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ブラック企業奴隷の俺は異世界転生して奴隷を解放してみた  作者: ヒゲ博士
第3章 経営難と世界危機

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リベリオン

 瀕死な俺とヤクトに背を向ける長い黒髪の少女は、背丈よりも大きな剣を振り上げた。突然の登場人物にヘルバーグと仮面の男は驚きを隠せない。いい顔をしているよ。


「俺を…やすやすと吹き飛ばした。なんだあのガキは。」

「ヘルバーグさん。ここは連携をとりましょう。何やら只者では____」

「だったら俺に合わせろ。」


 ヘルバーグは目にも止まらない速度で槍を投げた。振り抜く速さは尋常ではなく、仮面の男の髪が靡く。


「いきなり本気で攻撃しないでください!!」


 その速度は周囲の草を風圧で寝かせるほどで、今までの投擲とはレベルが違う。


「全くもう!!」


 人外の力で抗うヘルバーグに仮面の男は愚痴を言いながら魔法履行する。1本の槍が、突然3本に増える。魔法による幻覚を使い、どれが本物なのかわからないように隠匿させたのだ。

 だが少女は驚くこともなく幻想を一瞥し、剣の柄を深く、腰の位置まで下ろして構えた。


「小賢しいのよ。あんたたち。」


 少女は迷うことなく、真っ直ぐに突っ込んでくる幻想の槍を無視して、何もない空間を手掴みした。すると魔法が溶け、本物の槍が少女の手の中で姿を表した。


(動体視力も非常によろしい。ですが…)

「見え見えなのよ。」

「そいつはどうか_____」


 いつもの戦術、ヘルバーグは槍のそばに瞬間移動をする。見切りをつけていた少女にとって、驚く程でもなく、無感情に大剣を片手で振り抜いた。


「____な!!」


 ヘルバーグは悲鳴を上げることなく胴体を切られ、2つに別れたあと地面に落ちる。

 静かに横たわる猛者の亡骸を見て、俺は脱帽した。あれほど苦戦していた敵を一瞬で倒したことが信じられない。


「おいおいまじか。」


 あれ程に追い詰められ、死人もでてきたこの地獄。劣勢をひっくり返したことで、仮面の男は即断した。


「これは無理だ。」


 呟いた瞬間に仮面の男はどこからか白煙を吹き出す。だが即座に風が煙を乗せて、掻き消した。


「_____しつこいですねぇ。」


 仮面の男の身体には大きな木の根が巻き付いていたのだ。


「逃さねぇよ。」


 黒フードによるルーントラップ。転移魔法を感知すると木の根が動きを止めるように構成した魔法が作動したのだ。


「あっそ。」


 気だる気な態度で仮面の男は指を鳴らす、その瞬間に木の根は腐り落ちて拘束を解いた。


「ルーン文字にはルーン文字。魔法対決なんて後出しジャンケンみたいな勝負で、手品師である私が負けるわけないんですよ。」

「だったら弓矢だとどうなる?」

「はぁ?」


 突然降り注いだ言葉。仮面の男が振り返ったその瞬間、身体は悲鳴とともに地面に叩きつけられた。


「…全くもってうざったいですね。」


 仮面の男の脇にワイヤーで繋がれた弓矢2本刺さっていた。伸縮するワイヤーの張りに負けて、地面に打ち込まれたのだ。

 ワイヤーで固定されてうつ伏せになるも、なんとか話せる仮面の男の視界に影が下りた。


「なんですか…フードが流行なのですかねぇ。」


 緑色のパーカーを羽織る男は、弓矢を持ちながら仮面の男を見ろしていた。


「ナナシだったな。テメェ、ごろーをどこにやった。」

「いやいや野暮ですよダイスケさん。こんな状態で尋問なん_____」


 ダイスケは躊躇いがない。否応なく弓を引いて、一本の矢をナナシの背中に打ち込んだ。服越しでもわかる。背中から侵入した異物が皮を破いて、肉を切り、臓器にまで矢じりが達している。


「…お前、人じゃないのか。」


 だが手応えがなかった事もダイスケはわかっていた。


「____私は催眠魔法が得意なんです。他人を操る事もね。この身体はどっかの知らない男ですよ。ハハッ」

「クズめ。やっぱりマサヨシの案が当たってたな。」

「はい?」


 予想外の反応にナナシの口調が強くなる。なぜなら策謀が最初から暴かれていたということ、それは策略家にとって最高の屈辱なのだから。


「うちの賢者は転移に長けてんだよ。反応がどうたらで勢力を3分割した。お前を引き当ててはいないが、分身でもいい。コロしてやるよ。」


 用がないとわかり、より簡単にダイスケは弓を構える。すると地面にゆっくり置くように、ナナシは言葉を呟いた


「………私の催眠魔法は簡単なんです。」


 今際の際での独白に、ダイスケは耳を傾ける。


「それがなんだ。」

「催眠魔法は相手が自身よりも下の魔力、もしくは魔力量が不安定な相手に有効です。後者においては生まれたてであればあるほど良いとしてます。」


 魔力は血液と同じであり、生まれたての人間はそれが定着するまでの期間が不安定になっている。ナナシの言葉は正しかった。

 だがそれはこちらの世界での常識。異世界者であるダイスケはなんなのかまだ理解していない。だから動きは後手に回ってしまう。


「だからなんだってんだ。」

「やり方は相手と目を合わせること。あなたに魔力は感じられませんでしたし、黒フードと獣人の子どもは安定してて効きませんでした。」


 ダイスケはここまで話を聞いてピンとこず、俺は傷のついた身体を起こしてヤクトを背後に引っ張りこんだ。


「いいのが居たんですよ。そこにね。」


 直ぐ様、手を胸の前で交差させて防御の体制を取っている。直感的にダイスケは、地面に寝ているナナシの背中に矢を放った。

 マント越しに矢が深く背に突き刺さる。肩甲骨の真ん中より右下、丁度心臓がある位置。心臓を貫いた矢は、誰が見ても致命傷だ。


「クソが。もっと早く気づいていれば。」

「_____我が分し____よく聞け。」


 すると死んだ筈のナナシの口から、まるで通信状況の悪い無線のような音が吐き出された。


「これが最後ダト思うな。私のジャマをするものは全て消______」


 聞くに堪えない。そう思ったダイスケはナナシの頭に矢を放つ。頭に穴が開いたナナシはもう喋らない。

 静かになったこの場所で、ダイスケは自身の不甲斐なさと目の前の光景に怒りを覚えた。


「後味悪いなほんと…。」

















 少女は白い空間に漂っていた。


(あたたかい。)


 ぼんやりと上も下もない人肌のような暖かさのある空間だが、浮いてるだけ。ただそれだけで心地よさを感じている。

 すると、不意に背後から人の気配を感じた。無理変えれば、人の形をしている影が少女を見ていた。


(だれ?)


 わかるはずもない。少女は今先ほど生まれたばかりの存在なのだから。


「_______起きたんだな、アナ。」


 少女は名前など持ち合わせておらず、どうしたものかと陰を見つめながら考えていた。


「なんだぁ?まだ寝ぼけてるのか。」

「…私、起きたばかりだから。」

「そうかそうか。そらよかった。」


 影は腰に手を据えて大げさに笑う。


「せっかく起きたんだ。名前を考えようぜ名前!」

「名前…。」


 なんか軽妙で軽い影に少女は眉間に皺を寄せた。だが嫌でもない。むしろ胸が熱くなってきた。


「つけて。」


 思ってもない言動がでてきて、自身でも驚いた。だが影はそんなこと気にせず腕組みして高笑いをする。


「いいぜ。スーパーウルトラかっこいいのにしてやる。郷健司大宇宙ってのは」

「ナシ。」

「えッ!!マジかよ最有力候補だったのに…じゃー。」



 影はゆっくりと手を伸ばして、少女の頭を撫でた。


「マリアナ。どうだ?」


 知らないだれかに名前を付けられて、体を触られてるのに嫌な気すら無かった。


「さっきよりマシ。」

「そうだな。その通りだ。」


 名前を与えられた。少女はマリアナという単語に誇りすら感じる感情を覚えている。


「なぁマリアナ。お前がこれから幸せになっていくために、俺たちの無念を連れていくために、送った名前を大事にしてほしい。」

「わかった。」

「よし。なら後は起きないとな。」


 手が離れていくと、なぜか物足りなさを感じて顔を上げる。すると影は殴る構えを据えていた。


「!!」

「あーびびるな。俺の拳は異能を消し去る。今すぐに起こしてやるヨッ!!!」


 気持ちの整理がつかないまま拳がマリアナに届く。




 















 顔を上げると、事態はひっくり返っていた。


「よぉ…起きたのか。」    


 大剣は黒フードの胴体を切り分ける寸前だ。左肩から刃が襲い、魔法により防御力を増していた黒フードを貫通。

 刃は左胸を通り抜けて右胸に達する前に、透明な魔法盾と後ろにいたヤクトが両掌の鱗で受け止めていた。


「おじさん!は、早くなんとかして!」

「無理に決まってんだろ…こりゃ…致命傷だ…。」


 血が喉を駆け上がって苦しそうだ。口から垂れ落ちる血が刃に落ちて、私の手に伝っていた。


「わたしが…。」


 覚えがなさすぎるのに、自分がしていることの罪深さに言葉が出なくなってしまった。

 だが黒フードは刃に穿たれているのに、口は血反吐で汚れているのに、言葉は吐き出していく。


「なぁ…アナ。最初に会った時はお互いだめだったよなぁ。」

「………。」

「うまくいかなくて、最後には街をぶっ壊すような事件まで起こしちまって……俺はよ。いつも、どうしてこんなに最後までうまくいかないんだろうって…そればっかで。」


 話すごとに弱まる息。血は止まることはない。命が漏れ出しているのは誰が見ても明らかだ。


「せめてお前の道行きを祝福するよ…アナ。」

「私はマリアナ。」


 これだけは伝えないと、そう感じたマリアナは自分の名前を吐き出した。すると黒フードは全部察しがついて、にこやかに笑う。


「そうか。ケンらしい、いい名前だ。」


 それを最後に黒フードは大剣へと倒れこんだ。

 

 

 


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