些細な事故だったよ
ブックマーク200人突破!
ありがとうございます(^^)
んん……
目が覚めた僕の視界に映ったのは、心配そうに僕の顔を覗き込んでるサーシャちゃんとルドル君の顔。
僕の目と、彼女のパッチリと開いた目が合った。
「ああー!起きた!大丈夫ですか!?」
痛い
起きてすぐその声で騒がれると頭に響く
そもそも僕はなんで寝ていたんだろう。
状況がいまいちよくわからず、僕はゆっくり起き上がる。
すると頭にズキズキとした痛みが走った。
それを不思議に思いながら手を頭の方にやって、僕はようやく思い出した。
「申し訳ございません!ご主人様の頭を殴るなんて、急すぎて私も止めることができないで……」
「姉ちゃんが知らない人に虐められてると思ったら気づいたら身体が動いてました。俺たちを助けてくれたのにそれも知らないで殴ってごめんなさい」
二人は頭をさすっている僕の前で腰を下ろして床につくまで頭を深く下げている。
顔は見えないけど、身体が怯えるように震えている。
そりゃそうか
一応僕は主人らしいしその人に暴行を振るったんだ
怒られるのが怖いんだと思う
頭は痛みが残ってるけど触った感じへこんでる様子もない。
それにルドル君の言う通り、確かにさっきのは知らない人が泣かせてるようにも見えただろう。
この子たちもちゃんと謝ってくれたし、些細な誤解が生み出した事故だったんだよね。
「えっと、二人とも顔を上げて。大丈夫、怒ってないから」
出来る限りの柔らかい声で彼女たちに話しかける。
それでも一向に頭を上げようとしないので、もう少し理由を付け足す。
「ルドル君の言ったことも分かってるつもりだよ。確かに君から見たら僕は初めて見た人だったろうし、お姉ちゃんが泣いていたら僕を悪と捉えるのも理解できる。これは少しの誤解が生み出した事故だった。そうでしょ?それに君達はこうして僕にきちんと謝ってくれてるじゃない。だから僕は別に怒ってないよ」
「……本当?」
ルドル君が少し顔を上げて僕の顔を窺ってくる。
それに僕は大きく頷いた。
「勿論だよ。さ、サーシャちゃんも頭を上げるんだ」
サーシャちゃんもおずおずと顔を上げた。
ただまだ疑っているようだったので、僕は明るい声で言う。
「さ、ちょっとしたハプニングはあったけどご飯にしよっか。サーシャちゃん、僕はどれくらい気絶してた?」
「30分ほどです」
「そっか。うん、クリームシチューもすっかり冷めちゃってるね。これはもう一回温めなおさないとだめかな」
そう言ってクリームシチューが入った鍋をコンロに置き再び温めた。
温めてまたいい匂いを放つ鍋をテーブルに戻しに行くと、二人はまだボーッと突っ立っている。
僕は二人の器にそれぞれ掬って椅子の前に並べて置いた。
「さ、二人とも何突っ立ってるの。早く座ってご飯にしよう」
「い、いけません!私たちは奴隷ですので、ご主人様と同じ席で食事を取るわけには」
「さっきは普通に食べてたけど、なんでダメなの?」
「あの時は冷静じゃなかっただけで……」
そう言って頑なに拒否するサーシャちゃんをじっと見つめる。
これは良くないな、と思った。
「あのね、僕は成り行きで君達と契約することになったけど別に主従関係なんて考えないでいいんだよ?」
「そ、それはいけません!」
「それこそ何でだよね。もうひとつ言っておくと、別にご主人様なんて呼び名で僕のことは呼ばなくていいよ。そんな呼び名には慣れたくもないからね。好きな名前で呼んでくれて大丈夫」
「そんな……」
僕は本当に、契約なんて結んだからと言ってこの子達を奴隷扱いする気なんてない。
それなのにご主人様なんて呼ばれるのは変な気分だからやめて欲しい。
僕がそう伝えると予想以上にあたふたしている。
サーシャちゃんは想定外のことが起きるとパニックになっちゃうタイプの子なのかもしれない。
「じゃあオレは兄ちゃんって呼んでもいいか?」
「ルドルっ!」
僕と彼女の話を聞いていたルドル君の方が先に、僕の願い通り、ご主人様呼びと敬語を止めてくれた。
サーシャちゃんはルドル君を叱ったけどそれを止めてルドルの頭を軽く撫でる。
「あはは、ルドル君がそれでいいなら僕はいいよ。随分かわいらしい弟ができた気分だ。ほら、弟君も出来たんだからサーシャちゃんも出来るよね」
良いと言ったらルドル君は目を輝かせて喜んでいた。
僕は少し煽るようにサーシャちゃんに話しかける。
「……すいません、ご主人様。自己紹介をしてもらったのは覚えているのですが、あの時は意識が朦朧としていたためご主人様の名前が思い出せないのです。もう一度言っていただくことは出来ますか?」
ああ、さっきから悩んでたのはもしかしてこのことだったのかもしれない
だったら少し言いすぎたかな?
あの暑さだったし、覚えてないのも仕方ないよね
「僕は葉月 真尋だよ。葉月っていうのが苗字で真尋が名前。気軽に真尋って呼んでくれてもいいけどね」
「滅相もありません。……そうですね、ではマヒロお兄さまとお呼びしてもよろしいでしょうか?」
サーシャちゃんが暫く悩んだようで、こちらを窺うようにして聞いて来る。
真尋お兄さま
その言葉が僕の頭の中で広がっていく。
「うっ……」
片膝をついて床に手をつける。
頭痛がかなり広がり、立っているのが困難になった。
「マヒロお兄さま!大丈夫ですか!?やはりこの呼び方は……」
「いや、それで大丈夫だよ。今ちょっと立ちくらみがしただけさ」
「そう、ですか」
僕が倒れたことであたふたとして声をかけてきてくれたことで正気に戻れた。
彼女を安心させるようにルドル君と同じで頭を軽く撫でてから椅子に戻る。
何で今更思い出したんだろう……
また考えの沼に入りかける。
二人が僕の方を黙って見ているのに気づいて、すぐにそれを中断した。
「さ、今度こそ冷めないように頂こうか。ちゃんと椅子に座ってね」
その言葉に従うように、僕の対面に二人は座った。
グラスにマンゴージュースを注いでいく。
甘い飲み物は大丈夫かと聞いたら二人とも「大好物です」と答えてくれた。
それに苦笑して口調も普段通りでいいと伝える。
「兄ちゃん、分かったよ」
「すいません、私の場合これが素なので……」
「ルドル君、本当?」
「姉ちゃんは基本どんな人にも丁寧に話してるぜ。オレにはきつく当たってくるんだけどさ」
「ルドルは一番近い間柄でしたから。なので、すいませんが慣れるまではこのままでお願いしたいです」
なるほど、サーシャちゃんはクールキャラと。
ルドル君は順応性が高そうだ。
僕はマンゴージュースをなみなみと注いだグラスを持った。
二人も僕に合わせて持ってくれる。
「それじゃ、僕たちの出会いに。乾杯!」
カチャン、とグラス同士が弾く音が鳴った。
ああ、似ているなぁ
少し恥ずかしげにマンゴージュースを口に運んでいるサーシャちゃんの姿は、長年忘れていた妹のことを思い出させた。
最後が少し湿っぽくなっちゃったかな?
マンゴージュース、美味しいですよねー。
特にコストコで買ったヤツ(名前知らないけど
もうすぐ本格的に異世界活動がスタートする予定です
次の投稿は明日の10時(そろそろデジャブ感?
ブックマークや評価、感想などお待ちしております!




