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骨の髄まで  作者: 國生さゆり


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シーン15 ノエル


その底に。


墨でも流し込んだかのような。


漆黒の夜。


赤松は。


ノエルを隠したマンションへ。


帰って来た。


いまだ。


キリキリと巻き上がる脳みそが。


赤松を。


休ませようとはしない。


あの日。


決めた。


軸線がある。


その上にある道を。


一つ。


選ぶ。


一つを選べば。


横軸には。


選ばなかった世界が。


千差万別に。


無限に。


広がってゆく。


だから。


間違えない。


横槍に。


突き崩されない。


定めた着地点へ。


辿り着くために。


情報の粋を。


尽くす。


確実に。


自制しながら。


一歩ずつ。


それでも。


頭の中に。


地獄はある。


発狂するほど。


考える。


最悪を。


考える。


考えて。


考えて。


最悪を。


黙らせる。


覚醒した赤松の脳を。


沈静させられるものは。


一つしかない。


ノエル。


ノエルの。


面差し。


ノエルが。


発する。


匂い。


それに。


満ちている。


巣穴のような。


この場所だけだった。


     *


身体に。


染み入った。


絶叫。


血。


汗。


それらを。


洗い流す。


いつものように。


限界まで。


温度を上げた。


シャワーの下へ。


身を晒す。


今日。


大きな節目を。


踏んだ。


計画通り。


タイミングを計って。


“染”を。


手中に収めた。


今日を。


忘れさせないために。


染矢の指を。


折った。


何をするにも。


手は。


目に入る。


完治しても。


見るたびに。


思い出す。


そうなるように。


刻んでやった。


――お前は。


――こっち側だ。


水沢の。


暴威。


時子の。


絶望。


青木の。


復讐。


染矢の。


驚愕。


一つずつ。


思い出しながら。


赤松は。


身体を。


丁寧に洗う。


今日一日で。


溜め込んだ。


灰汁を。


流してゆく。


流石に。


今日は。


疲れた。


眠い。


     *


腰に巻いた。


バスタオルを解く。


ノエルの眠る。


ベッドへ。


潜り込んだ。


気怠く。


右手を伸ばす。


ノエルを。


引き寄せる。


胸の内へ。


入れる。


華奢な身体に。


手足を。


巻きつけた。


そして。


赤松は。


眠りへ。


落ちた。


     *


いつの間にか。


長く。


重い手足に。


フォールドされ。


ノエルは。


身動き一つ。


できなくなっていた。


赤松の唇が。


ノエルの。


左耳を。


探りあてる。


「なんで」


掠れた。


声。


「俺のそばに。おらんの」


その吐息に。


ノエルが。


うっすらと。


目を覚ます。


「ずーっと。一緒だよ」


眠ったままの。


赤松へ。


囁いた。


「ここに居るよ」


届かない。


夢うつつの。


赤松には。


届くはずもない。


それに。


ノエルは。


知っていた。


今の言葉は。


自分に。


向けられたものではない。


     *


自分は。


誰かの。


身代わりなのだ。


そう。


気づいたのは。


つい最近だった。


赤松が。


望んだ通り。


左手。


中指と。


薬指の間に。


✴︎印を。


入れてから。


赤松は。


寝言を。


言うようになった。


ただの。


寝言ではない。


誰かが。


そこにいるように。


誰かへ。


話し掛けるように。


明瞭に。


言葉を。


紡ぐ。


時に。


現実は。


真実よりも。


残酷だ。


相手が。


誰なのか。


ノエルには。


分からない。


分からないままで。


よかった。


知りたくも。


なかった。


自分を。


覆い尽くすほどの。


生命力で。


抱く。


この男が。


たまらなく。


好きだった。


赤松のそばにいると。


呼吸していても。


いいのだと思える。


生きていても。


いいのだと。


安堵する。


だから。


誰の代わりでも。


よかった。


誰の面影を。


自分に。


見ていても。


よかった。


そんなこと。


些細だった。


赤松が。


自分を。


離さない。


それだけで。


よかった。


     *


ノエルは。


自分を覆う。


赤松の身体から。


這い出ようとした。


その瞬間。


左腕を。


掴まれた。


右手で。


引ったくるように。


「どこへ行くんや」


目を。


開けてもいない。


ノエルは。


小さく。


笑った。


起きると。


分かっていた。


だから。


わざと。


身を起こした。


確かめたかった。


自分への。


執着を。


感じたかった。


いつもなら。


もう少し。


時間が掛かる。


今夜は。


簡単だった。


扉が。


すぐに。


開いた。


――容易くなったのは。


――慣れちゃったから?


ほんの少し。


不安になる。


だから。


「おしっこ」


と言ってみた。


赤松は。


腕を。


離さなかった。


「ダメだ」


ノエルは。


また。


小さく笑った。


よかった。


そう。


思ってしまった。


     *


ノエルの。


左手が。


赤松の頬へ。


触れた。


中指と。


薬指の。


間。


そこにある。


✴︎印。


赤松の目が。


そこへ。


落ちる。


ノエルは。


その指を。


赤松の口元へ。


差し出した。


「噛んで」


赤松は。


ノエルを見る。


それから。


✴︎印のある。


その手へ。


唇を寄せた。


ノエルは。


目を閉じる。


誰かの代わりでも。


いい。


今。


この男が。


自分を。


離さないのなら。


赤松も。


ノエルを。


離さなかった。


互いの。


足りない場所へ。


互いが。


潜り込んでゆく。


どこまでが。


自分で。


どこからが。


相手なのか。


分からなくなるまで。


やがて。


ノエルの呼吸が。


静かになる。


赤松の。


キリキリと。


巻き上がっていた。


脳みそも。


ようやく。


黙った。


ノエルを。


抱いたまま。


赤松は。


もう一度。


眠った。



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