稽古と現実
「ではどこを案内しようかな。そうだ、騎士団の訓練場などいかがかな?」
訓練場か……うん、この国の騎士のレベルもわかることだし行ってみるか。
「お願いするよ、そこに連れてってくれ。」
「お任せを。」
……クールだ。
ただ今俺は、騎士団の訓練場にて木剣を握らされ、50人ほどの屈強な騎士達に囲まれてます。いや~、皆さんいい筋肉してらっしゃいますね~! 目もキラキラしてていいと思いますよ!
ただね? ……どうしてこうなった?
さかのぼること10分、俺達はノエルにつれられ騎士団の訓練場の施設だと思われる場所にやって来た。
ん? 何で断言しないかって? ハッハッハッ、君は壁や屋根に穴が空いて地面もえぐれまくってる場所を施設と呼べるのかい?
「……ノエル、ほんとにここなの?」
「ああ。すまないね、皆少しだけ戦闘好きなのさ。私も何度か注意しているのだが……」
「団長! 今日来るなんてびっくりしましたよ。ん? そちらのきれいな方々と丸眼鏡の少年はお客さんですかい?」
「お初にお目にかかる、俺は三代目暴食之王だ。ベルゼとでも呼んでくれ。」
「なっ! これはとんだご無礼を!……申し訳ありません。私はアルスラ王国騎士団副団長、ルイス=レイモンドと申します。最強と名高い魔王様方の内のお一人にお会いできて光栄です!」
おっ、おう……
この人暑苦しいな、見た目も熊みたいで強面だし……
「まあそう固くならないでくれ。俺のことは気軽にベルゼって呼んでくれよ。」
「それは……申し訳ない。ベルゼ殿で勘弁していただけないでしょうか」
「うーむ、まあいいか。んじゃせめてノエルに対する話し方と一緒にしてくれよ、これ魔王命令ね。」
「分かりました。団長、ちょっとこっちに来てくれませんかい。ベルゼ殿達は他の団員の見学でもおねげえします。」
ん? 何でだろ? まっ、いいか!
「オッケー、んじゃあ終わったら呼んでね~。行くぞ、皆~。」
レイモンドside
俺の名前はルイス=レイモンド。このアルスラ王国騎士団の副団長をやっている。一応Sランク並の力はあると自負してる。
騎士団は国の危機や戦争、事件などが起きたときには出かけるが、基本は訓練ばかりしている脳筋……自分を高めようとするやつが多い集団だ。
今日もいつもとかわらず練習をしていたんだが……
「団長! 今日来るなんてびっくりしましたよ。ん? そちらのきれいな方々と丸眼鏡少年はお客さんですかい?」
この時俺はめちゃくちゃ驚いた。
なんせこの平凡そうに見える(丸眼鏡を着けているので顔はよく見えないが)少年が、最近現れた三代目暴食之王その人だってんだからな。
俺は急ぎ無礼を謝り、どんな罰が下されるのかと内心戦々恐々としていたが……まあびっくりした。
なんせ無礼を咎めもせず、それどころか気軽に話すように魔王命令なんてものを言い出したからだ。普通の魔王なら機嫌を損ねて、すぐにでも俺を殺しにかかるだろう。
俺は、いろいろ突っ込みたいところはあったが、ひとまず団長からどの様な経緯でここに連れて来ることになったかを聞くことにした。
「分かりました。団長、ちょっとこっちに来てくれませんかい。ベルゼ殿達は他の団員の見学でもおねげえします。」
団長を連れて施設をでて俺は訪ねる。
「団長! どんな経緯で魔王様をここに?」
「ん? ああ、それは簡単な話だ。私が案内できる場所はここくらいしかないからな、ハハッ。」
ハハッ、じゃねえよ! 何やらかしてんだ、この団長は?!
ここにいるやつは皆、戦闘狂なんだぞ!
「それはまずいですぜ。ここの奴らは戦闘狂ばっかだ、雲の上の存在である魔王様がきたとなればその内「すみません、私達に稽古をつけてくれませんか!」……遅かったか……。」
「それは考えていなかったな、迂闊だった。……よしっ、レイモンド!!」
「はいっ!」
何だかんだ言ってもこの団の団長はノエル様だ。なにかいい方法を思いついたに違い
「後で何とかおさめてくれ! 私もこんな機会は逃したくないぞ! ベルゼ殿ー! 私にも稽古をぜひにー!!!!」
ないとか思った数秒前の俺は馬鹿だった。
そうだよ! この団の団長何だからこそ一番食いつくに決まってらあな、こんちくしょう!!
もうどうにでもなれ!
そんな気持ちで俺も団長の後を追い、走り出した。
「俺もおなしゃーす!!」
他の団員の見学をしてたらいきなり稽古をつけてくれと頼まれたのでそれを軽い気持ちで受け入れた。これが間違いだった。
一度頼まれると自分も自分もと、どんどん人がやってきて、やがて全員と戦うことになった。
んで、冒頭に戻るというわけだ。
「はあー、しゃあねえ。セシル達は見ててくれ! 今回は俺一人でやる!」
そうして稽古は始まった。
先手必勝とばかりにノエルとレイモンドが、人とは思えない速度で突っ込んできた。
はやっ! ほんとに人間かよ!!
二人はそれぞれ上から剣を降り下ろしてきた。
俺は半歩だけ下がり二人の攻撃をよけ逆に横一閃に切りつける。
二人はあっさり避けられたことに動揺していたが、そこはさすがに一国の騎士団長と副団長、冷静に対処され弾かれた。
「すごいな二人とも! びっくりしたぞ!」
「ありがとうございます。ですがまだまだ行きますよ! 私達は全員で騎士団ですからっ! キンッ! 全員散開! 取り囲んで攻撃させる隙を与えるな!」
「「「はっ!」」」
そこからは乱戦だった。
騎士達は、上から下から切りつけてくるし、隙をついて魔法も放ってくる。正直強い。
そんな戦いを続けること一時間。
立っているのは無傷の俺、そしてやはりノエルとレイモンドだった。
「ほんとに強いぞお前達!! さすが騎士団って感じだ。何度かかすっちまったし……いやほんとすごいな!」
「はぁはぁ……まあうちの国の騎士団は……世界でもかなり……有名なほうですからっ……」
「はぁはぁ……それよりも……魔王様が……正直こんな強いと思ってませんでしたぜ……雰囲気はおちゃらけて見えるってのに……」
やはりこの国の騎士団は強い方なのか。まあそりゃそうか。
てかレイモンドに地味にディスられたぞ、おい!
騎士団員side
「いやー、めちゃくちゃ強ええな! さすが魔王様!」
「でもよ、何回かかすってたし頑張れば行けるんじゃね」
「確かに! 俺達もやるもんだな!」
体力が回復し始めた騎士団員達は話し出す。そこにある女の声が響いた。
「あなた達は勘違いなさっているようですね? あれがベルゼ様の本気だと……あなた達はそう言っているように見えますが?」
突然話始めたアスタロトに動揺しながらも騎士団員の一人が返事を返す。
「違うのですか? 我々騎士団全員と戦ってかするだけですむのはすごいことです。しかしいくら魔王様といえど、国の精衛全員相手に本気を出していないというのは傲慢では?」
途端、アスタロトから憐れみを含んだようなため息がでた。
「あなた達は力量の差もはかれないのですね。どっちが傲慢なのだか……。いいですか? 魔王というのは一国の王と変わらぬ権力を持つ。これは知っていますね?」
「……ええ、知っております。」
「その話は実は嘘です」
常識を覆すような話に、騎士団員達は騒ぎ始める。
「はあ……停戦協定を結んだせいで魔王の恐ろしさを理解しない者共が増えたようだわ。正確には一国の王ではなく、一国と同じ権力です。それはつまり、一人で国を簡単に崩壊させることができるからこそということです。論より証拠ですね。ベルゼ様! すみませんが重力魔法を少しだけ弱めていただけませんか!」
「ん? まあアスタロトがそういうなら……ほいっ」
途端にベルゼの動きが変わった。先程までノエルとレイモンドの攻撃をぎりぎりで避けていたはずのベルゼが一瞬ぶれ、騎士達が気づいたときにはノエルとレイモンドの二人が倒れていた。
「「「なっ!!!!」」」
「あーあ、終わっちゃった。せっかく体を100倍重くしてたってのに……アスタロトー! どうしてくれるんだよー」
「申し訳ありません、あとで膝枕をいたしますのでお許しいただけませんか?」
「そんならいいや! ジュエル、セシル! 喉乾いたからメイドさん探して飲み物もらいに行こーぜ!」
「ああっ!」
「さんせ~」
「じゃあ先に行くぜ、アスタロト」
「はいっ!」
三人は去っていった。普段の団員達ならアスタロトの膝枕というところに反応していたが今は違う。
それほどまでに、ベルゼに圧倒されていた。
「分かりましたか? あの理不尽さこそが魔王の証です。それに、もとに戻られたときはあんなものではありません。なにせ人化時のあの方は、HP以外のステータスが100分の1になってしまわれるのですから。あなた達がベルゼ様を軽んじておられたようですので一言言わせてもらいますね。……図に乗るな、人間風情が!! ……では失礼いたしますね? ごきげんよう。」
アスタロトはベルゼのもとに去っていき、その場には現実にうちひしがれた騎士団員達が残された……
ネタがうかんだのでいつもより早めに投稿します。量を多めに書きました。
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