十話
夜光石の輝きが六人の足元を照らす。
欲を言えば光源が欲しいとろこだ。キンコは首をひねった。
候補としては松明がまずあがる。しかし前衛の片手がふさがるのよろしくないし夜光石とどっこい程度の光量しかない。又は照明呪文が封じ込まれた魔法のランプか。光球を宙に飛ばすこのマジックアイテムなら使い勝手、光量ともに申し分ない。
だがお値段が張る。これひとつで現況一日の稼ぎの大半が吹っ飛ぶ。定宿を程度のよいところに移り変えたばかりなのにこれ以上の出費増大は財布が耐えられない。
それじゃあ収入がどれほど増えたのなら使い捨て消費アイテムである魔法のランプを継続的に購入しても問題ないかを暗算で計算してみよう、とキンコは脳みその裏に計算式を書きつけた。
昨日ジェラートに習ったばかりの算術だ。身につけた知識は使ってみたくなるもの。しかし場所が悪い。今HDクラッシャーズは迷宮地下一階、マップ左上北西部分を探検中なのだ。
暗算と迷宮探索の両方をこなせるほどキンコの器用さは高くない。ポケーと口を開けて心ここにあらずの様子を肩を並べる後衛仲間であるジェラート、ムーニャに見咎められ怒られてしまった。
「うーしゅみません。しゅみません」
ペコペコとデカい体を上下させて謝るキンコ。慌てていて舌が回っていない。いつもどおりの光景だ。
一行は、中央回廊のドアの一つを開放し地下一階北西部探索に手を付けていた。
足を運んだ先は曲がりくねった一本道が続いていた。途中ドアをいくつか発見したが素通りしている。とりあえずこの一本道を行き止まりまで探索してしまおうという行動方針を皆で決めたのだ。
だが長い。一向に道程は終わらないのだ。分かれ道もなくひたすら奥に奥にと続いていく。
――まるで迷宮に飲み込まれていくようだ……
先頭をいく真守は胸に不安を、額に冷や汗が落ちる。
真守が引き返そう、と口を開こうとした矢先、視界の先に壁が見えた。終点だ。
真守は安堵し、不安をはね返すように仲間たちに軽口をかけた。
「ふぅーっ、ったくこういう時だけ魔物共も出てきやがらない。いやあな奴らだぜ。なあ?」
「……待て、真守。何かいるぞ……」
肩を並べる利明が剣の切っ先で迷宮の片隅を指し示す。迷宮の頼りない光源に潜んでいた、それは小さな人影だった。
前衛三人が緊張する。徘徊モンスターにしては様子が静かすぎる。
アイコンタクトを交わし一つ頷くとズリズリとすり足で人影に近づいていく。
近づき正体がしれた。小柄な老人だ。濁った沼のような貫頭衣を着て裸足。右手には灯火の消えたランプを持っている。
異様だ。かの老人が不気味な雰囲気を纏っているという訳ではい。街で見かけてもなんの感慨も持たず見逃すだろう、ただの年寄りだ。異様なのは状況がだ。ここは魔物はびこる地下迷宮なのだから。
たが見た目はただのお爺さんである。いきなり斬りかかるのはためらわれた。真守が恐る恐る話しかける。
「おい、爺さん、あんたいったい……」
小柄な老人は返答しなかった。その代わりといでもいうのか手にしたランプを輝き始める。油やガスのようなゆらめく炎ではない、魔法の照明だ。魔力をともなった発光特有の容赦無い太陽光の如き目に突き刺さる光が、迷宮を映し出していた弱い夜光石の光を瞬く間に飲み込んでいく。
動揺するHDクラッシャーズは体に違和感を覚えた。得体のしれぬ浮遊感が全身を天井に引っ張る。ムーニャが悲鳴を上げた。
「こりゃあテレポート――瞬間移動だニャ! うニャニャニャーっ!!」
視界が、いや空間がグニャリと歪んでいく。真守は理性を手放し悲鳴を上げた。喉が張り裂けんばかりに大声をあげたのだが、その不思議な声は頭に直接伝えられたかの如くはっきりと聞き分けることが出来た。
「日のふりそそそぐ地上へ送ってあげよう」
そして気づくと地上にいた。青空がまぶしい。HDクラッシャーズは一人もかけることなく全員いる。辺りを見渡すと現在位置は迷宮直上の町外れのスラムのようだ。傾きかけたボロ屋が寄せ集まった見慣れた光景がひろがる。
生きて地上に戻ってきたのだ。真守達は未知の体験に腰が抜け、ヘナヘナと地べたにへたり込んでしまった。
休み、なんとか立ち上がった後、近くにあった露店の店主に話を聞いてみた。
店主によると、あの老人は通称「緑じじい」と呼ばれる謎の存在で危険はないが話しかけた冒険者パーティーを地上に強制テレポートさせるらしい。
さきほど会った緑じじいの他にも、赤じじいと青じじいがいて同じような事をやっているそうだ。
ここ町外れのスラムでは飛ばされて突如目の前に冒険者達が現れる現象は、よくある日常風景の一つなっており、今では誰も驚かないらしい。
この場所もテレポート先の一つで、露店の店主は飛ばされてきた冒険者相手に茶と軽食を提供して儲けをだしているそうだ。
一息つこうと六人分の茶を注文して一服する。薄くてまずい、そしてぬるい。それでも頭はシャンとした。
現状を確認する。あの緑じじいという存在は中々便利な存在だと思う。
今日の所は意に沿わぬ形で振り出しに戻されてしまった訳だが、任意のタイミングで飛ばして貰えばこれほど便利なものはない。グッタリと疲れた体を引きずり長い登り階段を昇るはまったく苦行そのものだから。
日はまだ高い。HDクラッシャーズ一行は茶を飲み干すと今日の稼ぎが待つ迷宮へと戻っていった。
間が大分空いてしまいました。ごめんなさい。定期更新無理でした。
最低でも一ヶ月に一回は更新して忘れられないよう努めます。




