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骨の髄まで  作者: 國生さゆり
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 大河原組の会議室は静まり返っていた。執行部メンバー12人が居並ぶテーブルの最上席に座るかん子は、息子である赤松組々長の赤松をひょうの目で一瞥し、黒檀にのるお茶を手元に引き寄せて口を付ける。凛とする旨みにかん子はほだされそうになる。そんな甘さが、この身にまだ残っていたかと思えば、かん子の口元がニヤリと笑う。



 赤松は椅子からスッと身を立て「クソババ、ええ加減にせえよ!自重せえやと。こっちは野中組に若頭とボディーガードの組員1人っ、獲られとんぞ」闇夜から湧いて出たかのような声だった。



 かん子は端正な面差しに冷笑を浮かべ「あんたのその勘気がこの事態を引き起こしたんが、まだわからんのか」そう言って退けたかん子には勘気ではないとわかっていた。血だ、この子の、この男が受け継いだ血が、道理が通らぬと言わせている。かん子はそんな事は1000も承知していたが、えて“勘気“と言い切った。



 かん子が愛した男の血を受け継いだ息子、赤松が「女のあんたが口挟まんかったら、事はこんだけ複雑にならんかったんや!」と言う。かん子も確かにそうだと思う。だが、かん子の立場でそれを認めるワケにはいかない。下部組織とフロント企業を合わせれば、かん子は134789人の食物連鎖の頂点なのだから。



 ゆるく顔を上げ、豹の目で赤松を射抜いたかん子は「よう、考えてから物言いや。今、あんたが口聞いてんのんはあんたの母親やないで、4代目代行や、下手打ったら殺すで」と安楽な口調で言った。



 容赦なくの赤松も「おお、あんたのその度胸だけは買うたる。せやけどな、あんたがどう足掻あがいてみても所詮は女や。代行って持ち上げられとっても、親父の遺言が開くまでの話や。あんたこそ5代目の俺に対して気つけてもの言いや」と返す刀で斬り飛ばす。



 かん子の後ろに立っている染矢ソメヤが「亮治リョウジ」と薄ら寒い声で止めに入るや、染矢にスルリと視線を向けた赤松は「染、亮治やないぞ。赤松や」とかぶせた。なおも赤松が「お前は俺が拾ってきた。それでもお前は俺がわやなくて、今や代行とやらの側近や」とかん子目掛けて顎をしゃくり、切れ目なく「今頃なんや、お前が俺になんか言えた義理か!」ギラギラと黒光する赤松の言葉に、染矢の顔色が朱に染まる。



 染矢は一家心中の生き残りで、グタリとした伽藍堂がらんどうの妹を抱いたまま離そうとはせず、「何があったの?」と聞く婦人警官には一切口を開かず、焼け残った家の前に座り込んでいたところを、「行く所ないんやったら、うち来るか」と赤松に拾われた。7歳だという染矢と妹の明子は戸籍を持っていなかった。かん子は両親と明子の葬式を出してやり、一切合切の始末をつけて染矢を養子にむかえた。そんな染矢は執行部に4人いる若頭補佐の1人で影のごとくかん子に付き従っていた。「赤松さん、あなたが5代目と決まったわけじゃない。その発言はここに集っているご一同様方にも失礼ですよ」冴返った声で染矢はその場を制する。



 赤松りょうじが狂花なのか、愚かなのか、何が面白くなかったのか、二十歳はたちになったその日に自分の親権を父方の叔母に移して、名も『赤松』と改名した。亮治あかまつがそんな狂にでたのは、染矢が大河原の家に居たからだった。


 

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