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ブラック企業奴隷の俺は異世界転生して奴隷を解放してみた  作者: ヒゲ博士
第4章 新たな素材はビジネスチャンスのチャンス

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夜闇にとけていく

 夜の西側行政区。整然とした街並みの中に、威厳を誇示するように建つ巨大な給水塔があった。


 その屋根に、ヤクトが音もなく降り立つ。


「さて、始めましょうか」


 階下では、制服をピシリと着こなした街の警備兵たちが巡回していた。

 彼らもまた、昼間に見たメイドと同じく、身なりが良く、自尊心に満ちた顔をしている。この街を支える「地獄」など微塵も感じさせない姿だ。


「カシオペさん。」

「ええ。どうなるかわかりませんが、うーんそれっ!」


 カシオペの剛腕から弾かれた手のひらサイズのイシツブテが、貯水塔の足に直撃する。

 「ギギギ……」と鉄鋼が悲鳴を上げ、給水塔がゆっくりと、だが確実に傾き始めた。


「な、なんだ!? 事故か!?」


 警備兵たちが慌てふためく中、ヤクトが風となって地上に降り立った。


「事故じゃありませんよ。……処刑の時間です」


 ヤクトの双短剣が閃く。俊敏強化を施された彼の動きは、常人の動体視力を遥かに凌駕していた。

 一瞬のうちに数人の警備兵の喉元が裂け、血飛沫が石畳を汚す。

 ヤクトの真骨頂は、その「終わりのないスタミナ」にある。一撃離脱を繰り返しながら、彼は街のメインストリートを駆け抜け、次々と火の手を上げていった。


「あっちだ! 侵入者を探せ!」

「消火班を呼べ! 水が出ないぞ!」


 太郎の計算通り、貯水施設の機能不全とヤクトの神出鬼没な攻撃により、街の守備隊は西側へと殺到していく。

 彼らは今不明勢力と思っているだろう。そこに隙がある。ヤクトは肺に空気をためて大きな声をあげる。


「我々はぁーーー!!奴隷解放戦線であーーーーる!!!」










 陽動の喧騒が遠くから聞こえる中、マサヨシたちは北西の建設現場へと辿り着いた。

 昼間見た、あの巨大な円形劇場の工事現場だ。


「……臭う。昼間よりも、ずっと濃い」


 アヤメが鼻を抑え、顔を顰める。


「防腐剤と、腐りかけた肉の臭いだな。……マサヨシ、上から行くぞ」


 マサヨシはポコとアヤメの肩を掴み、マリアナは自力で壁を蹴り上げた。


「――転移」


 座標を読み解き、一瞬で建設現場内部の足場へと跳ぶ。


 眼下に広がる光景は、地獄そのものだった。


 昼間の「整然とした労働」は影を潜め、そこには無造作に積み上げられた奴隷たちの遺体と、それを「処理」する者たちの姿があった。


「あれを見て……」


 ポコが指差す先。


 昼間の事故現場に、数人の人影があった。


 その中心に立つ男は、異常だった。


 身長は優に二メートル半を超え、着ている制服が今にも弾け飛ばんばかりに、筋肉が不自然に隆起している。

 腕の一本一本がマサヨシの胴体ほどもあり、肌は血色の悪い灰色。血管が紫色のミミズのように全身を這い回っている。


「……あれは、人間か?」


 マサヨシが戦慄する。その反応マリアナが大剣を空間から引き抜き、その瞳を細めた。


「……魂が、継ぎ接ぎだわ。一つじゃない。何十人分もの『強い魂の破片』が、無理やり一つの肉体に縫い付けられている」

「継ぎ接ぎ……?」

「つまり、あれも『再資源化』の成果物ということね。……来るわよ」


 その瞬間、巨漢の「奴隷警戒員」が、ゆっくりと首をこちらへ向けた。

 感情の消えた瞳。だが、その奥には底知れない暴力の衝動が渦巻いている。


「侵入者……発見。個体番号、不要。……廃棄処分を執行する」


地を這うような重低音は、巨漢が地面を蹴ったがゆえだ。その巨体からは想像もつかない速度だった。


「ポコ!」

「任せて!」


 ポコが別空間から、自身の身長を遥かに超える巨大な斧を取り出す。


「――『マサカリ』!!」

 

 ポコの身体では到底支えることはできないであろう、巨大な光の斧を、巨漢の警戒員へと振り下ろされた。


ガギィィィン!!


 凄まじい金属音が響き渡る。


 驚くべきことに、巨漢はそれを右腕一本で受け止めていた。厚い筋肉の装甲が、光の斧の刃を食い止めている。


「な……!? 私の『マサカリ』を片手で!?」

「……脆弱。出力不足」


 巨漢が腕を払うだけで、ポコの小さな身体が木の葉のように吹き飛ばされた。


 すかさずアヤメが前に出る。


「やらせない! ……火よ!」


 アヤメの手のひらから、業火が放たれる。コントロールを失ったその炎は、現場の木材や足場を飲み込み、一瞬で辺りを火の海に変えた。


「あ……魔力が……」


 膝をつくアヤメ。全魔力を使い切った彼女の攻撃は、巨漢の視界を炎で遮ることに成功した。


「マサヨシ、行くわよ」


 マリアナが炎の中を突き抜ける。そして巨大な剣が、巨漢の胴体を目掛けて横一文字に振られた。巨漢はそれを左拳で殴りつけ、強引に軌道を逸らす。


「(今だ!)」


マサヨシは意識を集中させた。


「ターゲット確認。座標固定。……転移!」


 マサヨシが指を振るう。巨漢の首の「空間」そのものを、別の場所へと転移させる。本来なら、これで首が落ちるはずだった。


だが。


「……ッ!? 弾かれた!?」


 マサヨシの感覚に、嫌な抵抗感が走る。巨漢の周囲に、薄緑色の歪な力場が発生していた。


「……魔法妨害ジャミングか!」

「……主様マスターより、転送技術への対策を……付与されている」


 巨漢の背後に控えていた数人の部下――彼らもまた、異様に痩せ細り、機械的な動作をする魔導士の成り果てだった。

 彼らが発動させている「妨害魔法」が、マサヨシのスキルを無力化していたのだ。


「くそ……なら、物理的に叩き潰すまでだ!」


 マサヨシは懐から、一振りの「鍵」を取り出した。

それは彼が別空間に封印している、最悪の攻撃手段へのパスポート。


「マリアナ、ポコ! 下がれ!!」


 仲間の退避を確認し、マサヨシは空間の「裂け目」を眼前に作り出した。

 そこから漏れ出すのは、神々しいまでの黄金の光。

かつて「最速」と呼ばれた英雄が放った、長距離レーザー。

 その一部を「停止した時間」と共に封印した、一撃必殺の光条。


「――解放、『黄金道』!!」


 裂け目から、黄金の光が奔流となって溢れ出した。

その光は生き物のようにうねり、ホーミング性能を持って巨漢へと牙を向く。

 巨漢の警戒員も、これには危機を感じたのか、両腕を交差させ、全身の筋肉を硬化させた。


「……防御、最大出力……!!」


 光と熱が現場を埋め尽くした。石材は蒸発し、足場は粉々に砕け散る。

 黄金の光は巨漢を飲み込み、背後の部下たちをもろとも消し飛ばした。


 沈黙が訪れる。


 煙が晴れたそこには、片腕を失い、全身の皮膚を焼かれながらも、なお立ち尽くす巨漢の姿があった。


「……これでも、倒れないのか……」


 マサヨシは息を切らしていた。黄金道の反動は大きい。巨漢の傷口からは、血ではなく、緑色の薬品が混ざった粘液が溢れ出していた。

 マリアナが静かに歩み寄り、大剣を巨漢の首元に突きつけた。


「……魂の繋ぎ目が、切れたわ。もう、動けないはずよ」


 巨漢は最後に一度だけ、マサヨシを見た。その瞳に、一瞬だけ、機械的ではない「人間」としての哀しみが宿ったように見えた。


「……再資源……化……完了……」


 巨漢の巨体が、崩れるように地面に沈んだ。


「……終わった、の?」


 アヤメがポコに支えられながら惨状を眺め、マサヨシは巨漢が守っていた背後の扉を見た。

 そこからは、昼間の比ではない、猛烈な「生臭さ」が漂ってきている。地下へと続く、暗い階段。


「陽動の時間は長く持たない。……行くぞ。アキラが、この下にいる」


 マサヨシを先頭に、一行は地獄の深淵へと足を踏み入れた。

 美しきガンニバルの、本当の「食事の時間」は、ここから始まるのだ。

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