シーン4炎
シーン4 炎
「人間は完全に自由でない限り、夜ごと夢を見続けるらしい」赤松は組み敷いている女の目を見つめてそう言った。
その目を艶が冷めやらぬ目で見つめ返すノエルは「だれが、言ったの?」と絡れた舌で聞く。赤松はナイーブな勝ち組の顔容にチャーミングな笑みを加え「ポール・二ザン」と隠微な色香が薫る低音で教えた。「いつも、のあなたに、戻ったね」赤松が酷使させたノエルの舌がまたももつれる。ゆっくりと身を起こしノエルの横に添い寝した赤松は、ノエルの薄桜色の髪先を右手の人差し指と親指の指先で持て遊び初め「もう、こんな乱暴な抱き方は2度とせえへん。約束する。ノエルが気持ちいい事だけする」と少年のように誓った。その声は神妙で神秘だった。コクコクと頷いたノエルが両腕を上げて顔を隠した。
その愛らしくも愛おしい仕草に髪を戯れるように引っ張りながら「何が言いたい、言え、ノエル」と赤松が和む声で問いかける。ノエルは首まで朱色に染めあげて「薬指を咬みながらしゃぶるの、やめないで欲しいです」とやっとの思いでか細く絞り出し、苦笑を浮かべた赤松は「わかった」と言い、ゴツゴツとした広い右手でノエルの左手首を掴み上げ、「こうか」と言うや薬指を甘噛みし始めた。そして「ノエル、ここに俺の印を入れてくれへんか」と言った。「し…るし?」と聞き返したノエルに、「ああ、俺のしるし」と繰り返した赤松はノエルの薬指を丸呑みにして噛み分け、舐め、しゃぶり続けて、ノエルの吐息がノエルの身体を震わせた頃、再びノエルの内に垂直な己を沈め入れた。興がのる。赤松が指の付け根を噛み切るように喰む、容赦なく。弓なりになったノエルが享楽へと堕ちてゆく。
艶にゆき果てたノエルが赤松の上に崩れ落ち、そっと赤松に抱き止められたノエルは今、陶酔の眠りについていた。
ノエルを可愛がり始めるとやめられへん。ノエルは俺を連れてゆく。ただ、ただ、あの日々の俺に連れていく。今度こそ手放さへん。透き通る声も、無垢だった心も、あの愛おしさも俺のもんやから。