(1)
コンセプトシティファントンに話を戻す。
裏路地を進むと点在する商店はシャッターを閉じていた。
人通りはない。
200年前を再現したノスタルジー保護区。時刻は夜の9時を少し回ったばかり。喫茶店のワンポイントネオンだけが寂しげでジジッ、ジジッと時おり音をたてていた。
「いらっしゃいま・せ・・・」
白髪に蝶ネクタイの店主がグラスを磨く。その声には張りがない。
ブラインドが薄暗い店内は古臭いポピュラーが流れている。
テーブルは全てアーケードゲーム。カウンターにはコーヒーカップと無数のグラス。グラスはきれいに磨き上げられていた。
レトロな喫茶店でトルクとサルナは向かい合って座っていた。お客は他にいない。
木目調のタイルの床と黄ばんだ、白かったであろう壁をオレンジとも黄色とつかない色の電球が照らす。
一見全ての什器が骨董品のように見える店内。
壁には木や青銅でできた民族仮面が千鳥に並べられ、コーナーには大小の剥製と花瓶が陣取っている。
壁からこちらに目を剥く仮面。サメのような歯をむき出しにした仮面。笑う木製の仮面。角や牙の生えた仮面。
不思議なもので意識すると全ての仮面が自分を見つめているように思えてくる。
そして今にも呪いの言葉を叫びだしそうだった。
サルナはブラウン管のテーブルに両肘を付き、キャラクターを目で追っている。
サルナの着ているものはいつものスーツよりはかなり露出が増えていた。
ショートパンツに迷彩のへそ出しトップ。上に羽織ったパーカーは耐え切れずに現地で調達したものだった。
しかもサイズがやや合わずに若干胸がゆがんでいる。そしてブーツ。
「ステーツから戻ったら急に長官が重要任務にはエキセントリックな衣装が良いって言うもんだから。つい。おかしくないかしら?」
「まあ、まあ・・・いいんじゃないかな」とか言いながらトルクは目を反らす。
「良く調べずに支給されたから・・胸が苦しいのよね」
「まあ、まあ・・・いいんじゃないかな」それ以上に発する言葉が思いつかない。
実のところサルナの衣服はケリー長官が仕組んだものだった。
打算過ぎる程の自覚無き色仕掛け。
サイズをダウンさせる徹底振り。育ちのいいマンドラゴラに人形の服を無理やり着せたようになっていた。
だがまんまとケリー長官のたくらみに目が眩みそうなトルク。
トルクとサルナは当然それを知らない。
トルクは変わらない。ロングTシャツと濃紺のジャンパーにカプリパンツ、片裾が微妙に上がっている。そしてローカットのシューズ。
傍目にはアーケードゲームに興じる普通のカップルに見えることだろう。
トルクはポケットから錠剤を出すとグラスの水で流し込む。
「何の薬。どこか痛むの?」
「ドクターからもらった副作用を抑える薬だよ。あいつ頭おかしいからな。足も伸びるかもな」
トルクがニヤリとサルナを見た。
「じゃあ私もウエストを細くする薬を飲まなきゃ、なんてね。足なんか伸びるわけないじゃない」
冷ややかな顔でトルクの顔を覗き返す。
サルナが色々な角度からトルクの顔を覗き込むたびにトルクが目を反らすとサルナの強調された胸があった。
トルクは相変わらず胸の谷間に目のやり場を困ることになる。




