おまけSS
†異世界の言葉†
「むむむ」
「うむむむ」
俺と伊織は、向かいあって本を読んでいた。
前世でも俺達は、お互い気に入った小説を紹介しあって読むことはあったが――今読んでいるのは、いわゆる教科書だった。
そう、勉強中なのだ。
「なんで言葉は分かってるのに、文字は読めないのよう……」
「異世界あるあるだな。さすがに言葉が通じないと活躍のしようがない。しかし、文字が分かるのは異世界人としては不自然――ってとこか」
そろって兄妹二人でため息をついた。
作られたような(実際作りものだ)超美形の青年と少女が並んで座っているのは、端から見れば絵になるらしく、魔王城の皆さんが遠巻きに見ている。
「焦らず、ゆっくりでも良いのではないか?」
そう言って声をかけてきたのは、魔王城の主、ノエルだ。
「二人とも、夜も寝ずに勉強しているではないか」
「や、まあ、眠る必要ないだけなんだけどね」
伊織がひらひらと手を振る。そう、ゴーレムの体は眠る必要がない。
まあ、眠ろうと思えば、活動休止の状態になることはできるんだが。
「私、この世界の本、読めるようになりたいんだよねー」
「だって、なあ。リアルファンタジー世界だからなあ」
「全部ファンタジー小説みたいなものだもんねー」
「ふぁんた……?」
ノエルがきょとんとして首を傾げた。
「ゲームの設定集、必死に読んでたもんね、お兄ちゃん」
「あれか、お前だってTRPGのルールブック買ってきて読んでたじゃん」
「だってリプレイが面白かったんだもんー」
「むむ……我が会話に入れない。異世界の言葉は難しいのだ」
まあ、焦ることはない。何しろ時間はいくらでもあるのだ。
このファンタジー世界をゆっくり楽しむとしよう。
†オセロ†
川原でできるだけ平べったい石を探す。64個集まったところで、それらをできるだけ丸く削り出す。
「こういう時、オリハルコンの体は便利だなー」
俺が念じるだけで指先があらゆる物質より固くなるのだ。道具なしで、指で擦るだけで石が削れていく。
それら全ての石の、片面を白く塗る。塗料が乾いたら、もう片面を黒く塗る。
次に余った板を貰ってきて、8×8の格子模様を描く。
石の塗料も乾いたし、これで完成だ。
「よーし、出来た」
「ケンゴ、何なのだそれは?」
「これはオセロっていう遊びなんだ。俺の前いた世界のゲームだな」
最近の俺(と妹)のブームは、前世の遊びをこの世界で再現することだ。
最初は伊織との遊び道具作りだったのだが、珍しい遊びにみんなが面白がってくれるので楽しくなってきた。
異世界文化交流によって、より世界を豊かにしたいなあ、とまでは言わないが。
最初はトランプを作ろうとしたのだが、この世界の製紙技術が思いの他低くて断念した。
裏返しても紙のたわみ方でカードが分かるのでは困る。
手作りオセロは、少々石の大きさが不揃いだが、遊ぶ上で問題はないはずだ。
「ノエル、遊ぼうぜ」
「これは何をするのだ?」
「こうやって、交互に石を置いていって、同じ色で挟めば、自分の色にできるんだよ」
ノエルにオセロのルールを教えた。ノエルはふむふむと頷く。
「簡単そうであるな」
「ルールは単純だな」
「るうる……? とにかく、やってみるぞ!」
そう言って、ノエルは俺の隣にひょいと座った。
「……え? そこ座るのか?」
「? 遠い所に座っては、板に石を乗せられないぞ?」
何を言うのかという顔のノエル。
そうか……この世界にはチェスも将棋もない。盤を挟んで向かい合う習慣がないのか。
盤の反対に座るんだと教えようとして――止めた。
チェスや将棋と違って、オセロは別にどの方向から盤を見ても問題ない。トランプと違って、手元を隠す必要もない。
なら、隣に座っててもいいか。
「よし、先行後攻をじゃんけんで――」
「じゃん、けん?」
「それもないのか!」
異世界文化交流は、発見の連続だ。
†兄弟†
「ノエルちゃん、お兄ちゃん、遊びに来たよー!」
ノエル――魔王の執務室に、こんな礼儀も何もない様子で手をぶんぶん振って駆け込んできたのは、俺の妹、伊織だ。
後ろに、一緒に魔王城に来たセラとキースがいる。
「遊びに来たんじゃなくて、セラ達と、国王様からの書状を預かってきたんだろ?」
「いいじゃん、別に。ね、ノエル?」
そう言って笑顔を向けると、ノエルも嬉しそうに笑った。
「うむ、イオリ。来てくれて嬉しいぞ! 今お茶を淹れるからな!」
ま、ノエルはこの年で魔王だからな……なかなか同年代の友達が出来ない。そういう意味で、気安く接してくれる伊織の存在は大きいんだろう。俺は常に近くにいるとはいえ、同性の友達も欲しいだろうし。
「お兄ちゃんは、久しぶりだよね」
「この前はノエルだけがそっちに行ったしな。たまにはオセロやろうぜ」
「いいねー」
他愛ない話をしていると、ノエルが、俺達二人を見て、笑った。
「よいなあ、兄弟というのは。我は一人っ子だから、羨ましいぞ」
執事服をしっかり着こなしたケルンが、全員分のお茶を執務室に運んできた。
会議にも使える大きなテーブルでティータイムだ。
「でも、イオリとケンゴは本当に仲がいいですよね」
そう言ったセラに、俺はまあな、と答えた。
「そういえば、セラって兄弟いるの?」
「僕は姉が一人いるんです。年が離れていて、もう嫁いでるんですが」
はあ、知らなかったな。セラのお姉さんなら、美人かもな……。
「キースは確か、弟と妹がいたよね?」
「うん、前にファーラさんのとこで見たよ」
ファーラ、というのはキースの母親だ。ケルンのお姉さんでもあるが、俺はまだ会ったことはない。
「あー、そうっすね。俺が一番上なんすけど、六人兄弟っす」
「ええっ!? そんなに兄弟がいたの!?」
声をあげて立ちあがったのは伊織だが、全員が驚いた顔でキースを見た。キースは指を折りながら話す。
「そっすね、弟が三人、妹が二人。……しばらく実家に帰ってないから、また増えてたりして」
キースが最後にぼそっと呟く。何だそれは。
「賑やかでいいね」
「ま、そうっすね」
セラが優雅に、カップを傾けながら言う。キースも笑って頷いた。
「ふうむ。羨ましいぞ、我も兄弟が欲しかったなあ……」
ノエルは少し寂しそうだ。
まあ――そもそも、ノエルの両親が、まだ幼かったノエルを残して若くして亡くなっているのだ。
聞いた話では、ノエルの母親(先代魔王の妃にあたる)は、ノエルを産んでから病気がちになり、まだノエルが三つの時に亡くなったという。
周りには常に使用人がいたから、一人ぼっちということはなかっただろうが――兄弟がいるいない以前に、ノエルは寂しい思いをしたはずだ。
「そっかあ……じゃ、うちのお兄ちゃんを、ノエルのお兄ちゃんにしてもいいよ」
「はあ?」
伊織がぶっ飛んだことを言い出した。
「おいおい……」
「だってお兄ちゃん、魔王城でノエルちゃんとゲームしたり本読んだりしてるんでしょ? それって兄妹みたいじゃない」
そんなこと言われても困るだろ、と俺はノエルを見ると、ノエルは照れたように顔を赤くしていた。
「そ、そうか……?」
「っていうか、私がノエルのお姉ちゃんになってあげる!」
伊織がノエルに抱きついた。
――お前が姉なのか? 精神年齢的には、妹じゃないのか? とか思ったが、ノエルが嬉しそうなので黙っておく。
「美少女同士が戯れてるのを見るのは、目の保養っすね……」
ぼんやりと呟いたキースの頭を、セラが軽くはたいた。




