45話 ジーク
俺たちは森を奥へ奥へと走っている。当分進んだ先には険しい山が見えており、通称竜の山。俺たちがひとまずの目標としているところで、人間が未だまともに踏み込むことすら出来ていないところだそうだ。
早朝の挨拶はチビドラゴンにべろべろなめられることだった。嫌ではないけれど朝の目覚めにはびっくりするからやめて欲しい。
チビドラゴンに事情を説明して森の奥へ一緒に行くことを告げる。それとついでに名前をつけることにした。これからは旅を共にするのだ、いい加減チビドラゴンじゃ呼びづらいしふさわしくない。
「お前名前は?」
と聞くとぶんぶんと首を振ったのでたぶんないのだろう。これで遠慮なくつけられる。
本人が知らないだけで本当はあるのでは?と思って鑑定してみたが名前のところは空白だった。性別はオス。種族名が光竜だそうです。どうりで白い体をしているわけだ。アルビノかな?と思っていたがそうでもないらしい。
この白い体のせいで森の中では結構目立つ。良くここまで生きていたものだ。今では薄汚れてしまって、白と言うよりは鼠色って感じだが。
ドラゴンの名前だからかっこいいのがいいが・・・
シロ
コウ
ホワイト
シャイン
ジーク
カイザー
さあ、選べ!ネーミングセンスなんてものは気にするな!
名前を考えるのは苦手だが何とか搾り出した。気に入ってくれるといいなー。じー。
この中から選んでくれる?気を使わせてすまんな。名前をつけるというのはどうしてこんなに恥ずかしいんだろう。
ちょっとだけ悩んだが、結局ジークに決まった。よかったよかった。
名前を考えている間アイラが俺の方をじーっと見てたのは何でですかね。
お前が決めるか?と振ったらいえいえと遠慮するし・・・。よくわからない。
朝食時にはみんなをかばんから出して一緒に食事の支度をした。竜の森の中ということでとてもびびっていたが、俺の張った結界に触ることで一応の安心をしたみたいだ。
一番びびったのはかばんから人間が出てきた時のジークだ。飛び上がって驚いて俺の後ろに逃げる。いつもの威嚇も始まってしまった。俺たちからすれば可愛いだけで威嚇になっていないのだが、他の皆にはきつかったみたいでこっちもこっちで悲鳴を上げてアイラの後ろに逃げた。面白い構図だった。
俺が宥めながら一人ずつ匂いをかがせてやっと落ち着いた。匂いをかがせるときの皆も面白かった。なんとか頑張って手を差し出しているのだが、腰が完全に引けている。その格好は格好で指を食われそうなんだが、指だけならいいのだろうか。まあジークが噛み付くわけもなく、無事自己紹介?は終わった。
朝食はその辺で取ってきた野草と熊の魔物の肉、後は町で買って大量に保管してあるパンだ。野草を取っていたら襲い掛かってきたのでご飯の一部になってもらった。マジックバックがなければこの生活もすぐに立ち行かなくなってしまいそうだな。空間魔法様様だな
食後にはみんなにかばんの中に戻ってもらい走り出す。ジークもかばんの中に入れようとしたんだけど断固拒否だった。無理やり押し込もうかとも思ったんだけど悲しそうに泣くので諦めた。ドラゴンの癖に鳴いて懇願とは・・・これでいいのだろうか。
森の奥に進むに連れ魔物の数が多くなっている。戦ってちょっと行くともう次の敵が現れるような状態だ。というかもしかしなくてもジークがうるさいせいだ。どうせ一緒に行くのだから経験値を稼がせようと一緒に戦っているのだが、敵を倒すたびにぎゅおおおおおおおんと雄たけびを上げてくれる。本当にこいつどうやって今まで生き延びてきたんだ。
「ジーク、いつまでたっても前に進めないから雄たけびをやめなさい。ぎゅあ?じゃない。お前が叫ぶせいで延々と魔物の御代わりが終わらないじゃないか!ほらまた次が来た!」
すごく悲しそうな顔をしたけど雄たけびをやめてくれた。爬虫類?のはず何だがすごく表情のある奴だな。それにしても雄たけびにどうしてそこまでこだわりがあるのか。
昼ごろまでかかっても家を建てるのによさそうなところは見つからなかった。森の木が多すぎるし、川のそばは岩だらけでなかなか平らでよさそうなところはない。もうしばらく進んでもだめなら自分達で整地する方がよさそうだ。
昼飯は川のそばの岩の上でとった。今日のメインはこちらの世界ではすごく珍しい天然の川魚だ。まあ天然と言っても養殖という概念が無いそうなので天然しかないのだが。
川にいる魔物のせいで漁が難しく、川魚はほぼ手に入らない。食べているのは魔物をあしらえる冒険者か、わざわざ依頼を出してとってきた場合のみだ。海の近くなら魚が食べられるそうだが、それも海の魔物の機嫌次第といったところらしい。ちなみに今回とったのは向こうの世界で言うところの鮎?みたいな物だろう。たぶん。焼いたら食えると眼が言っていたので取っただけでよくは知らない。皆もメジャーじゃないためよく知らないそうだ。
焚き火にあて、いい匂いがしてくるまで焼く。味付けは町で買っておいた塩だ。
適当な調理の割りになかなかおいしかったし、皆にも好評だった。一つ、森に住むメリットが出来たな。
食べてみて分かったことだが、エルフのティナだけは子どもの頃に食べたことがあったそうだ。親の出してくれたものを食べていただけだから分からなかったけど、懐かしい味だったそうだ。
皆をかばんに入れて再び森を進む。ジークの雄たけびがなくなっただけで大分スムーズに進めるようになった。まだまだ山は遠いけれど少しずつ進んでいる感じはする。そのことをジークに教えるととても不満そうな顔をする。ぎゅあぎゅあ文句を言い始めたらその声を聞きつけて魔物が出たので一応自分の声のせいだと実感したらしい。なるべく声を抑えるようになった。
夕方が近くなり今日の寝る場所を探す。食料的な話で言えば川の近くがいいが、安心して寝ることを考えればそうじゃない方がいいだろう。俺は皆の安眠を考え川から離れることを提案したが、皆の川魚をもう一度!と言う声で川のそばに決まった。
川原でよさそうな場所を探していると天然のほら穴を発見。今日の宿にしようと思ったのだが中には先客がいた。ジークの天敵?ハイゴブリンだった。
今日は元気だと言うことでジークもやる気満々。リベンジに燃えているようだ。
ジークの訓練も兼ねてということでジーク一人で闘うことにした。ただ怪我をしても困るので危なくなったらアイラが突っ込むし、オリヴィアが結界ではじく予定だ。バックアップは万全だな!
俺はハイゴブリンたちを外におびき寄せる役だ。戦闘と言うことで考えれば中へ奇襲した方がいいのかもしれないが、これから寝床にしようと言うところを血だらけにするのもおかしな話だ。
と言うわけで突入!ハイゴブリンの前にわざと姿を現し手を振ってアピールしてから逃げる。普通の頭があればいぶかしむ物だがそんなことをするわけもなく、全力で俺を追いかけてくる。うしろからげぎゃぎゃぎゃという笑い声のような鳴き声が聞こえてくる。もしかしたら逃げ出した俺をあざ笑っているのかな。
ほら穴の入り口をくぐるとジークと位置を変わる。ジークがやる気とはいえハイゴブリンは8匹と多い。思いつきでほら穴の入り口に障壁を張る。前4後ろ4に分断してやった。
ジークは頑張って戦った。尻尾を振り(ちょっと前まで小枝ぐらいしか折れなかったはずの一撃でハイゴブリンの頭が消し飛んだ)噛み付き(噛み付くはずが一瞬で噛み千切った。まるまる体の一部が無くなって生きてるわけはない)爪を振った。(牽制のはずが2匹纏めて死んだ)多対一を学ぶ戦闘訓練のはずだった。実際は一瞬で終わったが。
ある意味正しい解答だったな。囲まれる前に一撃必殺とは。
うん、さすがドラゴン。レベルアップの恩恵がとんでもない。自分でもよく分かってないようで、ぐる?とか言って首をかしげている。俺の障壁の向こうでその光景を見ていたハイゴブリンたちはびびりまくって腰が抜けている。まあそらそうだよね。
震えて命乞いしてくるのでなんとなく殺す気にもなれず逃がしてしまった。あいつらが人間の世界に行って悪さをしたら・・・まあ別にそれでもいいか。どうせなら貴族に迷惑かけるんだぞ!
ちょっと悪いことをした気分になりつつもほら穴を占拠。きたない物を全部外に捨て、空気を入れ替えた。メイド部隊大活躍。これで入り口に障壁を張れば今夜は安眠できるな。
夕食の魚は鯉みたいなやつでおなべの具になった。作り終わってから泥抜きとかいるのかな?と思ったけど普通に食べられたから大丈夫だったんだろう。
川の一部をせき止めて風呂も作ってみた。チートキャンプ生活楽しい!




