十二話
としあき はジンジンと痛む足を抑えて唸っていた。テーブルの下から飛んできたブラウスのつま先キックが食らったのだ。――なんてひどい奴であろうか、としあき は逆恨みしている。ブラウスの方は、注文した水でずーとお口くちゅくちゅしていた。
この一件が不毛な争いの日々の幕開けとなった事を二人はまだ知らない。
残りの二人はこれからの予定を話し合っている。前衛は三人そろったので後は後衛二人を仲間にする。その後は商店で金を出しあい前衛の装備を整える。ジェラートがため息をつく。
「いっておくが私に期待しないでくれ。マシニカを出る時はそれなりに持っていたが道中、一流トラブルメーカーのおかげで素寒貧だ。さっきのトドメの一撃も痛いなぁトホホ」
「まあそこはなんとかなるだろう。安物の銅剣あたりは迷宮から腐るほど出現するから値が暴落してるらしいし」
そんな建設的な話し合いの最中、再びウィーワントの酒場に客が訪れる
チャランチャラン。ドアが客を迎え入れるベルを鳴らす。酒場がざわめいた。
のそりと入ってきた人影は巨漢だった。2m近い体格。そして青肌青髪。頭頂部に短い一本角。暴力的に発達した筋肉と腰にさげた太い棍棒とが合わさればどれほどの脅威となるか想像はたやすい。
女のギガンテスであった。ギガンテスとは主に大陸北方の寒冷地帯で幅を利かせている種族で古の巨人族の末裔と称している。その腕力はあらゆる種族を凌駕し大陸最強の名をほしいままにしている。
酒場は異様な雰囲気に包まれた。中には得物に手をかけている冒険者もいる。そんな緊張感のなか女ギガンテスはどすどすと酒場に入り、ウィーワント親父の目の前まできた。ドンと腰をすえるウィーワント親父に動揺はない。さっきの変な女は例外中の例外である。
女ギガンテスが口を開いた。それは意外なものだった。
「あーあのー、えと、こ、こんにちはっ! 私はキンコと申します。訓練所で聞いたんですけど、ここで一緒に迷宮に行っても貰える仲間を見つけて貰えるって聞いたんですけど…。ええと、その手続とかあるんですか?」
意外な言動に酒場の空気は一気に弛緩してゆっくりとしたものに戻った。女ギガンテス――キンコの喋り方はたどたどしく見た目に似合わず覇気のない、自信のなさが現れるものだった。ようく見れば物腰もオドオドしていて背を丸め猫背ぎみ。目線は一定せず挙動不審ぎみである。どうやら警戒が必要な人物ではないようだった。
ギガンテスという種族にまつわる噂がまちがっていたのか、キンコ個人がヘタレな性格なのかは解らないが。
ウィーワント親父は問いに答えた。
「手続きなんぞないわい。勝手にそこらの冒険者に声をかければいい。ただし何かしら注文してからにしろよ」
「うう、はいぃ」
ウィーワント親父の少々高圧ぎみの喋り方にキンコはおくしているようだ。臆病にコミュ症も入っている性格らしい。水を注文して親父の機嫌を悪くした直後、キンコはビクリと体をひきつらせた。足元から悲鳴が聞こえたのだ。
「ニャンニャーッ! お助けぇー!」