十三話
それは猫だった。精確には猫の獣人。デブ猫が直立したような姿をしている。薄い小麦色の体毛に魔法使いのローブを着ている。
身長が小人くらいしかないのでキンコのデカさとインパクトで誰も目を向けなかったのだ。ただ一人を覗いて。その例外はブラウスだった。無類の猫好きである彼女の猫センサーは猫の獣人のヌイグルミのような愛らしい姿を見逃さなかった。
前述の悲鳴は背後から突然ブラウスに襲われ全身をモフられてしまっている猫の獣人のものだった。目をランランと輝かせて無言で服の間から手を突っ込みまさぐるブラウスの姿はまさに変態であった。
「ぎょにょええー、尻尾の付け根はらめぇぇぇぇー、助けてえキンコ!」
「あ、あなた一体誰ですか! やめて! ムーニャを離してください!」
猫の獣人――ムーニャを助けるためブラウスを引き剥がそうと懸命に頑張るが、ブラウスは一向に離れない。両手両足でムーニャの体にがっちりホールドしているのだ。まもる とジェラートも駆けつけて手伝うがあまり役立っていない。ブラウスの行為は段々とエスカレートしていき、耳をモグモグして味わいつつ鼻を押し付けてクンカクンカしている。さらには触れてはいけない秘所に魔の手が伸びようとしていた。
ただブラウスの暴走もここまでであった。さきほどからオロオロアタフタとしていたキンコの雰囲気が突如急変し、そのギガンテス族の鉄拳を宙に振り上げた。
「やめろといっているだろうがッ!!!」
ズガンッ
風を切る音とともに振り下ろされた稲妻のごときチョップが変態のどたまを貫き、まだ口内をくちゅっていた酢くさい水を吹き出しながらぶっ倒したのだった。どうやらこのキンコ、キレると危ない奴のようだ。
「ふにゃーん。キンコー怖かったよぉー」
無事救出されたムーニャはキンコに抱きつくが、当のキンコはいつもの調子にもどり自分がしでかした惨事にびびり床に倒れた自業自得なブラウスにしきりに謝っている。ジェラートもブラウスに駆け寄るがまあなんとか生きているようで色々な意味がこもったため息をひとつついた。




