第四章 枝を広げた薔薇の香りとともに
ロザリウム学舎の午後。
授業が終わり、学生たちが校庭へと流れ出す時間。
エミリアは魔術科の教室で荷物をまとめていた。
そこへ、静かに扉が開く。
「エミリア、少し時間ある?」
振り返ると、クリストファーが立っていた。
いつもより少しだけ緊張した面持ちで。
「うん、大丈夫だよ。どうしたの?」
「……話したいことがあって。
よかったら、外を歩かない?」
エミリアは胸が高鳴るのを感じながら頷いた。
夕暮れの薔薇園は、柔らかな光に包まれていた。
赤、白、桃色の薔薇が風に揺れ、甘い香りが漂う。
クリストファーは少し歩いたところで立ち止まり、
エミリアの方を向いた。
「エミリア。
君と話していると、不思議と落ち着くんだ」
「えっ……わ、わたしも……」
「それに、君の魔術の努力も、
誰より近くで見ていたいと思う」
エミリアの心臓が跳ねる。
「……クリストファー?」
彼は深呼吸し、意を決したように言った。
「今度の休日、王都の市へ行かない?
騎士科の訓練が休みで……
君と一緒に過ごしたいんだ」
エミリアは驚き、そして頬が熱くなる。
「わ、わたしでいいの……?」
「君がいい。
……君じゃなきゃ、嫌なんだ」
その言葉は、薔薇の香りより甘く、
エミリアの胸に深く響いた。
「……行きたい。
わたしも、クリストファーと一緒に」
クリストファーは安堵したように微笑み、
そっとエミリアの手を取った。
「ありがとう。
じゃあ、約束だ」
二人の手は、自然と離れなかった。
薔薇園の外。
石壁の影に、ひとりの少年が立っていた。
黒髪の カール。
彼の拳は固く握られ、
胸の奥に渦巻く感情は、もう隠しきれないほど大きくなっていた。
(……エミリア。
どうして、あいつなんだ)
その視線は、薔薇よりも鋭く、
夕暮れよりも深い影を帯びていた。




