2話 転移のその先で
気づけばそこは草原だった。
「おお、チュートリアルっぽい!さすが神様わかってるな」
一面きれいな草原が広がっている。丈の短い草だから何かに襲われる心配もない。
少し先には城壁のある街がかろうじて見えている。その右側には森が見える。
冒険者になったら薬草採取にでもいくのだろうか。非常に楽しみだ。
天気もいいし、風も気持ちいい。Theテンプレって感じだ。
服装はどこかのゲームで見たような布の服などにかわっている。
初期装備感まるだしである。一応銅?っぽい剣も腰に下がっていた。
剣を吊っている左側が重い。当たり前だけど武器を装備したことなんかないので
とてつもない違和感である。この世界で生きていく以上この重さにもなれていかないといけないな。
剣を皮の鞘から引き抜いてみる。
「おおっ・・・」
子どもの頃におもちゃの剣を買ってもらったときのような興奮がある。
そしておもちゃとは違う色合いが、これが本物の武器なんだと実感させてくれる。
「ふんっ・・・ふんっ・・・」
試しに振り回してみるが、やはり重い。剣道も剣術も習ったことはないので動きも適当だ。
「どっかで誰かに習わないとだめだな・・・」
そう強く感じ、ひとまず鞘に収めた。
・・・収めるときにうまくいかなかったのは内緒だ。
というか普通に左手を刺しそうだった。武器怖い。
よく漫画の主人公たちは違和感もなくこんなもんを扱えるものだ。
下手すれば自分の体を切って死んだなんて情けないエンディングになってしまう。
気をつけよう・・・・。
とっても気をつけよう・・・。
「あれ、そういえば眼鏡がない・・・のによく見える!」
実はあまり目はよくなかったのだが、それが解消され遠くまではっきり見えるようになっていた。こんな所で体が創り換わったことを実感するとは。まあまだ夢の可能性も消えてはいないんだが・・・。
「とりあえず見えてる街へ行こう。お金を稼いで寝る場所を確保しないと」
そう思って歩き出そうとした俺の目に、動くものが映った。
その瞬間地面と同化せよといわんばかりに地に伏せることになった。
なぜって・・・
・・
・・・・・・
・・・・・・・・・・
でっかいサーベルタイガーみたいなやつが森からのっそりでてきた所だったからだ・・・。
うそでしょこれレベル1で出会う敵じゃねえだろ死ぬわぼけふざけんな神こんなときにお茶目はいらねえぞこらああよだれだらだらたらしてらっしゃる動いたら襲い掛かってくる気がして動けないけど動かないと死ぬまじこれつんでるそうだ実は見掛け倒しかもしれないから鑑定しよう・・・ってレベル38って書いてあるやっぱり無理だステータスとかめちゃくちゃ高いじゃんどうしろっていうんだこれ!!!!!
>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>
ブラッディタイガー Bランク
レベル:38
称号
人食い
人を食って魔力を得た
魔力に取り付かれ魔力を欲している
魔力を持った生物を好んで食す
>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>
こちらが風上なのか奴は俺には気づいてはいないようだ。
しかし街に逃げ込むには奴のそばを通らねばならず、見晴らしがよすぎて隠れる場所もない。遮蔽物のある森は奴の後ろだ。魔物相手に森に入ったらそれはそれで死にそうだが。
てかなんでこんなやつが街のそばにいるんだろう。この世界危険すぎじゃないか。
しかもさりげなく称号に人食いってついてます。勘弁してください。
体中からいやな汗がだらだら流れている。比較的安全な所という話はどこへ行ったのだろう。対抗策なんて考えつかないし考えている間もなさそうだ。
奴は街には近寄らない方針らしく街の外であほな人間(俺)を探しているようだ。
というか思いっきりこっちを見てます。見つかってます!
「グアアァァーーー!」
奴は獲物発見とばかりに一吠えし、こちらに向かって走り始めた。
その距離残り200mぐらい。
もうすぐそこだと言っていい。
腰には剣があるものの、頼りなさ過ぎる。一瞬で叩き折られることだろう。
そもそも俺の能力がこいつの攻撃を受けられない。
一撃で即死だ。
一気に現実へ引き戻される感覚。
異世界チートだと浮かれていた。死なないだろうと。
順調にレベル上げをして強くなれるのだと。
自分がこんなに早く死ぬことなんて考えもしなかった。
死を強く意識したせいかパニックに拍車がかかる。
どうしようどうしよう。
逃げなきゃ逃げなきゃ。
安全な場所安全な場所。
そんな思考しか沸いてこず考えがまとまらない。
いや、まともに考えることすらできていない。
逃げたい逃げたい逃げたい安全な場所へ!!!
パニックになって頭の中が逃げたいしか出てこず、体はしびれたように動かない。
すると先ほど感じたばかりの視界が歪む感じだ。転移!?と思うまもなく
意識を失った。
目を覚ましたがそこは真っ暗だった。月明かりがかすかにあってかろうじて自分の手が見えるぐらいだ。
「生き・・・て・・・・る」
どうやらでかい木の中のようだ。ぼんやりする頭で
あの野郎今度会ったら・・殺・・す・・・・
神への恨みを思いながら意識はまた、溶けていった。
☆
「いやー危なかった、危なかった。
まさか最初から緊急避難の転移を使うことになるなんて、思っても見なかったな。
でもあれ使い切りだから次は助からないけど・・・・。
まあ何とか頑張ってもらうしかないな。こっちからは手が出せないしねー」
送った人間が死にかけたというのに能天気な神である。
「しっかし、安全だと思って冒険者のたくさんいる街のそばに送ったのに
おかしいなぁ・・・ちょっと調べてみるか」
「んーと。んー・・んー・・・・?」
「あ、なるほど。冒険者がたくさんいるってことは依頼がたくさんあるってことか。
ってことはつまり危険地帯と」
汗をだらだら流しながら納得する神。
「次、気をつけよう!」
全知全能には程遠い神なのであった。