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追放聖女は愛を求めて旅に出る ~偽聖女だと王子様に婚約破棄されたけど私が本物の聖女です!戻って来てと言われてももう遅い。ウキーッ!~  作者: U


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閉幕:おバカな王子様に鉄槌を!戻って来てくれと言われてももう遅い!ウキーッ!【自然界は支え合い共倒れ】

 変化は、緩やかだった。

 聖獣をいただき長の世を経たジェイン国では、聖獣の、“聖女”の本当の意味が忘れられていた。

 王太子のグドゥルが、“聖女”を形骸化と断じたのもむべなるかな。

 だから誰も気づかなかった。その変化に。

 国の誰もがあずかり知らぬところで、致命的な変容が齎されていたことに。


 聖獣は、聖獣である。

 おとぎ話のような伝説は、実際であった。

 豊穣神の恩寵を授けられし聖獣は、知能、身体能力に優れ長寿。近縁種全ての長となる。

 聖獣の棲む地の土は富み、遍く緑は繁る。

 その証左に、ジェイン国は飢餓を経験したことがない。

 ジェイン国では、蒔いた種の芽が出て実が生るのが“普通”だった。

 季節も気候も、どのような植物かも関係ない。

 大した世話も肥料も要らず、季節気候が適していれば尚のことすくすく育った。

 作付により土地が痩せることもなく、連作障害という言葉は辞書にない。

 長くそれがジェイン国での“節理”であり、当然であったので、その知らせは青天の霹靂だった。


「コパムの実が生らぬ……だと……?」


 最初、その報を受けたのは蟄居を解かれた王太子のグドゥルだった。

 卒業後、執務として父王からコパムの実の管理を任されていたグドゥルは、執政官の青褪めた顔を驚きを以て見返した。

 コパムの実はジェイン国民の主食である。高い木に生る人間の頭部ほどもある大きな実で、水分がほとんどない中身は、くり出してすり潰すと粉状に変化し、これに水や乳を混ぜ火を通したものを主食としていた。

 滋養に富み、粉にした場合は水分を含むと何倍にも膨らむとあって、コパムの実は自国の主食としても、他国への輸出品としても、大変に重要な作物だった。

 これが生らぬとは、国家危急の一大事である。

 グドゥルは慌てて配下に調査を命じたが、異変はこれだけに留まらなかった。

 静々と、ひたひたと、崩壊という名のグラスに音もなく水が満ちてゆくように、王国の各地から不作の報が届く。

 コパムの実だけではない、様々な種類の作物が実らなくなっていった。

 実が無ければ種も採れず、次の作付けも出来ない。

 収穫量を増やす手立てなど何も持たないジェイン国は、加速度的に飢餓への道を突き進んでいく。

 王宮、神殿、市井も一丸となって対策と原因の究明に取り組み、水際で飢餓の発生を食い止めることは出来たが、原因は(よう)として掴めず。

 結局、それが判明したのは、国に広がる豊かな森が枯れ始め、なりふり構わず他国から専門家を招聘してからのことだった。


「猿がおりません」

「……は?」


 グドゥルはいっそ(いとけな)いまでにあっけにとられた顔つきで招聘した学者を見やった。

 猿がいない、だから何だと言うのか。グドゥルの内心で疑問が苛立ちに変わるより早く、学者は口早に続ける。


「此度の調査にて貴国の森林を隈なく踏査いたしましたが、霊長類、殊にチンパンジーを始めとする猿の類が姿を消しております」

「それが何だ。我が国の不作と何の関わりがある」


 グドゥルの声には、抑えきれない苛立ちが滲んでいた。 国家の危機に瀕して寝食を削り対策に奔走する日々。 その疲弊の果てに得られた回答が「猿がいない」では、徒労感を禁じ得ない。

 異国からわざわざ呼び寄せた高名な学者は、滔々と継いだ。


「殿下、自然とは織物のようなものにございます。互いに折り合い絡み合い、複雑に支え合い引き合い、奇跡のバランスで成り立っているのです。

 自然界から1つの種が消えるというのは、それは大変なことなのですよ。甚大広大な影響がございます」

「それで?」


 苛々と続きを促す青年に構わず、学者は事実を淡々と述べてゆく。


「植物が実を結ぶには受粉が必要です。花粉を雌蕊へと運ぶ役目を担う生物を"送粉者(ポリネーター)"と呼ぶのですが、一般的には虫や鳥類が送粉者(ポリネーター)として知られています」

「だから何だ!」


 老齢の学者は、利かん気の強い子どもを宥めるように、グドゥルへ眼差しを向けた。


「貴国の方はどうも全く認識、いや意識しておられなかったようですが……」


 そこで初めて視線にまざった哀憫に、グドゥルが動揺を覚える間もなく、学者はグドゥルにとって決定的な一言を突き付けた。


「貴国におきましては、猿――――特にチンパンジーが、送粉者(ポリネーター)として極めて重要な役割を果たしていたようですな」

「…………え?」


 グドゥルは、思わず息を呑んだ。


「チンパンジーは果実を好みます。樹上を縦横に駆け巡り、花を掻き分け果実を求める。その過程で、毛深い体躯に付着した花粉が、あちらの木からこちらの木へと運ばれるのです。貴国のコパムの木は何と表しますか、“微妙な”高さでしてな。虫には高すぎ鳥には低すぎといった具合で、それこそ猿のような樹上生活者にとってちょうどよい高さに果樹を実らせる。恐らく送粉者(ポリネーター)を猿に限定することで差別化を図るという生存戦略の結果と推察しますが……」


 学者の言葉が、耳朶を右から左へ流れていく。

 衝撃から立ち直れず、グドゥルは呆然と立ち尽くした。


「加えて申し上げれば、猿が消えたことで、彼らが食していた果実が過剰に実り、それを糧とする虫が異常発生、その虫が他の作物をも食い荒らすという、負の連鎖も確認されております。自然とは、かくも繊細な均衡の上に成り立っておるのです」


 小さな震えが、指先から、足元から上ってくる。

 グドゥルは知っていた、いや聞かされていたのだ。王族として、王族だから、女神と聖獣のお伽噺を。



 いまはむかし

 緑絶えし不毛の地

 哀れや思し召し豊穣神

 神徒たる獣に恩寵与えり

 形て聖獣と呼ばれし獣

 聖獣の歩む道 あまねく緑とす

 聖獣の導くところ 獣ら相随い

 女神の恩寵以て 森おさむる



「じ、自分は……」


 呻きのようなそれが震えていることに、グドゥルは気付かなかった。

 自分は何をした? いったい何を、……そう、ルイジアナを、聖女、違う、あの獣――――……


 千々に乱れる思考の中で、然し悲しいかなグドゥルの明晰な頭脳は、無情にも正解を導き出してしまった。


 ――――ルイジアナは聖獣、種全ての長なれば、長の出奔に種は付き従う。


「聖獣、を……追放、した……っ」


 がくり、と青年の膝が折れた。

 ルイジアナが追放され、ジェイン国中の猿たちがその後を追った。 国境を越え、森を抜け、聖獣たる彼女の背中を追って。

 王太子が心安らかに眠りについていたあの夜、音もない無数の影が、国泰民安を輩に国を去って行ったのだ。

 冷たい石床に手をついたグドゥルの、血の気の失せた唇から呻きが漏れる。


「……て……、くれ……」


 それは懇願のようで、――悔恨のように。


「戻ってきてくれ……ルイジアナ…………!!」


 愚かな王太子の慟哭が、冷えた石壁に吸い込まれていった。

 人の少なくなった王宮に、それはいっそ冴え冴えと響き渡り。

 グドゥルの嘆きだけが、石造りの宮へ静かに満ちていった。









 END









この後婚約者(人間)をめちゃくちゃ拝み倒して結婚をハイパー前倒し結婚と同時に譲位戴冠妊娠出産王太子任命で新たな聖獣発見、また猿だったが今度は小さくて可愛いピグミーマーモセットだったのでひと安心――までを超スピードでやってのけ、新聖女任命と前後して国を去った猿の半分以上が戻り森は回復、農作物の収穫量も徐々に戻り、グドゥルは国の歴史上初めて聖女と結婚しなかった王となりました。

因みに出てった残りの猿は、数年後「ヨサゲなイケてるオス(アディオス)いなかった!!」とぷりぷりしながらルイジアナが帰郷した時に一緒に戻ってきた。

ル「誰よその女ァ!!」 ってなってひと悶着あった。

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