〜無音の影の、とある最前線目撃記録〜『白紫の天使(マイエンジェル)がやってきた』4.5話3/3の裏話
「声を発するセリフ」
『手話を使用した会話』
【筆談を使用した会話】
《モールス信号を使用した会話》
(心の中、ひとり言)
大将に拾われてクロウが仲間になってから、さらに数年が経った頃。俺たち3人組も、クロウが叩く簡単なモールス信号くらいなら、アジトの床の振動でなんとなく理解できるようになっていた。
そんなある日の午後、留守番をしていた俺たちのカフスに、依頼に出ていたクロウから凄まじい速度の魔力パルスが叩き込まれた。
──トトトト、トトトトッ!!!
「ジーク!クロウから超特急の救難信号だよ!?」
サシャが洗濯物を放り出して叫ぶ。俺とダグは即座に武器を手に取り、アジトの玄関へ飛び出そうとした──まさにその瞬間、バァァン!!と扉が勢いよく蹴り開けられた。
「大将……っ!?」
戻ってきた大将の衣服は魔物の返り血で真っ赤に染まり、その背後には、同じく泥まみれのクロウと、さらにその後ろに縄を解かれたばかりのボロボロの獣人族たちが数人、怯えたように身を寄せ合っていた。
そして、大将の両腕の中。大怪我を負って気絶している、白紫色の可愛いオオカミ耳と尻尾を持った小さな女の子が、大切そうに抱きかかえられていた。その右耳には、ナイフで深く切り裂かれた痛々しい傷跡から、まだ血が滴っている。
「おい、ジーク、サシャ!今すぐ温かい湯と包帯、それからダグ、大鍋いっぱいにスープを用意しろ!この子らを今夜中に全員温めるぞ!」
大将の怒鳴り声のような指示に、俺たちは弾かれたように動いた。
サシャが速攻で救急箱を抱えて走り、大柄なダグは、大将の腕の中で小さく耳をピコピコと震わせているオオカミ少女を見た瞬間、大粒の涙を床にボタボタと溢れ落とした。
「う……、うわぁぁぁあああ!!な、なんて酷いことをしやがるんだクソ奴隷商人の野郎どもォォ!! ──ジーク、見ろよ! この子、スラムに舞い降りた本物の『天使』じゃねぇかよぉぉぉおおお!!!(ブワッ)」
「いいから泣いてないで大鍋の火を起こせ脳筋!!」
俺がダグの背中を蹴飛ばし、アジトの厨房は一瞬で戦場のような忙しさになった。
◇
数時間後、手当てを終えてふかふかのベッドで目を覚ましたオオカミ少女──名前をフェンと言うらしい。フェンちゃんは、最初は野生の獣みたいに俺たちに牙を剥いてカタコトで威嚇してきた。
「ワタシ、ムノウ……!詠唱、ウタエナイ……!家畜と一緒、コロセ……っ!!」
家族にすら無能と売られ、完全に心を壊されていたフェンちゃんの悲痛な叫び。見守っていた俺たちの胸が締め付けられたその時、大将はいつものぶっきらぼうな笑顔で、フェンちゃんの小さな手をその大きな手でそっと包み込んだ。
「ハッ、何が魔法だ、何が詠唱だ。そんな安っぽい言葉なんて使えなくていいんだよ。お前にはさ、人間なんかよりずっと凄い、野生の超スピードと格好いい牙があるだろ」
その大将の言葉に、フェンちゃんは瞳からボロボロと大粒の涙を流して、大将の胸に顔を埋めて泣きじゃくった。その感動の光景の裏で、ダグは「大将まじ最高……フェンちゃんズッ友……」と壁に頭を打ち付けて号泣し、サシャは「もう、フェンちゃんにお肉いっぱい食べさせよ!」と、涙を拭いながら厨房へ走っていった。
その日の夜。アジトの大きな丸テーブルには、入りきらないほどの大鍋が並べられ、湯気が立ち上る温かいお肉のスープが並んだ。一緒に救出された獣人族の仲間たちも、最初はビクビクしていたが、ダグが「ほら!遠慮しないで食えよ!」と豪快に肉を皿に盛り、サシャが優しくパンを差し出すと、みんな本当に嬉しそうに、泥にまみれた顔をほころばせてスープを貪り食った。
「トーゴ!おにくだいすき!ワタシ、このお家、だいすき!!」
お口の周りをスープでべたべたに汚しながら、生まれて初めて「美味しい」と笑うフェンちゃんの笑顔は、まじで世界を救うレベルで可愛かった。
「おい、ダグ。お前のご飯、フェンちゃんに半分奪われてるぞ」
「いいんだよジーク!! 俺の肉はすべてフェンちゃんのものだ!! ほらエンジェル、このデカいお肉も食べな!!」
「ウオォン!ダグ、いい奴!ワタシ、ダグもおにくだいすき!!」
言葉を奪われ、世界のシステムから欠陥品と檻に閉じ込められていた獣人たち。けれど、この夜からアジトに加わったフェンちゃんと獣人の仲間たちによって、名もなき俺たちの集まりは、一気に賑やかで五月蝿い、世界一温かい『大家族』へと変わっていったのだった。
(完 続く!)
※モールス信号は日本の五十音、イロハ・モールス(和文信号)で会話してる設定です。
※手話魔法の手話は実在する動きをベースに格好良く映えるように「魔法の結印アクション」としてスタイリッシュにアレンジした造語手話になっています。
次回もお楽しみに!




