第二十一話ー思い、想われー
外に出てみると、雪が降っていた。薄らと地面を濡らしても勢いは弱まる事も無く、今にも積もり始めそうな程で。
「うわー、寒いなーとは思ってたけど。ほらほら、雪だよ、雪!」
俺達が住んでいる町では、雪は結構珍しい。少し降る事はあるけれど、積もる程、という事は十年に一度あるかどうか。降り注ぐ白い景色の中で、躍るように天音は歩き回る。絵になるというか、妙に似合う。
「ほら、あんまりはしゃぐと転ぶぞ?」
「あ、うん。えっへへ。温かいね、勇吾?」
手を握って、コートのポケットに入れる。歩幅が合わない俺達を、無理にでも合わせる為の、そんなおまじない。向後さんが出ていたドラマの主演二人がやっていて、密かに憧れていた行動の一つでもあった。
「あー、緊張するなー。ね、学校休ませちゃったけど、本当に良かったの?」
そう、今日は天音が受験した大学の、合格発表日だった。平日に行われる為、身に来るのは近隣の受験生が殆ど。遠くの人達は、電話でも確認出来るようになっていたのだが。天音がどうしても見に行きたいと言ったから。
「まあ、出席も足りてるし。それにさ、合格してれば。四年間、ほぼ毎日一緒にいられるんだし。楽しい時とか嬉しい事は、二人一緒がいいじゃん?」
それは、俺の心からの想い。何があっても、離れないと誓った。悲しい事も嬉しい事も、全部分かち合って、一緒に歩いていくと約束した。どんな時も傍にいて、守り抜くと心に刻んだから。
「あ、着いちゃった……。まだだよ、まだ見ちゃダメだからね?」
駅から数分も歩くと、大学の正門に辿り着く。そこを通り抜けて広場に出ると、大勢の人だかりがある。それは全て、今の天音と同じ心境なんだろう。
「あ、あった―――。勇吾、あったよ!」
雪の華が舞う今日、笑顔の花が咲いた。遊びも何もかも我慢して、ほぼ毎日机に向かい続けた成果。その栄養が、撒いた種が芽吹く瞬間。それが自分の事以上に、何よりも嬉しくて。おぼろげだった自分の進みたい道の一端が、見えた気がした。
少し心配だった天音の進学も決まり、後は消化試合のようなもの……。なんて思っていた時が、俺にもありました……。
「先輩、来年用の予算案なんですが―――」
「勇吾―、悪いんだけど、予餞会のプログラムで―――」
推薦が決まっていて、しかも手が空いた事を聞きつけた連中が、次から次へと厄介ごとを押し付けてくれる。お蔭で昼休みは俺が雑務に忙殺されて、誰も話しかけてこない。しかも一部教師がそれを認めていて、授業中に堂々と内職を勧めてくるという。
「ほい、こっち来年の予算修正案。文化部の比率が下がり過ぎてるから、実績毎に仕分けて、運動系の部活とで分配してみた。顧問はこれで誤魔化せるはずだ。で、予餞会のプログラムだけど、これじゃ演劇と吹奏楽部がはまらないな。休憩時間を調整して、時間内に収まるように変えてみた。一旦持ち帰って、チェックしてみてくれ。部費での用具購入申請は、もう一度部活顧問と話してみてくれ。前に買った物と重複してるらしくて、事務で弾かれてきてる」
誰も言わないけど、敢えて言おう。お前ら、少し位は自分でやれ。っていうか、来年度の予算なんて、俺は無関係になるだろうに……。
「んー、流石にあれじゃ話しかけにくいよねー。んで、何であーちゃんは見てるだけなの?」
「う……。だってさ、あんなの私じゃ処理出来ないし。いやー、ああいう雑務は、能力がある人じゃないと出来ないよねー」
「で、本音は?」
「受験が終わったばっかりなのに、数字なんて見たくない!」
全部、聞こえてるんだけどな。天音は後でちょっと苛めておくとして、他の連中まで高みの見物とは……。
「終わった―――。俺も当分、数字とタイムテーブルは見たくない……」
その台詞と同時に、教室中に笑いが起こる。休み時間の度に誰かが来て、それが全員俺の机に向けて殺到してくる。その光景を常に見ていたものだから、傍からすれば笑い話だろう。実際に案内してくる奴らも、笑いを堪えきれてなかったし。




