澤藤君の計略
ありえない!
絶対にありえない!!
他のメンバーも絶句した顔をする。
それはそうだろう!!
なぜ、価格も高くなり、しかも品質が悪くなるヨーロッパメーカー製の
有機ELを使わなければならないのだ?
これだけ、きっちりとしかも自社で作り上げている技術を持っているにも関わらず!!
理解に苦しむ中、澤藤君がここぞとばかりに、
「技術部長からの承認が下りないのなら、仕方がないですね。
ヨーロッパメーカーの有機ELを本採用として進めていきましょう。」
ニヤリと笑う澤藤君に、無表情を装っているが、
机の下で握っている手はものすごく力が入っている柊君。
それも当然だ・・・
彼は技術者として、全身全霊を込めて、今日ここにいるのだから。
「ですが!!」
当然柊君が反論を始める。
そしてその言葉に澤藤君が反論するのだ。
「・・・分からないですね~。どうして技術部長の決定に逆らうんですか?」
「当然ですよ!技術者として、優れたモノを世に出したというのは!!」
「それが会社にとってリスクがあったとしてもですか?」
「今回は違うでしょう!
今回はリスクは自社で製作した有機ELの方がリスクが低い!
当然リスクが低い方を選ぶのがベストだと思います!!」
「だけど、これは世界初の有機ELを使った照明器具ですよ?
それ自体リスクなんですよ。
そこにわざわざリスクが分散できる選択肢があるのに、
なぜリスクが分散できない選択肢を選ぶんですかね?」
「それは不具合が起きた場合のことを考えてでしょう?
こっちは事が起きるないことを考えてるんですよ。
不具合を発生させないようにしたい!っと思うのが技術者でしょう。
それもさっき言われた通りで、世界で初めて照明器具として出すんだから!
尚更、不具合の発生を少なくするのは当然です!」
「ふ~ん、そうですかね?私には私事が入ってるように感じますが?」
「それは否定しませんし、否定できません。
当然、自分の思いが入っています。
自分達が作り上げてきた物を世の中にだしたい!という思いはありますし、
メイドインジャパンだ!
これがメイドインジャパンだ!!
といいたいと思ってますよ。
ですが、それだけではないですよ。
これが一番初めに出る有機EL照明器具なんだから、
絶対に失敗は出来ないんですよ。
だって、そうでしょう?
この第一弾で有機ELはダメだとレッテルが貼られてしまえば、
今後有機ELを使った照明器具には、消費者が二の足を踏んでしまうじゃないですか?
そうならないためにも、不具合の発生しないものを選ぶ!この思いですよ。」
「・・・青臭い考えですね。」
鼻で笑う澤藤君に対して、
「青臭くて結構ですよ!
だけど、そんな思いがあるからこそ最高品質のモノを作ろうと思うんじゃないんですか!
自分の思いがあるからこそ!良い物は生まれるんだと思いますよ!
その思いがモノを追及していくから、その先にあるモノは良い物になるんですよ!」
「・・・まあ、何を言われてもいいですけど、
技術部長が承認しないと言われたんだから、どんなに頑張っても無駄ですよ。
ヨーロッパメーカーの有機ELを本採用するしかないんですからね。」
勝ち誇った顔で勝利宣言をするかのように発言する澤藤君。
その後は何を言っても柊君の意見は通らずに終焉を迎えたのであった。
「じゃあ、有機EL単体について終わったのなら、俺は退出させてもらうよ。」
満足げな表情を浮かべて諏訪部長が退席を申し出る。
諏訪部長としては十分に満足いく結果が得られたのだから当然だろうけど・・・
「お疲れさまでした。今日は参加していただきありがとうございました。」
明るくお礼をいう澤藤君。
こちらも満足げな顔をしている。
・・・間違いなく、今日諏訪部長を呼んだのは澤藤君だろうな・・・
柊君が立て直しを成功したことを知って、柊君が優勢になったと思って、
その対策として諏訪部長を呼んだんだろう・・・
“承認しない”の印籠を諏訪部長の口から出させるために・・・
この点はさすがは澤藤君って言ったところだな・・・
その後はいつも通りの澤藤節を披露して、
次に企画部、俺の発表になる。
「企画部からですが、まずは有機ELを用いた照明器具について、
先ほどのことを踏まえて、これから本格的に進めてい行きたいと思います。
まずはこちらにいくつかの照明器具のサンプル図を準備しておりまして・・・・。」
俺は写し出された資料を一点ずつ説明していく。
目新しいものはないが、有機ELが持つ薄さを出すために、
薄くすることで活かされる照明器具をいくつかピックアップして、
その3D図面を柊君達に作ってもらったモノを説明していった。
「いいんじゃないかな。」
「これなら問題ないでしょう。」
「有機ELらしさが活かされてるよ。」
参加者たちからは賛成の声が上がってくる。
「それではこの中から、もう少し絞って、
来年の4月に販売する方向で進めていきたいと思います。」
「絞る必要があるんですか?」
ここで澤藤君が俺に尋ねてくるので、
「これを作るのが協力メーカーでそのキャパを考えなくちゃいけないんです。」
「キャパですか?」
「ええ、南日本電機としては他にもいくつもの照明器具を出してます。
ですから、うちの会社に渡されるキャパっていうのが決まってるんですよ。
そのキャパで最大限作れる数をこれから協力メーカーと共に
話し合っていかないといけないんです。」
「なるほど~。それは仕方がないですね。」
「それとヨーロッパメーカーからの供給量も決まってますから、
その供給量以上は作れないんですからね。」
「そう言えばそんなことを言ってましたね・・・。
分かりました!供給量の件、それと値段交渉の件は柊君には荷が重いようですし、
私が交渉に当たりましょう。少しでも供給量が上がるようにしますよ。」
「・・・お願いします。」
柊君は大人しく、澤藤君の提案に従った。
まあ、俺から言わせれば澤藤君自身がでやるべきだろうっと思うので、
特に否定もせずに、
「お願いします。」
そう答えるのであった。
「ええ、任せてくださいよ。」
自分の胸を叩いて、アピールする澤藤君。
口だけの男か、それとも本当に出来る男なのか、ここで判断だな・・・
次話は9時に更新予定です。
気づいた点は追加・修正していきます。
拙い文章で申し訳ないです。




