでおいてあるだけだ。この中にあれば、回りに影響を及ぼすこともないし、人間に悪用されることもない。なによりそのかばんの周りには長老が張った障壁が五重に張り巡らされており、ドラゴンの力でも早々には破壊できないものだった。


「ここに入れておけばひとまず安心であろう。逃さず回収してくれて嬉しく思うぞ。これが減ることは我らの安寧に繋がるからのぅ。しかしあやつも余計なことをしてくれたわい。もしドラゴンの仕業としれたら人間がまたぞろ色めき立つぞ」


「本当に申し訳ない」


「いや、簡単に止まる奴でないことは知っておるでな。しょうがあるまい。それより先だって頼んでおくが、もし我が殺されるようなことがあればこのかばんを頼む。これが人間族に渡れば我らは終わりだ。それだけではない。我らが血を吸ったこの武器は他の生物にとっても強力な障害となり、人間に従わない生き物すべてが死に絶えることになろう」


思わずゴクリと唾を飲む。確かにすごい量の竜殺しがこのかばんの中にある。50本以上は確実にあるこの武器が振るわれることを考えたら、長老の心配も杞憂とは言えまい。


「承知しました。そんなことにはできる限りさせませんが、何かあった時は、必ず。」



重い話が続いてしまうが長老に”竜切”を見せる。長老から見てもやばいレベルの呪いだそうだ。人間族が作り出した竜殺しの呪いは鞘という物で封印されている。だがこの刀は見た目だけとはいえその封印からはみ出しているのだ。俺が浄化した家もある意味呪われた物件だが、その呪いが家から飛び出て隣家まで呪うことはなかった。だがこの刀はいずれ隣家まで呪おうとしていると言ったところだ。もっと多くの血を吸うことが条件なのか、時間で強くなるのか、どちらにしてもこのまま放置するのは危うい。早々に解呪する必要がありそうだ。


”竜切”を改めて鑑定してみると、その呪いの効果も分かった。元々はドラゴンに対する呪いだけを振りまく武器である。だが、ドラゴンの血を、人間に対する恨みを吸った結果、人間にも呪いをかける武器となっていた。すなわちこの剣を抜くと、ドラゴン族だけでなく人間族にもものすごいペナルティが発生する武器なのだ。この刀がもっと強化されていたらゴルラド共々死んでたかもしれない。俺も実は危なかったと知って今更冷や汗が出てくる。迂闊なことはするもんじゃないね。いくらステータスあげたってほとんど封印されてしまう呪いへの対抗手段がなければ絶対安全とは言えない。呪いなんて早々あるものだとは思っていなかったが、ドラゴン達と付き合う以上必要になる日が来るかも知れぬ。となればこの武器を使って呪い耐性をゲットだ!


長老に事情を説明して”竜切”だけを自分のかばんにいれ家に戻る。竜殺しの武器が放つ呪いに対抗できるかもしれない、と長老に伝えるとかなりの必死さで頼み込まれた。


「頼む、頼む!我が一族を救ってくれ。我にできることであればなんでも、なんでもするゆえ。これ以上の犠牲が出ないようにしてくれ!」


一族の未来のために腐心するその姿はやはり家族の長と言って間違いないだろう。なんとしてもこの期待に答える!!


夜も遅いということでひとまず今日のところは寝ようと思った俺を待っていたのは眦を吊り上げたアイラだった。


「イレーネさんから聞きましたよ!わざわざ自分から危ないところに行くなんてどういうつもりなんですか!ご主人様!」


・・・


ゴルラド生贄作戦はどうやら失敗だったようだ。アイラが俺にここまで怒っているのなんて初めてじゃないだろうか。貴重なシーンだが、まったく喜べない。


「聞いてるんですか!?ご主人様!!」


「はい!すみませんでした!」


これは怒りが解けるまで平謝りだな。好奇心に負けた自分が悪いんだから仕方ないんだけど、寝れると・・・いいな・・・。


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