36話 鍛冶スキル
さて、家を買ったもう一つの目的は鍛冶場を作ることだ。だが残念なことに俺に鍛冶知識はない。
なので知識のある奴隷を買った。それが男性の獣人、セルブロだ。
彼には鍛冶スキルが付いてる。しかもLv4だ。達人というほどじゃないけどそこそこやり込まないとLv4にはならないので十分な能力だろう。
「ご主人様に鍛冶を教える?俺、いえ、私が?」
「うん、よろしく」
「・・・なぜお、私が鍛冶ができることを知っている・・・のですか?」
「悪いけど内緒だな。外に漏らせない能力だ」
丁寧な言葉を使っていたはずなのにちょいちょい崩れる。動揺してるのかな?
「わかりました。どの程度知識があるのですか?」
「まったく。だから初期から頼む」
「必要なものがあれば私が作りますが?」
「いや、作ってもらう物もあるだろうが俺が覚える必要があるんだ」
というわけで鍛冶を習う約束は取り付けた。鍛冶場は商人ギルドを通して大工をお願いした。上客だと思われたのかすぐに紹介してくれ、次の日から建設を始めてくれた。10日ほどで作り上げてくれるそうだ。
俺は鍛冶を始めるまで知らなかった。この眼の本当の能力を。”スキル習得率大UP”より恐ろしい本当の能力を・・・。
鍛冶場ができるまでの10日間は精力的に依頼をこなした。ちょっと遠いぐらいの依頼も積極的に受け、俺とアイラに別れて走り回って依頼をこなした。体力的な問題からオリヴィアには近場の依頼をお願いした。ただし体力UPのため行き帰りの全力疾走を課題にしたが。
2週間で稼いだ白金貨は3人合わせて4枚。かなり頑張っただろう。
移動速度の不思議さを疑われたのでスピードを見せたら顎が外れんばかりに驚いていた。俺たちは申請上は3人パーティなのに3人で戦ったことは一度もなかった。全部ソロだ。
少しでもお金を稼ぐため、森の魔物を倒す時には皮を傷つけないようにしたり、鉱山に出た魔物を倒す時には頼み込んで鉱石を譲って貰ったりした。圧倒的な戦力でもって出来るだけお金や資材を稼いだ。これでこれからしばらく鍛冶に打ち込むことへの不安はなくなった。
大工さんたちはきっちり期限通りに鍛冶場を仕上げてくれた。時間の概念がまだまだ適当なこの世界ではなかなか嬉しい事だ。俺の世界でも工期の遅れというのはよく聞く話だからな。
まず始めに鍛冶をするための材料ということでインゴットを作ることとなった。熱してどろどろになった物を型にはめて冷やすのだ。
その溶かしている時になんと火の温度が分かった。なにが起こっているのかを鑑定しながらじーっと見ていたのだが、その時に今何度ぐらいなんだろうと思ったら見えたのだ。鑑定って普通そんな所まで見えるのだろうか・・・。またインゴットを作るのに最適な温度もわかった。鑑定を発動したまま後何度ぐらい、どうしたら、どのタイミングでと考えるだけで正解が浮かんでくる。まさしく賢い眼だった。どうしよう・・・。ステータス閲覧以外は大して役に立たない能力だと思ってた。
作ったインゴットでセルブロに一度武器を作ってもらう。その様子をずっと鑑定しながら見続ける。彼がやっている作業は正しいのか、間違っているのか。間違っているならどうすれば改良できるのか。タイミングか、工程か、材料か、道具か。考えながら見続けるだけですべてを知ることが出来た。神様ってやっぱり正しく上位者なんだと改めて実感した。
セルブロには生意気だと思うだろうけど黙って見ていてくれ、とあらかじめ告げた上で俺も一本武器を作った。途中から俺を見る彼の目は信じられない物を見ているという驚きに染まっていた。どれだけすごい技術になったかと言えば、一本打っただけで俺の鍛冶スキルは5になったほどだ。道具的に出来うる最上の品といっても過言ではない出来だろう。
「ご主人様も人が悪い・・・、私に習うことなんてないじゃないですか。鍛冶をやったことがあるどころか・・・私より遥かにお出来になる・・・。ハハハ・・・。」
「いや、本当に今日初めてやったんだ。ただ神に貰った目を使った。それが俺が思っていたより遥かに高性能だったんでこうなった」
「神だなんて・・・。ご主人様も本当は人間は選ばれた存在だという考えをお持ちだったのですね」
やっちまった。セルブロの目にものすごい失望の色が浮かんでいる。最初に説明をするべきだったか。
自分のまいた種だから仕方あるまい。
「そうじゃないと言っても信じなさそうだから俺の秘密を開示するよ。とりあえず黙って聞いてくれ」
「はあ」
斯く斯く然々でと俺がこの世界に来た来歴を語ってみたが、セルブロの目には不信感しか浮かんでいなかった。ええい、もうどうにでもなれ!
「お前の名前はセルブロ・ベルエ!」
「な!?」
「お前の兄と姉は8人で、上からジミー、フィリーネ、グリス、ユリヤ、ハシント、ロレン、ジェネ、ディヴ!お前は一番下の9番目で末っ子で、長女のフィリーネさんが一番怖い?姉連中が鬼の用に」
「ストップ!ストップ!ストーップ!もういいです。分かりました!信じますから!!」
ふう。個人情報なので伏せるべきかと思ったが疑われたままじゃ困るから盛大に暴露してみた。
「本当にそんなことまで分かるんですか?」
涙目になっちゃったぜ。おっさんの涙目はノーセンキューなのだが。
「うん、今見た」
「いろんな意味で恐ろしい能力ですね」
「うん、ここまでのことが出来るとは思ってもみなかった。今日初めて知ったんだ。なんならセルブロの失敗談でも語る?お漏らしをいくつまでしてたとかお姉ちゃん達にいじめられた話とか」
「やめてください!信じますから!!」
やっと信じてくれたのでこの話は終わりになった。この能力はかなり危ういのであまり使わないほうがいいだろう。
ちなみにベルエというのは彼の家族名で、まあ苗字みたいなものだ。彼はそれを内緒にしていたので暴露項目に盛り込んでみた。まあ彼曰く獣人同士じゃなければ意味のないものなので名乗らなかっただけだ、とのこと。
「姉たちの・・・顔とかまで判るのですか?」
少し家族のことを思い出させてしまったようだ。
「いや、文章で見えるだけだから顔とかは分からないんだ」
「そうですか・・・うちは鍛冶師の家なんですがなぜか女ばっかりでしてね。男三人はみんな鍛冶をやらさせられました」
「それで9人も?」
「ええ、村で一軒しかなかったもので仕事はたくさんあったのです。まあ親の仲が良かっただけかもしれませんがね。やることはたくさんありましたけど、子どもだったもんで、遊びたくて・・・。サボった現場を見つかっては姉にお仕置きされましたね」
「それでお姉さんが怖いんだ?」
「ええ、あの鬼婆の怖さといったらもう・・・。どれだけ図体が大きくなっても適いませんでしたね」
昔を懐かしんで語るセルブロは今にも泣きそうだった。戦争ってのは業が深いな。
ひとまず鍛冶を切り上げご飯より先に風呂に入ることにした。熱耐性がある俺はそこまで汗もかいてないが、セルブロは汗だくだった。まあそれも途中までなんだが。スキルの影響で早々に熱耐性を獲得し、途中からは急に熱くなくなったと言って汗をほとんどかかなくなった。まあそれでもすすや灰などがすごかったので体を清めに向かう。
ちなみにあれから十日たっても女の子達のお風呂ブームは収まっていない。夕飯が終わるとちらっちらっと視線を感じる。奴隷であるということを考慮してなのか誰も風呂にしてくれとは言わないのだが、視線がすさまじい。目は口ほどにというのをよく表している。
まあ皆が風呂好きになったことはいいことだろう。風呂文化が根ずくといいな。




