47、崩壊の始まり−1
ムージマハル国はセンダラーハン国に面している地域から次々破壊され壊滅状態、ムージマハル国は最早滅亡寸前であった。
ブリースト王太子殿下も既になりふり構えなくなっていた。
ガーランド公爵家の王都の屋敷でガーランド公爵に会わせて欲しいと門番に身分を明かし取り次ぎを願い出たが、返事は変わらないものだった。
「旦那様はここ暫くお屋敷にはお戻りにはなっておりません。いつお戻りになるかも、どのお屋敷にご滞在になられているかも私どもでは存じ上げません」
「そんな訳ないだろう!! 火急の件が起きた時に主人の所在が分からないなどあるまじき失態だ! ムージマハル国の王太子である私を蔑ろにするつもりか?」
「王宮からであれば旦那様に直接連絡する手段がございます」
「くぅっ、頼む! この通りだ!!」
悲痛な叫びを上げる。
「恐らくではありますが、王宮に行けばお会いできるかもしれませんよ。但し、お会いになるかは分かりませんが」
「お、王宮? ああ、そうか忝い!すまない!か、感謝する!」
そこに一台の馬車が近づいて来た。
すぐ様門が開かれ迎え入れる準備をする。
その馬車は目に前で止まると中にいた人物が降りて来た。
「ダリウス・トラガルト殿?」
「ステファン様、こちらムージマハル国のブリースト王太子殿下でいらっしゃいます」
「ああ、偽名はやめたのだね? ブリースト王太子殿下が我が家に何の用で来訪くださったのかな?」
ステファンの瞳はとても歓迎する意思はなく、いや拒絶を表している。
それに『偽名』…、とっくにバレていたのだ。そう言えば、セルティス殿にしてもアシェリ嬢にしても最初からアレクシス王子殿下たちと違い一歩引いた態度を崩しはしなかった。こちらは伯爵子息として多少の無礼を働いたにも拘らずだ、最初から知っていたのだ私が誰か。
はっ! 滑稽だな。
「私はムージマハル国 ブリースト・ククス・ムージマハルである。本日はお父上であられるガーランド公爵にお会いしたくこちらまで伺った次第だ」
「私はステファン・ガーランドでございます。不躾ながら、父の所在は既に殿下の手の者に調べさせてこちらにはいないと分かっておいでのはずです。その上でこちらにお見えになった理由を伺っても?」
「くっ」
「無礼ではありませんか? いくらガーランド公爵家のご嫡男であっても殿下は名を明かされたのですから」
「パーマシー殿、礼儀を重んじ回りくどいやり方がなさりたいのであればこちらに来る必要はないのでは? 先触れもなく正式な手順も踏まれていない。
無礼? …無礼ですか、交渉相手にそんなに高圧的では上手くいくものも上手くいきませんよ? それでは正式な手順をお踏みください、では私はこれで失礼致します」
「何を!」
「カラバスク!控えよ。 失礼致しました。確かに無礼を承知でこちらに参りました。
ステファン殿は我が国の事情をご存知なのですね? 私は今日ガーランド公爵にお助け頂きたくこちらまで参りました。我々の掴んでいない情報をお持ちなのですよね? 宜しければ教えて頂けませんか!! そして力を合わせてセンダラーハン国を退けるご助言とご助力頂きたくお願い申し上げます!!」
「何故?」
「何故って…恥ずかしながら、センダラーハン国に対抗する手段を持ち合わせていないからです」
苦悶に歪んだ表情を見せる。
だがそれにもステファンは表情を崩さない。
「対抗手段がない…、では我が国に丸投げですか? 迷惑な話だ…ふぅ」
聞こえても構わない、そんな気持ちが見え隠れする言葉が漏れた。
「ここでは目立ちます。一先ずこちらへ、歓迎はできませんが」
無礼な態度であったが、下手に出るしかなかった。
場所を移してブリースト王太子殿下とステファンはテーブルを挟んだ。
「それで? 何をお知りになりたいと仰るのですか?」
「ステファン殿! こちらはムージマハル国の王太子殿下である、先程から物言いが不遜である。礼を尽くすべきだ!」
「左様でございますか、失礼致しました。場所を変えて頂きましたが話しは終わったようなので、これで失礼致します。申し訳ありませんがこの後予定がございますので、執事に送らさせます。失礼」
「待ってくれ! カラバスクが失礼した」
「殿下!」
「黙っていろ! 私のプライドなど守っても意味がない!今は国が滅ぶかの瀬戸際なのだ!! 我が国を助けて貰えるなら、私は床に額をつけろと言われても喜んでそうする! 分かってくれ!」
「くっ! 殿下…、ステファン殿 失礼致しました」
「では、お互いに時間は惜しい、サッサと本題に入りましょう。あなた達が掴んでいる情報とは? 我々に求める情報とは? どのようなものですか?」
「時間が惜しい…確かにそうですね。現在 我が国にはセンダラーハン国からの侵略に対しなす術なく国の1/4が殲滅させられた状態です。この戦争は我が国の民を奴隷として誘拐された事に端を発しています。それから……………………となっています」
ブリースト王太子殿下は自分の持っている情報を包み隠さず話した。
それを黙って聞いているステファン、ブリースト王太子殿下とステファンはハッキリとした上下関係があるように見えた。年は1つしか変わらないがステファンも支配者側の人間だ、ブリースト王太子殿下は獅子 絶対的王者の風格があるが、ステファンは腹黒ガーランド公爵の血を継ぎ闇夜を統べるドラゴンのごとき風格だった。獅子も所詮はドラゴンの治める世の下僕でしかない。ブリーストは早々に小さなプライドは捨てることにした、今 自分に必要なことは自分を守るプライドではなく、ガーランド公爵家の情報であり、策謀であった。
「それはいつの情報ですか?」
「き、昨日届いた情報です」
「残念ですが殿下の情報はとても古い」
「な、殿下は昨日届いたと申したではありませんか!」
「パーマシー殿は気が短くてらっしゃる、それでは必要な情報を引き出せませんよ?」
「その通りだ、少し黙っていてくれ。ではどう変わったと言うのですか?」
「ここからムージマハル国の王宮まで早馬でどのくらいかかりますか?」
「15日と言ったところです」
「そうです、ですから昨日受け取った急ぎの書状は15日前の最新情報という事です。
ムージマハル国の昨日現在の戦況は…国土の1/2が壊滅状況で、国王陛下並びに殿下のご家族は王宮を捨てファンシルド宮殿にお移りになりました。
それと…、誠に申し上げにくいのですが、奴隷に魔法弾をつけて一帯を爆破しているというのは既に古い情報です。現在は人間魔法弾で一掃した場所に魔法陣を描き強大な魔法により殺戮を繰り返しています」
ステファンに齎された情報に驚愕し、呼吸もままならないと言うのに、流石はガーランド公爵家の嫡男ステファンは、我が国の滅亡寸前の状況を事もな気に言ってくれる。
「な、何ですって!? 強大なま、魔法?魔法陣って!! 陛下たちはご無事なのですか!?」
「陛下たちは王宮を捨て、民を救わずにお逃げになったのか!?」
「殿下、そう責めないで差し上げてください。殿下がその場にいたら同じ判断をなさるでしょうから」
「ステファン殿は直接ご覧になったのですか!?」
「いえ、…詳細な報告書を受け取っただけです。矢のように降り注ぐ魔法攻撃になす術がなく、反撃するための戦略的撤退と、今はお考えください」
逃げる以外出来ることはないのだから。
「矢のように降り注ぐ魔法攻撃!? な、な…」
言葉を失い茫然自失となった。
「さ、お聞きになりたいことはタダで教えて差し上げました。ではお帰りください。
これは貸しです、必ず覚えておいてください」
「待ってください! 待って!率直に伺います! 我々に対抗手段はあると思われますか? 忖度はいい、あなたの意見を聞きたい!」
「…私に言えることはありません。殿下が分析の上ご判断ください。申し上げた通り予定があります。それでは失礼致します」
「お待ちを! ステファン殿、あの…感謝申し上げます」
会釈するとステファンは出て行ってしまった。
「カラバスク、我が祖国は滅亡するのだろうか?」
「おい、ダリウス! そんな訳あるか! ステファン殿たちの情報が間違っているかもしれないだろう?」
「毎日来ていた定期便が実は一昨日以来来ていないのだ、先程の情報は本当は3日前のものだ」
「なっ!? おい、ダリウス! いや、先程ファンシルド宮殿って言ってただろう? それで納得した。王都より遠いって言うより、ファンシルド宮殿からこちらまでの交通手段がないのかもしれない…」
「いや…もう 生きていないかも知れない」
「おい、しっかりしろよ!ステファン殿にどこに進軍されているのか、もう一度伺ってみよう! 今現在お元気か確認して! な! ダリウス! おい王太子殿下!!」
「いや、仮に隠れて忍んでいるならば陛下たちや、兵たちを危険に晒すかもしれない。それに、ステファン殿の言う通り我々の情報は遅い、致命的だ。私たちが護衛を連れて急いで2週間で戻ろうとも何もできることはない」
「何、何言っているのですか? 手段がないのではない!きっと何かある! 諦めないでください!! ステファン殿の話が真実か、証拠はないではないですか! ………ムージマハル国を見捨てるのですか!!」
「見捨てる? そんなことできる訳ないだろう!! 何の為に今まで研鑽を積んできたか、今すぐに帰って国を救う手段があるのならそうする、だが! だが私には国と言う後ろ盾がなければ何もない、下手に人質に取られればもっと酷い結果を招く。今私にできる事は辛抱強く国を守る術を、コネを、情報を、仲間を力を得る事なのだ。安易な行動は慎むべきだ、良いな?」
「うぅぅぅくぅぅぅ、はー、…承知致しました」
ブリーストは何となく ステファン殿はセンダラーハン国に対抗する手段を知っているのではないか、と思った。だが、それは我が国に恩を売れるとしても口にしたくない事なのではないか…と。
センダラーハン国はムージマハル国を滅亡させるまであと一歩のところまで来ていた。
国中が宿願を果たすと自国の快進撃に喜び沸いていた。
ラウゼス三世陛下は絶大な人気を博していた、そしてもう1人バトラス軍事参謀も。
バトラス侯爵が軍事参謀に就いてから飛躍的に軍事力が上がった。故に英雄として扱われていた。ここ最近英雄バトラス軍事参謀に残虐非道との噂が飛び交っている、いや 元々あった噂に武勇伝のように追加されただけだ。
「あまりダメージになりませんでしたわね」
「確かに…、戦闘民族みたいなものだからアホみたいな事で優位に立っているよね」
「バトラス軍事参謀を見てみたいな」
『連れてってやろうか?』
「お願い!」
バトラス軍事参謀はラウゼス三世陛下と同じように魔術に長けた人物、気は抜けない。
結界・隠密魔法で上空からバトラス軍事参謀を観察。ついでにラウゼス三世陛下もチェック。
う〜ん ふ〜ん へ〜、そうなんだ。
流石やね、魔術に長けた人物だとしてもシリウスとヨミの前では気配を気づくどころか、魔法陣が張り巡らされている王宮内も完全フリーパス! あれま、警戒MAXだったけど肩透かし状態。
ふむふむ、登場人物のお顔拝見。
へー、陛下も軍事参謀くんも案外若いんだね。
でも、どうやってこの強大な魔術の魔力を捻出してるんだろう?
『ねえシリウス、ラウゼス三世陛下やバトラス軍事参謀に精霊がついていたりするの?』
『何で?』
『だって、普通ではムージマハル国にバンバン強大魔法で攻撃できないでしょう?』
『確かに…、でも聖霊がつく訳ないよ! あんな凶悪な人間に力を貸すわけがない!』
『なら どうやって魔力を得てるのかしら?』
『まさか!』
『セルティ心当たりがあるの?』
『確信はないけど、センダラーハン国は各地から奴隷にする為に誘拐をしている。自国の民では反発が起きるから、他国からって事になっているけど…それが攫った人間の中から魔力持ちを手に入れる為だったとしたら?』
『はぁー、魔力を抜き取って不要になった人間に魔法弾巻きつけて送り返してるのか!』
『なんて惨い!』
『平民の多くは魔力があるとしてもたかが知れた魔力しかない、それでもゼロではないからな。例えば、ポーションのようなMPを一時的に爆発的に増やしてそれを吸い取る事ができればそこそこになるかも知れないな』
『そうだね、ラウゼス三世陛下は魔法がお得意なんですものね、体内で暴発させるような魔法で一時的にでも魔力を増殖・充満させて抜き取る』
『アシェリはどうしたい?』
『そんな施設が本当にあるのか、確かめたい!』
『オーケー、んーーーーーーん! あっちに何かあるかな』
王宮の陛下のプライベートエリアでちょっと異質な雰囲気の塔があった。そこには3人1組でそこここに兵士が巡回している。
塔の上の方は、高貴な罪人の留置場所、監禁場所となっていると使用人たちは認識していた。
だが実際はラウゼス三世陛下の研究施設だった。魔道具やら実験関係のものがあり地下には思った通り誘拐されてきた人間が棺のような箱の中に入っていて眠らされているようだった。そして、箱から魔法陣で魔力が吸われ魔鉱石に移されている。
『あの魔鉱石には魔法陣が刻まれ魔力を溜めるようになってるね』
『ああ、それであそこに見えてる魔道具に組み込んで強大な魔力を消費する魔法を行使しているんだ』
『ねえ、シリウス 精霊がいなくても魔法って使えるのね』
『…そうだね。ここら辺に精霊の存在は感じられない。奴らは魔力と魔術と言う知識で、あれだけの事をやって見せた。人間にしてはよくやるね』
センダラーハン国の中枢を視察してアシェリたち一行は屋敷に帰ったのだった。




