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56話 引越しの提案

あれから10日ほど、ジークは初日以外は一日と空けずに俺たちのところへ尋ねてきている。ちなみに初日はお爺ちゃんに初孫として会いに行っていたそうだ。イレーネさんのお父さんだそうで、どう考えても6000歳は超えてそうだが、ドラゴンと言うやつはいくつまで生きるのやら。イレーネさんと同じペースだとすると1万を超えることになるのだが・・・。

ついで?なのかなんなのか両親も一緒に通ってきている。当初の予定では、ゴルラドが送り迎えをするだけと言う話だったのだが、俺たちの家が気に入ったらしく必ず二人ともついてきている。端的に言えば暇だそうだ。ジークだけ送り出したところで得にすることもないので入り浸っているらしい。


俺は全然気にしていなかったのだが、脅威な存在が毎日たずねてくるということで何人かはドキドキの日々だったらしい。だからと言って帰れともいえないので、ジークが守ってくれるよ!と言って誤魔化しておいた。


まあ狩りや訓練には付き合ってくれるし、王城から盗んできた貴重な品をプレゼントしてくれたりと悪くない付き合いが出来ていると思う。一応夜は寝るために巣へ帰っているのだが、そう遠くないうちに泊りがけになりそうである。



「という訳で、いっそのこと巣の真下に引越ししようかと思うんだけどどう?」


「お二方にはさすがに慣れましたが、知らないドラゴンもいるんですよね?間違って食われませんか?」


「壁の住処にもまとめ役がいるようなことを言ってたから、そのドラゴンに認めてもらえれば大丈夫じゃないかな?」


「認めてもらうって・・・戦うんですか?ケンさん達はともかく、我々では吹けば飛ぶような頭数にしかなりませんよ?」



「いや、俺でも戦ったら普通に死ぬと思うよ。イレーネさんが全体から見てどの程度の強さか分からないけど、あの人に俺は勝てないからね?まとめ役って言うんだから普通にイレーネさんより強いと考えるべきだろう」


「・・・上には上っているんですね」


「そんな遠い目をされても困るぞ。もし嫌ならこのままここで暮らすので構わないよ。ただ魔物への対処的な面からでも友好的なドラゴンがそばにいれば安心かなって」


むむうと悩み始めるメイド達。しばらく話し合いが続いたが、とりあえずそのまとめ役のドラゴンとつなぎを取ってみてから、ということで話がついた。


早速イレーネさん達にその話をしてみるとジークは当然のように大賛成。二人は・・・しぶい顔をした。


「えっと、まずいかな?」


「いや、我らは当然のように歓迎するし、長老を始めとする古い連中は否やとは申さんだろう。人間族に同胞をやられた恨みが無い訳ではないだろうが、過去に一緒に過ごした思い出も持っておるゆえ、ちゃんと話せば分かってくれるとは思うが・・・若造達ちびどもがなぁ」


「新しい世代のドラゴンは私たちに比べると弱く、人間に狩られやすかったのです。また人と関わった経験がないため私たちとは違って不倶戴天の敵だと思っています」


「・・・なるほど」


結構こういう問題では長老を説き伏せるのが課題なのだと思っていたのだが、まるっきり逆のようだ。


「我を倒した実績もあるし我が息子を助けてくれた恩人でもあるゆえ、他の人間に比べたら印象はよいだろうが、どう転がるかは分からんな」


「二人の負担になるなら無理には良いんだ。ただここに住み続ける理由も特にないから、だったらジークのそばが良いかなって思っただけだから」


ジークはいつもどおり嬉しそうにギャウギャウ言っている。喜んでいるのは分かるのだが、早くしゃべれるようにならないかな?


「そう言ってくださるのは非常に嬉しいですね。ひとまず私の方から長老に話を持っていってみます」


「お願いします。メイド達は俺たちほどは強くないので、危険があるならすっぱり諦めてください」


「あいわかった。今日帰ったら長老の下へ二人で行って来ることにしよう。話がいつ付くか分からぬゆえ、その間ジークを泊めて貰っても構わんか?」


「わかった。責任もって遊んでおくよ!」


「よろしく頼む。しかし引っ越すとは言うが、この家はどうするのだ?このままここにあっても魔物たちにすぐに壊されてしまうのではないか?」


「というか今さらですけど、そもそもどうやってこんな所へ家を建てたんですか?人間の貴族から逃げてきたってのはこないだ聞きましたけど、こんな森の奥に家ありましたか?」


「俺達が脱出してきた町からこのかばんに入れてきたんだよ」


「は?」

「え?」


「えっと、空間魔法で囲って丸ごとかばんの中に入れたんだ」


「・・・そうですか。ケンさんがそう言うのだから出来るのでしょうけど、家を丸ごと移動しようとは変わった考えですね」


「いやいや、変わった考えとかそんな問題じゃなかろうが。そもそも空間魔法ってこんなにでかいもの入れられるようになるのか?我の人生の中でも聞いたことがないぞ?」


「あ、そこはオリヴィアの能力だね。オリヴィアは魔法を大規模で使えるんだ」


「ほう、そうなのか?この穣ちゃんもまたすごい能力だの」


うむ、これで俺が異常だとは思われなくなるだろう。俺はいたって普通だからな!


・・・


メイドの皆がやっぱりオリヴィアさんもみたいな事をこそこそと話していたので俺だけが人外扱いされるのは免れたようだ。だが、ご主人様のそばにいると、みたいなのも聞こえてきたのでオリヴィアを巻き込んだだけで俺の評価は変わらなかったようだ。というか俺が諸悪の根源みたいな言い方はやめてもらいたい。心外な!




その日一日は特に何事もなく過ごせた。ゴルラドの提案で3回に分けて狩りに行き、得た食料で夕食を楽しんだ。今度人間の町に遊びに行く時の約束もしたし、王城へこそ泥に行くのも誘われた。盗みに入ると言われるとちょっと微妙な気分だけど、本当に王様がいる城なんて行った事ないから興味はあるな。ジークと俺は二人で風呂に入り、ジークがおねむになったところでイレーネさん達は帰ることになった。


「ではな。ドラゴンは話が長いのでしばらくかかるかも知れんが気にせず待っててくれ」


「我が子を頼みますね」


「ああ、仲間内だから大丈夫だと思うが、気をつけて行って来てくれ。それとしばらくといってもこないだの昼寝みたいにかかっちゃだめだぞ?」


笑いながらそういうと、ゴルラドは青くなった。


「大丈夫ですわ、ケンさん。主人も反省したのです。二度と前のようなことはありません。ね?」


「あ、あ、ああ!も、もちろんだとも」


「お、おう。」


笑い話にならなかったわ。この様子だとよっぽど折檻が厳しかったんだな。可愛そうに・・・。


そんな夫婦漫才をした後、二人は帰っていった。ジークと一緒に寝ようと思っていたのだが、俺が見送りをしているうちにアイラに取られていた。お風呂に入っていた時に約束したと言うのに裏切ったな!?まだ子どもの癖に女の子が良いのか!チクショー!




「うーむ、請け負ったはいいがチビどもがなんというかのぅ」


「とりあえず反対はされるでしょうね。でも彼らもドラゴンなのですから、力あるものの言葉には従うでしょう。長老(おとうさま)から話して貰うしかないですね。幸い我らの身内であるとするだけの材料は有りますし」


「ん?そういえば我らの身内であると話すならジークを救ってくれた事も話すのか?」


「当然でしょう?それがなければ説得力にかけるじゃないですか」


「お、お、お、お義父さんにジーク(はつまご)が死にかけたことを話すだと!?我は逃げる!後は頼んだぁあああああ」


反転し、一目散に逃げ出すゴルラド。

はぁ、とため息を一つ吐き一瞬でその頭を抑えるイレーネ。


「庇ってあげるから大人しくしなさい。それとも私を失望させて、この場で死にますか?」


「いえ、頑張ってついて行かせていただきます!(ひーん。ジークをつれてくれば良かった。俺の馬鹿、馬鹿!ジーク!パパを守っておくれええええ)」


ゴルドラの受難はまだ終わっていないのだった。

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