第一章 朝日に照らされた出会い
王都から少し離れた丘の上に、古い石造りの学園がある。
ロザリウム学舎――貴族と優秀な平民の子弟が集う名門校だ。
春の朝、校庭の薔薇園には、柔らかな陽光が差し込んでいた。
「はぁ……緊張するなぁ」
栗色の髪を揺らしながら、平民出身の少女 エミリア は胸に手を当てた。
彼女の隣で、金髪の少女 アイリーン が微笑む。
「大丈夫よ、エミリア。あなたは努力家だもの。
この学園でも、きっとすぐに馴染めるわ」
「アイリーンは優しすぎるよ……でも、ありがとう」
そこへ、風に乗って軽やかな声が響いた。
「おーい、二人とも! 入学式、そろそろ始まるって!」
駆け寄ってきたのは、活発な弓術科の少女 ウェンディー。
その後ろから、落ち着いた雰囲気の イレーヌ と、
本を抱えた魔術科の オリアナ も歩いてくる。
五人は幼い頃からの友人で、今日から同じ学園に通うのだ。
入学式の会場へ向かう途中、
石畳の道で、エミリアは誰かとぶつかってしまった。
「きゃっ……ご、ごめんなさい!」
「いや、こちらこそ。怪我はない?」
手を差し伸べてきたのは、整った顔立ちの青年。
深い青の瞳が、優しくエミリアを見つめている。
「ぼ、僕はエミリアです。あなたは……?」
「クリストファー・ランドール。騎士科の一年だよ」
その瞬間、エミリアの胸が少しだけ熱くなった。
クリストファーもまた、彼女の手を離すのを惜しむように見えた。
そんな二人を、少し離れた場所から見ていた者がいる。
「……あれが噂のランドール家の三男か」
低い声で呟いたのは、黒髪の少年 カール。
「興味あるのか?」
隣で笑ったのは、軽薄そうに見えて実は頭の切れる キッド。
「別に。ただ……あの子、少し変わってる」
カールの視線の先には、まだ頬を赤らめているエミリアがいた。
さらに、少し遅れてやってきたのは、
穏やかな雰囲気の ケビン、
読書好きの コナー。
こうして、男女十名の物語が静かに動き始めた。
入学式が終わると、学園長が告げた。
「今年の新入生は、例年になく優秀だ。
だが、ロザリウムでは“学力”だけでなく、
“心”もまた試されることを忘れぬように」
その言葉に、アイリーンは小さく息を呑んだ。
(心が試される……?)
その意味を知るのは、もう少し先のことになる。
夕暮れの薔薇園。
エミリアは、ひとりで校舎の地図を眺めていた。
「……また迷っちゃった」
「君、地図を見るの苦手だろう?」
振り返ると、そこにはクリストファーが立っていた。
「えっ……どうして分かったの?」
「さっきから同じ場所を三回通ってたから」
エミリアは恥ずかしさで顔を赤くした。
「よかったら、寮まで送るよ。
初日から迷子じゃ、心細いだろ?」
「……うん。ありがとう」
二人は並んで歩き出す。
その距離は、ほんの少しずつ縮まっていった。
しかし――
薔薇園の影から、その様子を見つめる視線があった。
「……面白くなってきたな」
キッドが口元を歪める。
その隣で、カールは無言のまま、エミリアを見つめていた。




