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骨の髄まで  作者: 國生さゆり
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シーン7 自由落下



 シーン7 自由落下


 染矢が本家に到着するとすでに若頭の佐藤、本部長補佐の目白、事務局長の黒谷、舎弟頭の山本が会議室に雁首がんくびそろえていた。部屋を一見した染矢は「是枝コレエダさんは?」と聞く。染矢へと雲霞うんかのような、つかみどころのない目を飛ばした目白が「連絡がつかない。今探させている」と苦々しい口ぶりで告げた。



 目白は事務局長補佐の是枝と盟友めいゆうの間柄だ。即座の染矢は無関心を顔に貼り付け「そうですか」と言ってかん子の耳元に顔をよせ、4課の内藤から得た情報を耳打ちしようとしたが、かん子はそれを右手でせいし「共有する」と言った。染矢は一瞬、目を見開きその目をかん子の横顔にそそいで、“まずは手元に落ちて来た情報を吟味ぎんみすべきでしょう“と思ったが、居並いならぶ幹部の面前めんぜん、口ごたえと取られればかん子の威信いしんを削ぐと思い直し「承知しました」と頭を下げ、内藤から聞いた現実と今井宅の状況をおおやけにした。



 裏帳簿と聞き、誰もが沈黙を深めている中、誕生日に受け取る花束のようなよそおいの男、黒谷がスーツの胸ポケットに差し込んであるバレンチノのスカーフを、手入れの行き届いた指先でつまみ上げて額の汗をぬぐいつつ「今井本部長しか知らない取引相手はいるんですか?」とすがるような目つきでかん子に聞いた。かん子は黒谷に豹の目を向け「ない」と即答するや背筋を伸ばし、その目で面々を射抜いぬき散らして「今井の事は主任弁護士の千堂先生に任せておけば心配ない。おまんらには担当しとるフロント企業のもんや顧客との接触をひかえて欲しい。大河原が警察にねらわれるんは今回が初めてやないが、警視庁の経済班が出てきとるのは厄介や、他でケツかかれんよう組員に自重じちょうするようれを回すんや。定例会は今回の事がおさまるまで先送りとする」と一気に言った。



 誰もがいち早く己が資金源の子飼こがいに会い、その心情をなだめておきたいところへの面会不可の通達だった。しかしながら…と、異議をとなえる者はいない。定例会延期は遺言書の開封が遅れるという事で、誰が5代目になるかわからない状態が長引けば、それだけ無駄になるかもしれない根回しの出費が増えるにつながり、同時期におかみから目を付けられたという事は、対抗勢力に付け入るすきを与えねないに至る。そして組内外の誰が今井をリークしたかわからない五里霧中は、大河原組にとっては弱り目にたたり目でしかなく、沈黙が最優先のもどかしくも、呪わしい状態に大河原をおちいらせていた。



 染矢は思う。停滞だと、停滞は弱体につながる。身内に対する疑心暗鬼を抱えたまま、大人しくしていろというのは無理な話だ。極道だ。だから、ここに居る。首をたてに振るしかないが・・染矢は内心でサラリーマンかよと思う。染矢の脳に針が一本突き刺さる『女の本能』と。守る、変化を嫌う、体裁を重んじる、おかすは許せず、世間体に繊細密せんさいみつで、げる忍耐力は超一流なのに面倒くーーせ、女の本能。



有限実行

初志貫徹

万里一空

勇往邁進



女を敬称けいしょうする言葉には事欠かない。

執念深いのだ、この種は。

けがれを認めないから自己愛も半端ねえし。



ホント面倒くせーーー生き物。

この人でいいのか…と、ふと思う。



虎でなければ終わる。

狡猾こうかつなコヨーテでなければ終わる。

しゃちでいなければ喰われる。

狼でいなければ、食いっぱぐれる。



されど、すくわれた恩義がある。

致し方なくも染矢は寡黙を通すしかなかった。



自由を得る為のマネーロンダリングが、今や組の重石となっていた。




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