58話 号泣
結局ぐちゃぐちゃ文句を言っていたが、長老に一括されてフィードは引っ込んだ。落とし所を決める話し合いではなく、反対ありきだからめんどくさい交渉になるな。いっそのことさっさと諦めるべきな気もするのだが、じゃあやめますってのも賛成派のドラゴンたちになんか悪い気がする・・・。
よくよく話を聞いてみると反対派に明確な旗頭がいる訳でもないので、このドラゴンを説き伏せたら終わり!ということが出来なかった。反対派は反対派で一応固まっているのだが、実のところ個別の主張は様々だった。フィードのようにドラゴンはすばらしい、他はだめって言うのもそこそこいたし、友達が殺されたから人間族とは仲良く出来ないっていうのもいた。似たようなところでは人間族はなにを考えているか分からないから嫌だってのもいたが、竜眼という嘘発見器を常備しててそれでもなにを考えているか分からないから嫌だっていうのは、それはもうただのコミュ障なのではと思ってしまった。面白かったのでは、俺がゴルラドに勝てないのにお前が勝てたなんて嘘だ!ってのもいたな。あ、卵泥棒の件については竜眼で無実を信じてもらいました。全員が竜眼持ってるから嘘はまったくつけないからね。
結局のところ反対派は俺達という個々人ではなく人間という種族を拒否しているというのが正確なところだ。そして俺は人間を受け入れてくれなんていうつもりはない。
「俺達はひとまずジークとその家族のそばに住みたいだけなんだ。許しなく上の方に登ったりはしないし気に入らないもののそばまで行ったりもしない。それでどうだ?」
「そんなところかのぅ?」
「長!認めるんですか!?人間なんかが我らのそばに住むことを!人間のせいで我々の世代は何匹も死んだんですよ!?」
「我らのそばといっても山の下だし、なにより一族の物が死んだ件にこの者たちは関わっておらん。種族の罪を個人に押し付けるのならそなたも死なねばならんぞ?人間を虐殺した罪でな」
「人間を殺してなにが悪い!先に手を出してきたのはあいつらの方だ!我らドラゴンに手を出した報いを負わせてなにが悪いのだ!」
「だから悪いとは言っておらん。人間には悪いが、我らに手を出した国ぐらいなら滅ぼすことも吝かではない。そこに住んでいるのが大人だろうと子どもだろうと、な。その土地そのものを平らにしても責めはすまい。だが、そこまでじゃ。それ以上を求めるのは神か、それこそ人間ぐらいじゃろう」
手出ししてくるなら土地ごと平らにしてしまえとか、この長老は長老で怖いな・・・。さすがドラゴン、規模がでか過ぎる。人間でもそこまでやるのはよっぽどの狂人ぐらいだよっ。
「一応言っておくけど、俺は貴族の相手がめんどくさくなって森に逃げてきたんでどこかの国と戦争するなら止めないよ?」
「なんだと!?同族を守らないというのか!?」
あるぇ・・・。許さないって言ったり守れって言ったりめんどくさいやつだな。
「同族って言うけど血がつながってるわけじゃないし、故郷があるわけでもない。それに人間ってたくさんいるんだよ?そんな大量の人間に同族意識なんか持てないよ。そりゃあ目の前に人間と魔物がいたら人間を助けるけどさ?たぶん」
「お主・・・故郷がないのか?父母はどうした?」
「んー・・・。俺の故郷は違う世界にあるんだ。俺の父母はそこにいる」
「違う世界だと?お主そこからどうやってここへ?」
「神様のうっかりミスで移動してきた。だからどうやって移動するのかは知らない。戻る方法も無いと言われた」
「嘘は・・・ついておらんな。違う世界も故郷がないというのも全部本当か・・・」
あれ?なんか思ったより湿っぽい感じになってしまった。そして今まで俺に大ブーイングをかましていたフィードが号泣している。そりゃあもう号泣という言葉がふさわしい泣き方だ。
「お”お”ま”え、もうごぎょうにもどれないのか!?ちぢとははに会え”ないというのが!?」
「お、おう。そうだよ。神様のミスだったから別れの挨拶もできなかったよ」
なんだこいつ。故郷がないというのが涙腺にクリーンヒットしたのか?ちょっと引くぐらい泣いてるぞ。
さっき人間を殺しまくった話してなかったか?
実は存在ごと消されたって話はやめておこう。そんな話したら神様とでも喧嘩しそうな勢いだ。
賛成派にも泣いている奴はいるが、涙ぐむぐらいだ。だが反対派は大部分がおもっくそ泣いてる。そこまで泣く話だったかなぁ・・・。
「ぞ、ぞんながわいそうなことが・・・ぐしゅっ。お、おざよ、反対して悪かった。こいつらを我らの一族に入れよう。他の連中も話しによれば奴隷出身だという。俺らの家族として迎え入れても良かろう?」
「うむ、反対するものは・・・おらんな?よし、ではケンとその仲間達を我ら一族の一員と認めよう。この山の好きなところに住むが良い。なにがあろうとも我らが力になろうぞ」
うん?おかしいな話がものすごくぶっ飛んだぞ?山の下に家を建てるはずだったのが、一族の一員?ど、どうなったらそうなるんだ?故郷がないことってそこまでの重大事なのか!?
ドラゴンの皆さんは話はついた、見たいな感じで喜びの雄たけびをあげているが一員認定された俺達はぽかーんとしたままだった。
「えっとまったく話についていけなかったんだけど、なんであんなに反対派は泣いてたんだ?」
「ん?えーと、そうでしたね、人間だから我々とは常識の部分が違うのですよね。ドラゴンにとって家族とは何物にも変えがたいものなのです」
「それはまあ、さっきの反応見てたらわかるけど・・・」
「ええ、彼らの号泣具合を見てもらえば分かったでしょうが、家族とは自分の身より優先すべきもので、それを失うと言うのは我々にとっては受け入れられないことなのです。だからこそ家族を失う原因となった人間を受け入れられずに反対していた、といった所でしょう」
「なるほど・・・。それが俺も家族がいなかったってことでぐるっと反転したと?」
「恐らくは。人間でも我らと同じなのだと思ったのではないでしょうか?それと、ドラゴンは故郷・・・、まあ生まれた巣ですね。これは守るべき物の象徴ともいえます。親元を離れるまでそこでずっと過ごしますからこれもまた親と同じぐらい大事にします」
「それにしてもずいぶんとまあ思い入れがあるんだね・・・」
「彼らの場合は人間の侵攻により住処を追われてますから余計なんでしょう。私としてもあそこまで泣くとは思いませんでした」
「我もびっくりなのである。まあ結局鼻垂れ坊主のままだったのだな!がはは」
鼻垂れ坊主ってあいつそんな年じゃないと思うんだけど、ドラゴンの一人前って何歳からなんだろう・・・。
結局俺達は、会議に使っただだっ広い火口のようなところに家を建てることになった。山の下にって言ったらフィード君が大反対。
「いかん!山の下に建てて魔物にでも襲われたらどうするんだ!俺らが守ると言っても、山の下ではすぐに助けに行けないではないか!ここにいたせ!ここなら余計な魔物はいない!長!いいでしょう!?」
「うむ、ここなら常時誰かいるであろうし、我らとしても安心だな」
と言うやり取りがあり、ここに決定しました。途中でアイラがぼそぼそと恐れ多いとか、皆さんの場所をとるなんて申し訳ないとか言ってたけど全部全力で否定されてた。熱い男なのは分かったから落ち着いてくれよ、まじで。




