57話 短気なフィード君
その日から一週間、家の方は至って平和だった。訓練にご飯にお風呂にと、良くも悪くも代わり映えのない日常だった。しかしいくら時間感覚の違うドラゴンとはいえ一週間もかかるものかなとだんだん不安になってきた。人間で言えば友好の使者を出したらそのまま殺されてて、もうじき攻め込んでくる、と言うようなシチュエーションではないだろうか。ジークはマイペースに過ごしており、特に気にした様子は見られない。というか親より俺達と過ごした時間の方がはるかに長いからな。この反応も当たり前と言えば当たり前なんだろう。
さらに3日後、やっとゴルラドが戻ってきた。疲れた顔はしていたものの、どこにも傷はなく、やっとほっとすることができた。
「長々と待たせて悪かったの。あいつらときたら愚にも付かない話を延々と繰り返しよってな。話が全然進まんかったのだ」
「それで、どうなったんだ?ゴルラドだけ戻ってきたってことはうまくいかなかったのか?」
「そうなんじゃ。やはりちびどもがごちゃごちゃとうるさくての。これ以上は時間の無駄だからお主達を直接連れて行くことにしたのだ」
「お話の決着が付いてないのにお邪魔して大丈夫なのですか?ご主人様はともかく私達では襲われたら普通に死んでしまいませんか?」
俺はともかくってどういうことですかね、アイラさん。あなたも俺とそんなに変わらない実力をお持ちのはずなんですがね!
「そこは我らがついておるから安心せい。無用な手出しはさせん。ただ、その・・・実力を見せてもらうことにはなると思う」
おいおい、あんまり良くない方向に行ってるじゃないか。一週間なにを話してたんだ・・・。これなら最初から乗り込んでも変わらなかったんじゃないか?
「俺にまたドラゴンと戦えっていうのかよ?ゴルラドから見てチビとはいえ勝てる相手なのか?」
「我に勝ったんじゃから大丈夫じゃろう。我はこれでも上から数えられる程度には強いんじゃぞ?」
「ならまぁ・・・大丈夫・・・か?」
ゴルラドが上から数えられるレベルなら何とかなりそうではあるけど、ゴルラドと戦ってた時は覚醒してたんだよな。素の状態では勝てるかかなり怪しい。その上、空を飛ばれたら負けるしかないだろう。
「うむ、己の実力に自身を持て!ガハハハハ」
こいつに太鼓判押されてもすごい不安だ。本当に大丈夫だろうか?ステータス見てだめそうなら違う方向に話しを持っていこう・・・。
「それでお主達ってことは俺以外にも一緒に行くのか?」
「うちに来た三人とジークでよかろう。他の子らを連れて行っても危険なだけじゃしの」
俺達にとっても危険なことには変わらないんですが?
「はあ、わかったよ。アイラもオリヴィアも戦闘準備だ。ジーク、おじいちゃんに会いにいくぞ」
「はい」
「はーい」
「ギャウ!」
四人全員が背中に乗ることは出来ないので、左右の手に二人、背中に二人と分かれて乗ることになった。ジークはスペースの都合で手に決定。女の子の権力により二人が背中に、俺が手になった。
ゴルラドの手に揺られることしばし。大きな人に持たれている人形みたいで嫌だが、これはこれでなかなか見られる光景ではなく、絶景と言えた。ただ、足元がぶらぶらしていて落ちそうなのが難点だ。ゴルラドがちょっと力を抜けば地上まで真っ逆さま。何mあるかは知らないが、相当な高度だろう。ゴルラドが俺を落とすことはないと信じていても怖いものは怖い。
俺の心配をよそにドラゴンたちが待つ会議室(ただただ広い火口?みたいな所)に到着した。ゴルラドとイレーネさんの家より大分高いところにある場所だ。
「よく来た。孫の恩人よ。まずは孫の命を救ってくれたことの礼を。久方ぶりに人間族にも話の通じる物がいて嬉しく思っておる」
「ケンと申します。私事で皆さんの暮らしを騒がせてしまったことお詫び申し上げます」
このドラゴンがジークの祖父だってのは分かったが、それがいの一番に話しかけてきたってことはこのドラゴンが長老?ジークって人間世界で言う王子様?なのか?
「(おい、このひとが長老さんか?ってことはゴルラドの親父さんか?)」
「(いや、イレーネの父上だ。俺にとっては義理の父上になる)」
「(イレーネさんの方か。確かにそんな感じか)」
「いやいや、こちらで結論が出ないばかりに呼びつけてすまないな。それで娘から一応目的は聞いているが、改めて聞かせてくれるか?客人よ」
「えっと、目的というほど立派なものでもないのですが、せっかくジークと仲良くなったので近くにいる方が遊びやすいなと思いました。今の距離だとこちらから遊びに行くことはほぼ無理なのです。我々の仲間にはそこまで強くないものもいるのでその者たちは完全に不可能ですし」
まあ実際はバックを使えばメイド達も移動できるんだけどね。なんにせよかなりの日にちがかかることは事実だ。俺一人だけで走り回るにしてもしばらくかかってしまう。それにもし行き違いにでもなったらとてもめんどくさい。道があればいいのだが似たような風景が続く森に、相手は空飛ぶドラゴンだ。決まったルートなんて物はないだろう。
「嘘をつくな!我らをだまし、皆殺しにする気だろうが!そもそも長の孫を助けたと言う話からして怪しいものだ。どうせそなたらが卵を盗んだのだろう!」
お、反対派の急先鋒かな?お前の言うことは全部嘘に決まってるぞって感じだな。
そいつの周りにいる連中もそうだそうだとばかりに吠えている。
「なぜそう思うのです?私のことを何一つ知らないあなたが?」
「ふんっ!低俗な人間の考えなぞ皆一緒だろう。貴様らは自分達の欲望と都合で同種族すら滅ぼす。あまつさえそんなことのために我らドラゴンの体を使う始末だ!」
「ふむー、あなたが認識する”人間”は分かりました。ではあなたの言う"ドラゴン"とはどんな存在なのです?」
「すべての生物の頂点に立つ偉大な存在に決まっておろうが!知でも武でも魔法でも、ドラゴンに適う存在はなく、その上で我らはその力で他種族を滅ぼしたりなぞせんのだからな!」
うむ。とてもエリート思考の強い方のようだ。偉大な存在なはずなのにものすっごい俗っぽいな。
あ、長老がすごい頭抱えている。言ってやったぜみたいな顔しているけど、今のに賛同しているのは本当に若い連中だけのようだ。いやードラゴンって寿命が長い分成熟は遅いのかね。さっきの妄言を言ってた奴も832歳だ。人間なら少なくみても人生10回はいけるな。
「あなたが言うドラゴンがドラゴンの正しい姿なのだとすれば、あなたはなんなのでしょう?とてもドラゴンにふさわしい存在に見えず、むしろ人間の方が近いようですが?」
「な、な、なんだと!?我が低俗な人間に近いだと!?」
「ええ、種族と言うくくりで他者を見下し自分達以外のものを排除しようとする。ね?まるっきり人間でしょう?人間の信仰を知っているかは知りませんが、それを広めている男が先ほどのあなたとほぼ同じ事を言ってましたよ。吐き気がするような自分勝手な理論をね」
俺と話していたドラゴンは頭からまさしく蒸気が出てぶるぶる震えている。ちょっとやりすぎたかもわからん。
「(ご主人様!あのドラゴンさん飛び掛ってきそうですよ!挑発しすぎじゃないですか!?)」
「(どうみても理性的なタイプじゃないしやりすぎたかも?オリヴィア飛び掛ってきちゃったら頼むな。アイラはオリヴィアを守れ)」
「(はい)」
「(はい)」
それにしてもさっきの彼はまさしく差別大好きな人間のようだ。選民思想の塊って感じだ。もっと感情に訴えてくるような内容だったら反論のしようがないけど、これじゃ確かに愚にも付かない話だったな。
そいつが我慢しきれず俺達の方に突っ込もうとした瞬間
「ぐぁっはっは。おぬしの負けだな、フィードよ」
長老さんの声が機先を制した。
「なっ、どうして私が負けなのです!?」
「うん?お前は彼らを呼ぶ時に言ったな?自分が薄汚い人間の化けの皮をはいでやると。そして絶対に手は出さないと約しただろう?」
「っ。ま、まだ手は出してない!」
「戯言を申すな。わしが声をかけなければ飛び掛っておったろうが。賢しらに語ってた割りに内容はあほまるだしじゃったしな」
うむ、長老さんの言葉でさらに蒸気が上がっているね。めっちゃ短気だなこのドラゴン。大丈夫か?お前のステータスじゃ誰にも勝てないぞ?




