第32話 妖精狩り阻止大作戦 後編
周囲の光景がどこかの建物の中へと変化した。どこかというと、さっきの役場である。私が魔法陣でププちゃんを役場に送り込んだのだ。送り込んだと言っても、体自体はミラさんの家にいたままで、向こうにいるのは意識を共有している幻。そして、魔法陣の外にいる私たちもその視界を見ることができるのだ。結構複雑な魔法陣を描かないといけないから、描けないリヒトくんが私を頼ってきたわけ。
「どこにいるかなー?」
ププちゃんは辺りを見回して町長を捜す。今は建物内の通路にいて、片側に部屋の扉がいくつかある。この中のどれかが町長の部屋で、多分そこにいる。
「一番奥かもしれません」
アリシアさんが扉の配置を見ながら告げる。確かに、なんとなく偉い人の部屋って一番奥にありそう。
その時、ガチャンと奥の扉が開いて、人が一人出てきた。町長だ。
「ん…?」
町長は視線を上げて、さっそくププちゃんと目が合う。ププちゃんはアリシアさんが持つカンペをチラッと見て、台詞を確認すると、町長に向かって微笑んだ。メイクが怖いから、向こうは不気味がるだろう。
「こんにちは町長さん。ちょっとお尋ねしたいことがあるんですけど」
「え…?よ、妖精…?」
「はい!去年死んじゃったんですけどね。てへっ」
陽気な声色で死んでいる発言。町長はギョッとした表情を見せる。冷や汗も垂らして、だんだん怖くなっているのが丸わかりだ。
「え…?え…?幽霊…?」
「はい!ユーレイですよ〜。悪い人間に殺されちゃったんですー」
町長は一歩後ずさる。普通の妖精じゃないとわかって恐怖度が増した感じだ。私たちは一方的に町長の表情や動作を見ることができるので、尋問とかにはもってこいな魔法なのである。
「な、な、何の用だ!?」
「えっとぉ〜、これからたっくさんのユーレイを連れてくるので〜楽しんで待っててくださいっていう〜」
ププちゃんは完全に役者になりきっている。町長の周りを飛びながら、たまに目を合わせて町長を恐怖に陥れていく。
「ちょ、ちょっと待って…!俺幽霊苦手なんだ…!妖精狩りか!?あれで死んだ妖精か!?」
すると、ププちゃんの動きがピタッと止まり、ゆっくりと顔を町長に向けていきーー
「そ〜ですよぉ〜〜。妖精狩り〜〜。ダメじゃないですかぁ〜?かわいいかわいい妖精を狩ったら〜〜!こわ〜いこわ〜いユーレイになっちゃうんですよ〜〜〜?」
「ウヒいぃぃぃ!わかった…!わかったから…!やめるよやめるからっ!ちょっとした遊び心だったんだ…!」
町長はその場にへたり込んで、近づかないでとばかりに手をバタバタさせている。…いい歳したおっさんなので見苦しい…。
「遊び心〜〜?遊びで殺されたんだ〜〜。許さん!」
ププちゃんは普段絶対見せないような恐ろしい形相で町長に迫った。声だけでも怖いくらい…。町長は恐怖がピークに達したのか、泡吹いて意識を失ってしまった。
「成功だな。シエル、もう解除していいぞ」
「うん」
リヒトから魔法陣解除の指示が出たので、私は杖を軽く横に振って魔法陣を消した。すると、周囲の光景がミラさんの家の中に戻った。
「すごいよププ!名演技だったよ〜!」
「えへへ〜、演技するの楽しかった〜」
ミラさんが感激してププちゃんとハイタッチする。いや〜うまくいってよかった。小さいからと侮るなかれ、大人顔負けの迫力だった。町長も恐怖で気絶するくらいだったから懲りたことだろう。
「皆さんありがとうございます!…これで天国の父も喜びます」
ミラさんは嬉し涙を浮かべながらお礼を言う。本当に良い子だな。妖精のためにここまで真剣に思っていたなんて、普通じゃできないと思う。ただかわいいとかじゃなくて、妖精だって人間と同じ生き物なんだと。
「一件落着ですね。あとは、本当に中止になってくれれば…」
アリシアさんは念には念をと考えているようだ。…確かに、あの町長のことだから、やっぱりやるとか言い出しかねないし。
「シエル、二週間後の開催日までエクサロの駐在所とここを繋ぐ魔法陣描けるか?」
リヒトが私の顔を見てそんな提案をしてきた。ふむふむ、リヒトにしては名案じゃないか。
「いいこと思いつくじゃん。意外」
「バカにしてんだろ」
「してないしてない」
私とリヒトのそんなやりとりにアリシアさん達はクスクスと笑う。…もう、恥ずかしいからさっさと魔法陣描こうっと。
エクサロの駐在所は離れてるから、位置関係を魔法陣に落とし込むのが結構難しいんだけど、そこは器用が売りの私。手こずることなく描き上げた。
「やっぱりシエルさん凄いですよ!こんな複雑な魔法陣、私なんて一生描ける気しませんよ」
ミラさんが早速尊敬の眼差しを…。うぅ…、恥ずかしい…。
私が何も言えずに顔を赤らめていると、あろうことかリヒトが重ねてきたのだ。
「俺でも描ける気しない。文字とか記号の位置関係も絶妙だし」
「魔法学校で習ったりしないんですか?」
「簡単なのは習うけど、こんな複雑なのは教師でも描けるか危うい」
「へぇー!やっぱりシエルさん凄すぎです!」
のわぁぁーー!そんな畳み掛けるように褒めないでぇぇ!ってかあんたマジなんなの!?
私は顔を赤らめつつも目一杯リヒトを睨みつける。しかしまったく効く気配が無いので、アリシアさんにヘルプしようと顔を向けたら
「ウズウズ…」
めっちゃ抱きつきたそうにウズウズしてる…。ウズウズって口に出しちゃってるし…。もはや味方なんて一人もいないのであった…。




