表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
骨の髄まで  作者: 國生さゆり
15/38

シーン15 ノエル



  シーン15 ノエル



 その底に墨でも流し込んだかのような漆黒の夜、赤松はノエルを隠したマンションへ帰って来た。いまだキリキリと巻き上がる脳みそは思考をきわめ、赤松を休ませようとはしない。あの日決めた軸線じくせんに乗っている道を一つ選択すれば、横軸のパラレルワールドは千差万別の♾️となる。横槍よこやりに突き崩されないようさだめた着地点へとたどり着く為に、情報のすいを尽くして進む。確実に自制しながら一歩ずつ。それでも頭の中に地獄はある。発狂するほどに考察して最悪を黙らせる。覚醒した赤松の脳を沈静させられるのはノエルで、ノエルの面差おもざしだけで、ノエルの発する匂いに満ちている巣穴のようなこの場所だけだった。



 身体に染み入った絶叫と血と汗を洗い流す。いつものように限界まで温度を上げたシャワーの下に身をさらす。今日、大きな節目を踏んだ。計画通りタイミングをはかって“染“を手中におさめた。今日を忘れさせないよう染矢の指を折った。何をするにも手は目に入る。完治しても思い出すように刻んでやった。“お前はこっち側だ“と。水沢の暴威、時子の絶望、青木の復讐、染矢の驚愕を思い出しながら、身体を丁寧に洗う。今日一日で溜め込んだ灰汁あくたを洗い流す。流石に今日は疲れた。眠気に襲われている。



 腰に巻いたバスタオルを解き放ち、ノエルが眠るベットへと潜り込んだ。気怠けだるく伸ばした右手で引き寄せたノエルを胸の内に入れ、華奢な身体に手足を巻きつけて眠りへと落ちた。



 いつの間にかに長く重い手足にフォールドされ、身動き1つできなくなったノエルの左耳を赤松の唇がさぐりあて「なんで、俺のそばにおらんの」とささやいた。その吐息にうっすらと目覚めたノエルが「ずーっと一緒だよ。ここに居るよ」と応えるが、その声は夢うつつの赤松に届くはずも無く、そもそも、赤松の囁きは自分に対するものではないとノエルは知っていた。




 ノエルが自分は誰かの身代わりなのだと気づいたのはつい最近の事で、赤松の希望通りに✴︎印を左手の中指と薬指の間に入れてから、赤松は誰かに話し掛けているような明瞭めいりょうさで寝言を言うようになった。時に現実は真実よりも残酷だ。ノエルには相手が誰なのかわからなかったし、そんなこと知りたくもない。うだるようにその生命力で自分を抱く赤松がたまらなく好きで、赤松のそばにいると呼吸していても、生きててもいいんだと安堵する。だから、誰のわりだろうが、なんだろうが、そんな事はどうでもよくって些細ささいでしかなく。




 おおう赤松からい出ようとするノエルの左腕を、右手で引ったくるように掴んだ赤松が「どこへ行くんや」と言う。ノエルは赤松の庇護欲をあおりたく、起きるとわかっていてわざと身を起こしたのだ。自分への執着を感じたくもあり、だが今夜、その扉はいつもより簡単に開いた。容易たやすいってれちゃったからと不安を覚えつつ「おしっこ」と言ってみる。案の定、赤松は「ダメだ」と言った。何かをえさせながら抱くのが赤松の好みだし、その方が突破した時のえんが増すと、ノエル自身も赤松から教えられて知っていた。




 夜鬼の赤松が仕組んだノエルをらいだす。ノエルは左手の薬指を赤松の口元にかざし「噛んで」と口にする。ギリリと犬歯を立てられる。




 そして二人は互いに溺れ、境界線を無くして快楽だけを貪りあい、共に許し合う。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ