55話 帰宅
ジークとその両親との友好を深めた俺たちは、日が暮れる前に送ってもらい、家に無事たどり着いた。ジークは相変わらず名残を惜しんだが、その場でイレーネさんがゴルラドに命令して定期的にうちに来ることになった。ゴルラドは
「ええっ我が!?」
とか言ってたけど。ぎろりと睨まれただけで白旗を揚げていた。姉さん女房にかなう訳はないので諦めて欲しい。相性的な話だけではなく、実際に力に訴えたとしても負けるしね。
家のすぐそばに着陸すると、お留守番組がパニックを起こすので、ひとまず少し離れた所でホバリングしてもらう事にした。
一応ここで下ろして貰えば今日のところは構わないのだが、これから先のジークの送り迎えを考えると、顔合わせは早く済ませてしまったほうが良いだろう。何度も冷や汗を流させるのも悪いしね。ぴょんと飛び降りた高さは前だったら確実に死ぬ高さだったけど、今は余裕で着地できてちょっと面白いやら怖いやら。オリヴィアはこの高さから落ちたら怪我をするので俺が抱っこして降りた。アイラは一人で降りられるので問題なし。ちょっと羨ましそうな目で見られたので、あとでフォローでもするべきか・・・。
案の定というか、期待通りというかお留守番組はばっちり戦闘態勢を取っていた。驚かせてしまって悪いが、訓練の成果がばっちり出ていて喜ばしいね。
「ただいま~上にいるのはジークのお父さんだから安心して良いよ!」
「お会いできたんですね。よかったです。まさかここまで乗っていらっしゃるとは思わず、死を覚悟しましたが」
「脅かしてごめん。ジークが寂しがるもんで定期的に訪問してくるってさ。だから皆も顔合わせしておいた方がいいと思って待ってもらってるんだ」
「了解しました。我々はおまけとはいえドラゴンと知り合い?になれるとはすごいです。疑問なのですが会話って成り立つのですか?ジークちゃんは鳴いているだけでしたけど」
「うん、普通に人間の言葉が話せるから大丈夫だよ。最初は問答無用で襲いかかられたけど、ちゃんと話しさえ出来れば人間と変わらない普通のお父さんだったよ」
「襲い掛かられて無事なことに驚けば良いのか・・・ご主人様だからと納得すれば良いのか・・・あとでお話を聞かせてください」
と言う訳で上空のゴルラドに合図を出して降りてきてもらう。お互いに一通りの自己紹介をして、見た目と魔力を覚えてもらった。俺たちは魔力で人物の判別なんてしないが、ドラゴンにとっては当たり前のことらしい。というかドラゴンにとって俺たち人族の見た目の差異はよく分からないらしい。ちょっと耳の形が違うかな?とか、髪の長さと色が、ぐらいで顔の造詣なんかは特によく分からないとか。まあ根本的に違う種族の造詣なんてそんなものだよね。俺たちが猿の美人とか言われても分からないのと一緒だろう。
「うむ、ここにいる人間は覚えたので間違って攻撃することはあるまい。今度妻も連れて来るゆえ、二度手間で悪いがその時もよろしく頼む」
「分かった。この辺に俺たち以外の人間がいることも早々ないから大丈夫だと思うけど、よろしくね」
そうしてゴルラドは帰って行った。あいつは鼻歌なんか歌いながら暢気な感じで戻っていったけど、これから奥さんによる折檻が待ってるはずなんだが・・・たぶん忘れてるんだろうな。頑張って乗り越えてもらいたい。命だけは守るんだぞ。
数日ぶりの我が家は特に変わったことはなかった。魔物が襲ってくることは何度か有ったみたいだけど、皆で力を合わせれば余裕だった、とのことだ。頑張って鍛えた甲斐があって本当に嬉しいね。ゴルラド襲来に際して戦闘体勢がしっかりとれていたことは内心だけではなく、ちゃんと褒めておいた。
出来たら褒める。これ大事。
俺たちのしてきたことはやはりかなり異常なことだそうで、どれもかなり驚かれた。特に先ほどのドラゴンを殺さないように制圧した、というのには、驚かれると言うより呆れられた。その時の一番心に刺さった台詞は
「本当に人間ですか?」
だ。マジで心に来るからやめて欲しい。しかも誰か一人ならともかく皆して同じ様な顔をしているのはきついよ!メンタルのレベルアップはしてないんだから!
皆との話も終わり、夕食とお風呂を終え、自室でほっと一息。家に帰ってきて一番良いのはやはりベットだな。お風呂も捨てがたいけど、お風呂は野宿でも無理すれば作れる。ただベットを野宿中にドカンと出すのはなんか違う気がして使っていない。かばんに入れて持っていけばやれないことはないんだけどね。野宿にもなれて来たから寝れないって事はないが、やっぱり安眠度合いは比べ物にならないよね。
ひとまずジークの件が片付いたので、残りの目標としてはオリヴィアの家族を探すことだけだ。それと、もう少しジークの家族と仲良くなったらジークの家のそばに引っ越すのもいいかもしれない。今の位置じゃこっちから遊びに行くのは難しいからね。それにしても今日は激動の一日だったので、さすがに疲れた。おやすみなさい~。
☆
「いやー今日は我が子にも、その友達にも会えてよい一日であった。新しい知り合いが出来ることもはここ何十年となかったから、久々に有意義な一日であったな」
「そうですね。産卵後の体力回復に努めている間に我が子がこんなにも大きくなっているなんてね。あなたのおかげでぐっすり眠ることができて感謝していますわ。ふふふ・・・」
字面で言えば感謝だし、ゴルラドに向けているその顔は笑顔なのだが、その声は冷え切っていた。
妻の後ろに浮かぶ鬼を幻視してやっとお話があると言われていたことを思い出すゴルラド。
「(しししし、しまったぁぁああ。ケンたち相手には和やかなムードだったからすっかり忘れておった!い、命の危機じゃ。ケンたちを無理やりにでも引き止めるんじゃった!)えっと、その、ど、どうしたら怒りを静めてくれるんじゃ?」
「あら?怒りはずいぶんと沈めていましたよ?恩人の前ですからね。あなたが散々醜態を晒した後ですもの、私まで晒す訳にはいきませんから」
「(静めるじゃなくて沈めるって、我慢してたってことかのおおおおお!?)ええっと、その、生まれたての我が子に夫婦の喧嘩を見せるのは良くないんじゃないかの!?」
「ええ、もちろん。この子に親が不仲なのだと勘違いされでもしたらいやですからね、ホホホ。外へ行きましょう?」
「(あ、あかん。逃がしてくれる気がない・・・)わ、わかった。い、命だけは!命だけは!」
「おかしなこと言うパパでちゅね?ジークちゃん。パパとママはちょーっとお話してくるから、いい子で寝てるんですよ?そしたらお友達のところへ連れて行ってあげますからね」
「ギュアギュア」
「いい子ですね。よしよし」
その後山の反対側ではドラゴンの戦闘音と悲鳴がしばらく聞こえたとか聞こえないとか。




