シーン24 白夜
まぶたに。
白光が。
あたっている。
俺は……。
また。
白夜の中で。
寝てるのか……。
綺麗だ。
もう少し。
ここにいよう。
俺は……。
まだ。
ここに居たい。
*
「染」
声がする。
「そろそろ。起きたらどうや?」
亮治の。
声だった。
――お前も。
――来てたのか。
染矢は。
夢の中で。
目を覚ました。
白銀を。
散らしたような。
空と。
海。
朝の光を。
受けて。
キラキラと。
瞬いている。
どこまでも。
どこまでも。
地平線まで。
続いていた。
「よく眠れたか?」
亮治が。
聞く。
「ああ」
染矢は。
海を見たまま。
答えた。
「久しぶりに。よく寝た気がする」
一拍。
「なんで。海が見えてるんだ」
普通に。
聞いた。
棘のない。
声だった。
「相変わらず。寝起きは天然か」
赤松が。
呟く。
染矢は。
まだ。
海から。
目を離さない。
「連れてきてくれたのか?」
純朴に。
聞いた。
赤松も。
海を見る。
答えない。
二人で。
ただ。
海を見ていた。
*
「染さん!」
声が。
飛んできた。
息を。
弾ませて。
椎田が。
走ってくる。
「お迎えに上がりました」
染矢の。
前へ。
立つ。
「帰りましょう」
椎田の身体が。
海を。
遮った。
光を。
遮った。
染矢が。
椎田を。
見上げる。
頭へ。
グンと。
血が回った。
「五代目は?」
冴え渡った。
声だった。
「目白組の刀根見が。付いています」
椎田は。
青ざめた顔のまま。
答えた。
だが。
その声に。
安堵が。
混じった。
染矢は。
もう。
いつもの。
染矢だった。
二人の。
やり取りを。
聞いていた。
赤松が。
ニヤリと。
笑う。
染矢は。
その笑みに。
ガンを。
飛ばした。
鋭く。
睨みつけ。
パークベンチから。
颯爽と。
立ち上がる。
そして。
足早に。
歩き出した。
「状況を。聞かせろ」
痛みに。
耐える。
獣のような。
唸り声だった。
*
「染」
背後から。
赤松が。
声をかける。
「近いうちに。飯でも食おうや」
染矢は。
振り返らない。
無言を。
突きつける。
椎田だけが。
振り返る。
赤松へ。
一瞥。
くれる。
すれ違いざまの。
水沢が。
染矢に。
「あんま。勝手ばっかり言ってんじゃねえぞ」
と。
囁く。
三者三様の。
有り様を。
赤松は。
柔らかな目で。
眺めていた。
そして。
声を上げて。
笑った。
朝の海に。
賑やかすぎる。
笑い声が。
響く。
染矢の。
嫌悪が。
深まってゆく。
己への。
嫌気か。
赤松への。
見限りか。
水沢への。
拒絶か。
椎田への。
虫唾か。
わからなかった。
*
水沢が。
パークベンチへ。
腰を下ろした。
その横顔を。
見ていた。
赤松が。
フッと。
微笑む。
「悪かった」
そして。
海へ。
視線を戻した。
「徹夜明けの目に。お天とさんは厳しいな」
二人は。
海を見ていた。
黙って。
しばらく。
見ていた。
先に。
口を開いたのは。
水沢で。
「俺らの世界は。嫌いですか?」
なんの。
前置きもなく。
聞いた。
赤松は。
何を今更。
と思う。
「俺に。似合ってると思っとるよ」
砕けた。
口調で。
答えた。
端正な。
目元に。
笑みが浮く。
そんな目で。
水沢を見る。
「いつまでも。そう苦虫を噛み潰したような顔してんな」
平穏を。
取り戻した。
赤松に。
水沢が。
ニタリと。
笑う。
そして。
「予定にない行動は。今は控えてください」
聞き分けのない。
子供へ。
言い聞かせるように。
言った。
昨夜の。
振る舞いは。
赤松が。
水沢にしか。
見せない。
衝動だった。
「ああ」
赤松は。
海を見る。
「わかってる」
と
言った。
「悪かった」
と。
つぶやいた。
*
波が。
寄せて。
返している。
赤松と水沢は。
海を。
見つめ続けていた。
ふと。
赤松が。
話し出す。
「あいつは。あの日」
赤松から。
表情が。
消えている。
水沢は。
何も。
言わない。
赤松の中から。
言葉が。
滲み出してくるのを。
待っている。
「川の中に……」
「身を沈めながら。俺を見てたんや」
波が。
返る。
「何も言わんと。俺を見とった」
赤松は。
海から。
目を離さない。
「俺もな」
一拍。
「ただ。見とったんや」
声が。
ポツポツと。
降り落ちる。
雫のように。
言葉を。
紡いでゆく。
「ただ。あいつを見とった」
沈黙。
「無力やと思った」
水沢は。
黙っている。
「あんな目を……」
赤松の。
口が。
止まる。
そして。
「たどたどしく……死を強請るような」
一拍。
「あんな目を。二度とさせたくなくて」
海が。
光っている。
「俺は。家……を出た」
赤松は。
目を。
細めた。
「なぁ。水沢」
「はい」
「わかってる」
静かな。
声だった。
「俺たちは。もう一歩のとこまで来てる」
一拍。
「もうひと頑張りやのも。わかってる」
そして。
「悪かった」
またも。
謝った。
*
「昨日とおんなじで」
水沢が。
合いの手を。
入れるように。
言った。
「酒飲んで。記憶無かったんでしょう?」
赤松の。
目が。
水沢へ。
動く。
「水沢」
静かに。
釘を刺す。
「その辺にしとけ」
それでも。
水沢は。
言わずには。
いられない。
「得な体質ですね」
ひねた。
顔だった。
赤松は。
水沢を。
見続けていた。
口元を綻ばせた
赤松が
「そういうこっちゃ」
と。
だけ。
言った。
*
水沢は。
まじまじと。
赤松を見る。
「その顔で。その口調はズルすぎる」
苦笑した。
そして。
海を見る。
「刀根見とは。椎田も考えましたね」
「全くや」
赤松が。
立ち上がる。
「勝手に。波紋広げやがって」
両手を。
組む。
裏返して。
天を。
押して。
背を伸ばす。
「遠足は。終わりや」
あくびを。
噛み殺しながら。
言った。
「いぬるぞ」
水沢も。
腰を。
上げた。
「七輪焼き。食って帰りましょうよ」
呑気な。
声だった。
「せっかくの湘南ですから」
「勝手にせえ」
赤松は。
憎まれ口を。
叩いて。
歩き出した。
*
その後ろを。
水沢が。
歩く。
「伊勢海老」
「ホタテ」
「鮑」
「焼きおにぎりに。味噌だれ」
「そして。イカそうめんと――」
水沢が。
振り返った。
海へ。
大きく。
息を吸う。
「金を気にせずーーー!飯食えるってーー!!今の俺!最高ーーー!!」
叫んだ。
朝の。
湘南の海へ。
叫んだ。
声が。
飛んだ。




