34話 メイド
異世界転移物でメイドといえば基本的に奴隷だ。理由は簡単でひとえに秘密保持のためだ。
来歴からしておいそれと回りにしゃべれない物ばかりだし、能力関係においてはその世界の常識を著しく逸脱していることが多い。権力側に就いて身を守ってもらうという手もあるが、世の中の王様が善人だと考えるには俺は斜めに物事を見すぎている。
だから俺がメイドさんを奴隷に求めるのには他意はない。ないったらない。
「いらっしゃいませ。本日はどのような奴隷をお探しでしょうか」
商人ギルドにオリヴィアと一緒に行き、奴隷を扱っている所を紹介してもらった。
俺たちがギルドに入ると、住むのを諦めて苦情を言いにきたのかと警戒された。
もう住めるようになったと告げるとそれはそれで不審な目で見られたが。
「家事仕事が出来る奴隷を5~6人ぐらいお願いしたいです」
「失礼致しました。お忍びか何かでいらっしゃいましたか。どの程度のお屋敷でしょうか?」
「勘違いさせて申し訳ないですが、ただの冒険者です。それと家は曰く付きだった伯爵様の別荘です」
「え、あのお屋敷を!?す、住めるのですか?」
「はい、もう大丈夫ですよ。残っていた幽霊などはすべて浄化しましたので、普通の家と変わりありません。ただこちらの都合で大きいお屋敷を買ったのですが、住人はそこまで多いわけじゃないので管理するメイド等が欲しいのです」
「かしこまりました。少々お待ちください」
「あ、種族にこだわりはありませんので獣人などでも大丈夫です。ただメイド長になる人物だけ人間族でお願いします」
俺はメイド長も獣人でもかまわないのだが、全部獣人だと買い物とかが頼めなくなってしまうからこのようにお願いした。
結局家事スキルを持った人間が4人、獣人が3人、エルフが1人の合計8人を買った。
お値段締めて白金貨1枚。そのほとんどが一人のエルフの値段だ。エルフという言葉に引かれて思わず買ってしまった。人間より魔法にすぐれているが、アイラたちみたいに異常に秀でた能力があるわけではない。完全に衝動買いだ。ただし、こっちが気後れしそうなぐらいのものすごい美人だ。長く美しい金色の髪、人とは違う耳、エメラルド色の目、そしてお決まりの精霊魔法もある。
人間と獣人のうち一人ずつは男で力仕事などを任せるつもりだ。最初は女だけのつもりだったのだが、奴隷商人のおじさんに男もいたほうが良いと薦められた。
あとアイラのように料理が出来るで紹介してもらったのに、料理は出来なかったということもなくちゃんとした?家事のできる奴隷を選んだ。
奴隷たちを連れてぞろぞろと家に帰る。こんな人数の奴隷を歩いて連れているのはおかしいようで、目立ってしまった。馬車で送ってもらえばよかった。
家に着くと一部はこの家を知っていたようで、ものすごーくびびっていた。青い顔をしながらきょろきょろと周りを見回したり、だらだらと汗をかいたりだった。
1階の来客用の部屋に全員を通して座らせる。全員とても躊躇していたが無理やり座らせた。
「さて、俺がこの家と君たちの主人であるケンだ。気になってる人がいるみたいだから初めに言っておくとこの家は幽霊付きの物件だった」
説明の途中でびくっと何人かが大きく反応した。そうじゃないかと思ってたことを肯定されて気が気ではないようだ。
「だが俺と後ろにいるアイラがすべて浄化したのでもう何も残っていない。安心してくれ。また俺自身はただのBランク冒険者であって、貴族ではないので言葉遣いとかは気にしなくていい。といっても急に砕けるのも無理だろうからおいおいでかまわない」
奴隷に今すぐフレンドリーに接してくれって言っても無理な注文だよね。
「君たちの仕事はこの屋敷の保守と俺、アイラ、もうじき戻ってくるがオリヴィアという女性の食事の用意などの身の回りの世話だ。アイラは君たちと同じ奴隷だが、俺と一緒に冒険者をしているので基本的に家事はしない予定だ。では右の女の子から自己紹介をどうぞ」
「あ、は、はい。レニエと申します。料理屋の娘でしたので調理には自信があります。よろしくお願い致します」
「はい、よろしく。料理は期待しているからね」
という感じで自己紹介を一通りしてもらった。メイド長はリディという女性にお願いした。彼女は貴族の屋敷でメイドをしていたが不祥事の煽りを食らって奴隷になったとのこと。
ちなみに曰く付き物件はかなり前からなので彼女は別口だ。他の人はせいぜい民家での家事なので少しでも慣れている彼女にお願いした。
「役割分担は自分たちで話し合って決めてくれ。俺からの注意事項としては俺たちの能力などを外部にもらすことを禁止する。また奴隷内での差別やイジメも禁止だ。俺は獣人にもエルフにも差別意識がないので悪いけどこれは強制だ」
俺の家で陰湿ないじめとかあったらめげちゃうからね。
「後他に言うことは・・・何か希望があれば出来る範囲で叶えるよ。質問があればどうぞ」
人間の男性、ザウルが挙手をした。
「主人の意向に異を唱えるつまりはないのですが、俺たち人間族と穢れた獣人をいっしょにするというのはやめたほうがいいです。ケン様が物笑いの種になるかと」
うーむ。やっぱり一人はこういうのがいるか。俺への善意でならともかくこいつ自身の差別意識っぽいな。
アイラをチラッと見て竜眼と口の動きで伝える。
「今の俺への忠告には自身の差別感情は含まれているか?」
「いいえ、とんでもありません。ケン様の名誉を思ってのことです」
アイラが首を横に振ったので嘘確定だな。
恐怖スキルをザウルに絞って弱めに使う。
「お前の口がいい加減なのは分かった。そして差別の根拠にしているだろう人間の宗教は人間が自分達の都合のいいように作り上げた、ただの妄想だ。神は一切かかわっていないし、まして人間を特別扱いなんてしていない」
恐怖スキルの出力をどんどんあげてやる。
「お前は子どもの落書きレベルの幼稚な文言を信じて、他者を貶めているだけの大ばか者だ。人を貶めたところでお前が有能になるわけじゃないって事にさっさと気づけ。
それと、俺の奴隷でいる間はどう思おうと差別は禁止だ。いいな!」
だんだんと顔色が真っ青になり、がたがたと振るえ、仕舞いには失禁した挙句泡を吹いて気絶した。
「怖がらせてすまないな。リディ、この馬鹿が起きたら自分で始末をさせてくれ。皆は隣の部屋で寛いでくれてかまわない。しばらくしたら仕事をお願いするから小休止しててくれ。それとリディは俺の部屋へ」
「はい」
リディと二人で本がたくさん詰まった書斎に移動する。といっても前の持ち主の残り物だらけで中身が何かは分からないのだが。
「君自身は他の人族への差別意識は?」
「・・・」
「ああ、あの馬鹿は自分のだしに俺を使ったから厳しく罰しただけだ。だから素直に答えてくれ」
「あの、ご主人様が否定なされた宗教で育ってきましたから、その・・・」
「そうか。だんだんでいいから解消して言ってくれるとうれしい。それと付き合ってみれば獣人も人間も、エルフもたぶん変わらないよ。良い奴もいれば悪い奴もいる。それだけのことだ」
「ご主人様はそのお年でずいぶんしっかりしたお考えをお持ちなのですね。ですが、今まで信じていた神がいないと言われるのはなかなか厳しいものがあります」
「ああ、神様はいるよ?人間が作った宗教が嘘っぱちなだけで神様はちゃんといるさ」
「・・・え?」
「だからそんなに悲観しなくても大丈夫。君には悪いけど、いじめが起きないように他の子たちに目を配って欲しい」
「あ、はい。かしこまりました」
「それと家の事が後手後手に回ってもかまわないから、君も含めて皆が体調を崩さないようにしてくれ」
「よろしいのですか?奴隷にそんなことを言う主人はいないと思うのですが・・・」
「いいの、いいの。変わり者の主人だと思って気楽にやって。この家買ったばかりだから衣食がぜんぜんないし、これお金ね。高いものはいらないけど必要なものは何でも買って。」
金貨5枚を渡したら驚いた顔をされた。
「こ、こんなに!?奴隷にこんな大金渡していいと思ってるんですか!?」
「え、だめ?奴隷って持ち逃げできたりする?」
「いえ、基本的にできませんけど・・・」
「じゃあいいじゃない。みんなの服も買ってね。足りなかったらまた渡すから」
「はあ・・・」
「2階の部屋をあとでみんなで探検していいよ。俺たち3人の部屋以外ならどこ使ってもいいから。一人一部屋どうぞ」
「はあ!?ご主人様たちと奴隷が同じ階層のお部屋なだけでもおかしいのに一人一部屋!?」
「うん、どうせ余ってるしね」
「いえいえいえいえ、そういう問題では!」
面白いぐらいに手と首を振っている。いやーなかなか面白いね。
「それじゃ、何人か連れて買い物とかよろしくね。アイラ護衛頼んでいい?」
「わかりました」
さて、思ったより大量にお金を使ってしまった。冒険者ギルドに行って明日からのお金稼ぎを考えないとな。




