50話 瀕死
走り続けること二日、遥か彼方に見えていた山までもうちょっとというところで日が暮れかけてしまう。今のところ俺たちを脅かすような敵は現れていないが、夜は念のため休むことにしているので今日もここまでだ。
一日目の夜と同様にオリヴィアとジークをかばんから出して食事にする。彼らにとってはご飯時以外はかばんの中というつまらぬ二日になってしまったが、特に不満を口にすることもなく従ってくれている。核言う俺たちも走り続けているだけだし、風景も大して代わり映えしないので楽しいわけではないのだが。ジークは運動不足でたまったストレスを夜の獲物確保に向けているようで率先して狩りに行ってくれる。ジークも50を超えたところまでレベルがあがっているので森奥の魔物でも余裕を持って狩が出来ている。木の多さからジークが走り回るのは不便なので木の上を飛び、そこから獲物に奇襲をかけている。俺たちには出来ない戦い方で、飛行手段を持つジークだけの強みだろう。
ジークが俺たちと行動するようになった当初は風魔法のレベルも、身体能力のレベルも不足していたため、ジークの翼はほとんど飾りだった。一応立派な翼ではあるのだが、もちろんそれだけで体が浮くほどジークは軽くなかった。というより鳥などと違ってかなりみっしりと肉、骨が詰まっており見た目に反してかなり重いといったほうが正確だろうか。
そんなわけで翼を動かす筋力だけではなく、風魔法の力を使って飛ぶようだ。
一番最初は翼を怪我していたため、それのせいで飛べないのかと思っていたのだが、単純な能力不足であったらしい。
レベルが上がって、魔法の訓練をして、という経過を経てやっと飛べるようになったのはつい最近のことだ。眼から得られた情報により気長に待っていたが、そうじゃなければ実は退化して飛べなくなったと言われても信じただろう。
そんなジークが狩りに出かけてしばらくたったころギャアオオオオオオオオという爆音が周囲に鳴り響いた。ジークの威嚇と同種に感じられるが、ジークの声とは存在の重さが違うと言った所か。
「成体のドラゴンクラスか?」
「かもしれません。ジークの親ならいいのですが、もしかしたら違う個体の縄張りに入ってしまったのかも」
「ジーク単独じゃまだ勝てないな。すぐに追いかけるぞ!ドラゴンだとすればオリヴィアの魔法は相性が悪い。ここを頼む!」
俺とアイラはオリヴィアの結界で捕捉したジークの方へ駆け出す。
「そばにいる個体はジーク君の10倍ほどあります!お気をつけて!」
ジークは尻尾の長さ抜きで俺の身長と同じぐらいの体長がある。それの10倍ってことは15mぐらいか?でかすぎねえ?尻尾入りの長さだとしても象などよりは遥かにでかい。それの体重を支えられるだけの筋力ってことを考えると恐ろしいものがあるぞ。
「ドラゴンってそこまででかいのか!?」
「私もジークを見たのが初めてですので分かりませんよ!ただ小山ぐらいあるとは聞いていましたが!」
小山って・・・ステータス差がどんなもんか。なんとかして逃げ切れるといいけどな。
決死の覚悟を決めて近づくも俺の結界の範囲にはいってもジークとドラゴンが争っている様子はない。足音を消してこっそり覗いてみると、ジークとドラゴンはべろべろなめあっていた。どうやら顔見知りだったようだ。脅かしよって。
急いで鑑定してみるととんでもないステータスだった。レベルは72でステータスが軒並み1万ほど。HPだけ種族の補正が聞いているらしく俺が16000しかないのに20万ある。まさしく桁違いと言ったところだろう。これで魔法が効かないとか完全にボスだな。
ダンジョンでも俺よりステータスが高い相手はいなかったがここに来て完全な格上だ。鑑定結果に驚いているとギロッとこっちを見られた。よろしくないことにここにいるのがばれたらしい。
「我が卵をかどわかした愚か者め、その報いを受けるがいい!」
爆発音かと思うような大きな声でそう言ったドラゴンの口がこちらに向き、カパッと上下に開かれた。
卵泥棒と間違われてる!?人間の言葉!?口開いたからブレス!?等と色々気になるところがあるがどう考えても向こうは俺を殺す気だ。怒りに燃える最強の種族が放つ一撃。どう安く見ても生半可なものではないだろう。
「回避!」
アイラは大きすぎる存在に気おされていたようだが、恐怖耐性スキルの取得をさせていた事が功を奏したのか、俺の声に反応して左に避ける。それを確認してから俺も右に避ける。ドラゴンのブレスは俺の予想を裏切り、火炎放射のような出方ではなかった。力を凝縮させた玉のようなものがすごい勢いで突っ込んでくる。玉自体の回避には余裕があったが、玉の速度が速かったため着弾地点からはほとんど離れられていない。爆発の寸前に障壁を張ったが、爆発を回避しきることは出来ず吹っ飛ばされてしまった。
「ご主人様!」
爆発の煙で何も見えない中アイラの声だけが響く。
「我の威圧に怯えず一撃を避けたことはほめてやろう。冥土の土産とするがよいっ」
ドラゴンに対する警戒を怠ってしまったアイラに、真後ろから振るわれた爪の一撃を回避する余裕はなかった。
ザシュッという音とともに鮮血が散る。
吹き飛ばされた先から起き上がった俺は、ドラゴンの爪に切り裂かれ弾き飛ばされて飛んでいくジークをみた。
「ジィィイイイク!!」
アイラに当たる直前ジークが割って入り、その体で防いだようだ。だがジークはまだ子どもだ。アイラよりは素の防御力があるとはいえ、大人の一撃を受けて無事なはずがない。
吹き飛ぶジークを空中で受け止め、その勢いを殺す。
「ジーク!」
俺の呼びかけにもジークは反応しない。前面で受けたようで肩から腹にかけて大きく、深い傷が刻まれていた。
「貴様ら!卑劣にも我が子を操り盾にするとは!」
親竜のあんまりな言い草に怒りが浮かぶ。ジークの治療をやめて殴りかかりそうな自分を必死に抑える。
「ええい!!我が子から離れろ!下等な人間が!!」
さすがにジークのすぐそばに俺がいるので攻撃が出来ず、大声での威嚇だけしてくる。アイラは俺が治療していることを知り自称親ドラゴンを牽制している。
「黙ってろ、下等な蜥蜴が。ジークの治療が終わったら殺してやるから」
ジークのため、という気持ちで抑えているが、俺の頭は怒りで埋め尽くされている。
相手を下等と決めつけ恩人に襲い掛かってくる暗愚さ。ジークもアイラも守れず、二人をもう少しで失うところだった自分の油断。そして恐らくはスキルが発動していることだろう。一度だけ虎と戦うときに発動させた『覚醒』のスキルが。
10分ほどかかってなんとかジークのHPを回復させることが出来た。出血もひどかったが内臓にまで傷が及んでおり、即死寸前であった。子どもとはいえドラゴンだからこそ何とか生きていたといえよう。もしアイラがこの一撃を食らっていたら間違いなく・・・。
こいつが本当にジークの生みの親だとしても知ったことじゃない。
俺の家族を傷つける奴はどんな奴だろうと許さん!




