プロローグ すいませんじゃ許されない
初投稿です。誤字・脱字等あればご指摘いただけるとうれしいです。
彼はごく一般的な人生を歩んできた。地元の小学校に入り、そのまま地元の学校を順番に上がっていった。
勉強もスポーツもそこそこ。クラスの中で平均より少し上、でもみんなから一目置かれるほどでもなかった。
習い事も学校の行事もクラブや委員会も、与えられた分の仕事は頑張るが、それ以上はやらない。
まじめではあるが、能力がそこそこだと諦めているためちょっと情熱に欠けるのであった。
ちなみに人間関係もそこそこである。普通にみんなと仲良くするが、頻繁に遊びに行くほどでもなく、親友と呼べるほど付き合いの有る友達もいなかった。(当然のように彼女はいない)
中学、高校と進み、大学にも合格した。勉強は好きではなかったが、そこそこがんばってはいたのでそこそこの大学に行くことができた。
大学もそこそこの成績で卒業し、そこそこの会社に就職した。
高給取りではないが、ブラックというほど残業があるわけでもない。
上司や先輩も普通の人で、大きな揉め事が起きるでもなかった。
彼はそんな”そこそこ”という言葉の似合う男だった。
この瞬間まで
「あれ・・・?どこだここ・・・?」
(おかしい。俺は今、営業先から会社に帰る道を歩いてたはずだ。そりゃちょっとスマホに眼を奪われてはいたから人とぶつかったりはしてたが、車に引かれるようなどじはしていない。横断歩道を渡るときは左右の確認はしてたし、大きな音を聞いた記憶もない・・・。
それにこの光景はおかしい。この世に真っ白な空間なんてあるわけ・・・。)
ふと気づくと目の前に眼を閉じた少年がいた。かわいいが厳かな雰囲気のある少年だった。
(おかしいさっきまではなにもいなかったはず・・・。てかなにこれ俺死んだんだろうか。この少年は所謂天使ってやつだろうか。神関係は信じてなかったんだけどなぁ。)
そんな益体もないことを考えているとその天使らしき少年が厳かな感じで話し始めた。
「木田 海斗よ。我は神なり。
そなたの深い深い祈りに答え、願いである異世界への転移をかなえてやろう!」
・・・
・・・
・・・
「えっと・・・俺・・・木田 海斗じゃなくて伊東 健太ですけど・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」
「えっと、小説のそういう話は好きですし、一定の憧れみたいなものはありますけど、神様呼ぶほど祈ったりはしてないと思うんですが・・・」
「えっと・・・ごめん・・・もっかい君の名前言ってくれる?」
神?らしき少年は先ほどまで閉じていた瞳を見開き、半ば呆然としたようにそう言った。
「伊東 健太です」
・・・・・・・・・・・・・・・。
「あれぇ・・・ちょ、ちょっと待ってくれる?えーっと僕がこーして座標がここでうーんと・・・」
神様?は僕の名前を聞くと、困ったようにうなりながら空中の何かを操作しだした。しばらく操作したあと何かを発見したのか顔中にだらだら汗をかきながら、再度こちらに顔を向けてきた。
「えっと・・・つかぬ事を伺いますが・・・ここに来る直前誰かとぶつかっちゃたりなんてしなかったよね・・・?」
「んーと・・・スマホいじってたんであれですけど・・・。確かに誰かとぶつかったような気がします。あ、でもほんとに軽くですよ」
「あんぎゃああああああああああ」
神?(いやもう神(笑)でいいか)は一番最初の厳かな雰囲気はどこかへ吹き飛び、かわいい顔に似合わない絶叫を上げるのだった。
神(笑)がパニックから復旧するのにしばしのときを要したが、やがて事情を説明してくれた。
それによれば彼は別の世界の神であるらしい。といってもやっとノルマをクリアし、ちょっと前にその世界の神になったそうな。また神といっても全知全能の存在ではなく、地球で言えば管理会社のような仕事らしい。
普段は表に出ることはなく、やばい事態に陥ったときなどにちょこっと手を差し伸べるぐらいで、基本的には魂の循環など裏方?的な仕事が多いそうだ。
そしてこれが今回の事件?の原因なんだそうだが、魂の循環は一定のシステムにのっとってほぼ勝手に行われているらしい。また神を支える天使たちがその動向を監視しており基本的に神が手を出すことはない。そうなるとあとは人間やら動物の生活を天上から眺めるしかない。
人間とは精神の強度が比べ物にならないことから延々と続くルーチンワークにも耐えられるそうだが、やはり神といえども同じことを数千年、数万年、数億年と繰り返していくと飽きてくるらしい。つまるところ暇をもてあましたのである。
そこで最近神たちの間ではやりだしたのが所謂異世界転移や、異世界転生を実際にやってみたらどうなるか、だ。無数に有る世界の中である世界から異なる世界へ、人間を転移させたら実際にはどうなるかという神による”暇つぶし”が敢行されることとなった。
もちろんこの”暇つぶし”にも一定のルールが定められた。
1.転移する本人達が転移を”強く”希望していること。
2.無駄死にさせないこと。
3.ひとつの世界から転移できるのは一度に5人まで。
などなど
1と3のルールが相反するようだが、これは過去に気に入った人間達を別の世界に逃がした神がいたようだ。「戦争で失われるのが惜しかった」とのこと。その後定めたルールだとか何とか。
大量の魂をひとつの世界からいきなり抜くとバランスが崩れる可能性があるため、頻繁にはやらないとのこと。
と言うか世界が無数にあるので偏らずに他のところでやれよってことらしい。
ちなみに今回の事件はお察しのとおり、異世界転移を望んでいた木田海斗君(15歳)をこの場所に転移させようとしたところ、その瞬間に俺とぶつかったため、入れ違いでこの場所に俺が飛んできたということらしい。失敗してたら体が半分になったり、混ざり合ったりしたんだろうか・・・・
「大変申し訳ありませんでした。(土下座中)」
「ちなみに聞くけど、戻れるの?」
「戻れません。すみません」
「すみませんで世の中許されると?」
「」
「何で戻れないの?」
「転移する都合上この空間に転移した時点で存在がなかったことになるからです」
「俺の存在抹消しやがったのか」
「」
「最初の眼つぶってたのなんで?」
「あの・・・その・・・・・・そのほうがかっこいいかなって・・・・・・」
「もしかして間違えたの格好つけてたからとか言わないよね?」
「」
非難?するたびにだんだん神(笑)の姿が小さくなっていく(比喩にあらず)。無駄なことに凝っているようだ。
神(笑)の話を聞いているうちにあほらしくなり、俺の言葉遣いも適当である。
ちなみに神(笑)が焦っている一番の原因はルール1を思いっきり破っているからである。ここで俺がごねると、神の地位から下ろされ、うまくいって天使からのやり直し。下手すれば地獄(のようなところで拷問の末)消されるらしい。
「ほう、結構重い罪なんだね」
「すいません、マジ助けてください」
「助けてほしいのはこっちなんだが?」
「」
非現実的な内容のせいもあり、楽しくなってきた俺は終始笑顔である。
神(笑)はさっきから汗を滝のように流しているが。
「あの所謂チートをあげますので、なんとか行っていただけませんでしょうか」
「やー平和を愛する日本人がよその世界なんて無理でしょ。戦えないし」
「だ、大丈夫!小説にあるような俺TUEEEEEができる力あげるし!」
「せっかく頑張って仕事にも就いたのになぁ。全部パアか」
「お金も日本より稼ぎやすい世界だよ!」
「それリスクもあがってるよね?」
「」
「家族と会えなくなったしねぇ・・・」
「」
などなど一通りいじめてみたが、どうやら本当に帰れないらしい。
あまりいじめすぎて、何の恩恵もなく放り出されても困る。
ここらで諦めるか・・・と観念し、実際の転移した後の話に移ることにした。