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43、狙われたニコル−1

ムージマハル国とセンダラーハン国の戦争は更に激化していた。

今回のセンダラーハン国はムージマハル国で捕まえてきた奴隷に魔法爆弾を持たせて爆発させると言うものだった。普段は剣で斬り合う、魔道具で攻撃するなどがメインだった。全く違う戦術で今回は被害が拡大している、そしてなんと言っても自国の人間が爆弾を持たされているのだ、斬りつけるのも殺すのも躊躇われる。


想定よりムージマハル国の被害が多い。今までは両国ともあまり魔法を使った攻撃はなかった、それは魔力の大きい者が生まれる事が少なかったからだ、つまり均衡を破ったのはセンダラーハン国に魔法に長けた人物が生まれた事にある。

センダラーハン国は進軍して、2つの領を占領している。今後も被害は広がっていくだろう。ブリースト王太子の元にはスターチス国の支援を取り付けろと毎日書簡が届いているが、全く進展していない。ムージマハル国にとって悪夢の始まりだった。



ガスパール伯爵は妻プリンヌを脅し無理やり書かせた離縁状、それを持っていそいそと王都に向かうことにする。妻と息子には「帰ってくるまでには出ていけよ!」と言い残し出掛けた。


だが少し馬車を走らせると霧が出てきた。しかもあっという間に濃くなり濃霧で動けなくなった。

「旦那様、 霧が濃くこのままでは進む事ができないので、少しこちらで霧が晴れるまで休憩致します」

「何を言う!  私は急いでいるのだ! ここら辺はまっすぐな道だっただろう、ゆっくりで良いから進むのだ!」

「旦那様 それが馬が怖がって動かないのです」


「ああ? あー、使えない奴らばかりだ! どれ? ああ、確かにコレは酷いな。

おっ、ほらこっちに道があるでは無いか! おいこっちだ! こっち!!」

「旦那様? 無闇に歩くと危のうございます、旦那様!」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

………………ドサッ!!


「なんの音だ? まさか旦那様か!?」

「探しますか!?」

「いや、少し霧が晴れるのを待とう、無闇に動くのは危険だ」

『あれ? 今の声は誰だっけ?』

霧が晴れてから辺りを探すと谷底にガスパール伯爵が落ちていた。


急いで崖を下り生存を確認した、いやするまでもなくヒキガエルの様にぺちゃんこになって死んでいた。ぺちゃんこになった遺体を持ち帰ると、家にいた妻と息子は執事に聞いた。

「トーマスこの人は王都に行ったの? それとも行く前に死んだの?」

「王都に向かう途中でございます」

「ふっふっふっふ あはははは! 神はいたのね! あー清々したわ。

チュザレ これでこの家はあなたのものよ! 出て行く必要なんてないの!」

「そうですね、1番ベストな結果です。急ぎ手続きに入りましょう!」


「あの、奥様 坊ちゃん、この葬儀はどのように手配致しますか?」

「そうね…、捨てといて頂戴」

「捨てる?のでございますか?」

「ええ、谷底に落ちて回収出来なかったでも見つからなかったでもいいわ。この男にしても私たちとは縁を切りたくてゴミみたいに捨てたんだから、今更手厚く葬られるなんて思ってないでしょう? ただ葬儀は簡単にやるわ、一応中身はなくても良いから墓石も必要ね。後の手配は通常通りにやって頂戴」

「何故ですか! 私はこの男を100回殺しても殺したりない! 誰彼構わず女を抱いては尻拭いを母上にさせるようなこんな男! もっと苦しませて殺してやりたかった!」

「チュザレ…気持ちは一緒よ? いいえ寧ろ母の方がもっとえげつない事を考えてる。でも、今後あなたが当主となった時、体裁を整えなければ汚点を残すことになる。だからあの男自身の死体はどうでも良いけど儀式・段取りは必要なのよ?」

「ああ、そうか。母上はいつも私のために…分かりました、ご指示に従います」

「耐えて頂戴 チュザレ、2人で今後はやっとまともに快適に生きていけるわ」

「はい、そうですね」



『ふぃぃぃ、バレなかったみたいだな』

『そうね、あのガスパールとか言う人 家族に凄く恨まれていたのね』

『…アーシェ、こんな事をする私を嫌いになった?』

『いいえ! 私も同じ気持ち。それにセルティスを誘拐し殺そうだなんて許せない!だから!…私も覚悟を決めたの。私は私が大切に思うものを奪われたりしないつもりです!』

『…ふふ 眩しいな 凄く嬉しい。さて、次はどうするか…』

『次?』

『ああ、今回は2つの思惑が絡み合っていたんだ。1つはこのガスパールがアシェリを手に入れるために私を殺そうとした事、もう1つは私を暫く監禁するようにゴロツキを雇った女がいるんだ』

『女? 誰かご存知なのですか?』

『特徴から言ってカミラだな』

『カミラ・グラハム…!』


『それがちょっと面白いことになってるよ』

『ノーク面白い事って?』

『アシェリ、みんなが心配して呼んでるよ?』

『そうだったわね、一先ず帰ってみんなと合流しましょう』




誘拐されセルティスの行方が分からなくなった時、セルティスの気配を必死で探したのだ。すると手首に僅かな温もりを感じた、そうだ! セルティスが婚約した時にアシェリと対で作ってくれたバングル!! セルティスはこのバングルで相手と意思疎通ができると言っていた!! そこでバングルに願いを込めてセルティスに呼びかけた。


『セルティス! どうか無事でいて!! セルティス! どこ? どこなの!?』

『聞こえるアーシェ?』

『セルティス! ねえ、無事なの!?』

『ああ、大丈夫。今はねカカヤック伯爵領のガスパール伯爵を探っているところなんだ』

『そっちに行っても大丈夫?』

『ああ、だけどあまり目立たないようにしてくれる? ガスパール伯爵は殺すことに決めたから』

『分かったわ』


『シリウス、私たち3人を連れてセルティスのところへ転移出来る?』

『勿論だよ』

「ハルク、グレン一緒に来て。他の皆はセルティスを『私が探している』としてここにいて頂戴」

「我々も共に行ってはダメなのですか?」

「セルティスと話をしたわ。セルティスは今回の黒幕のガスパール伯爵を追ってカカヤック伯爵領にいるの。ガスパール伯爵を消すことに決めたって言ってたから、そのアリバイを作って欲しいの」

「お嬢様、言ってくれれば俺が始末してくるよ?」

「有難う、でもね わたくしも今回のこと許せないと思っているの。もう幽霊令嬢で居られないと思うほどにね、だから今回は(私も手を汚すつもり)いいわ。 それでは行ってくるわね」

「「「「ご武運をお祈り致します」」」」


今までのアシェリとも違う顔つきになっていた。

それをアシェリに忠誠を誓う者たちは武者震いした。


セルティスと合流すると、セルティスもよく考えると今や使える水魔法だけではない事を思い出した。折角なら王都に行く前に殺してやろうと、濃霧を作り出し、幻影を作り出し誘導し転落させた。そして何度も何度も地面に叩きつけた。そうしてから霧を払い転移して戻ってきた。


アシェリとセルティスの帰りを待っていた者たちは無事帰ってきた2人を喜んだ。

そして作戦会議。


「ムージマハル国とセンダラーハン国の戦争は長引くかもしれないわ」

「いつもの小競り合いでは終わらないと言うことですか?」

「ええ、センダラーハン国がムージマハル国民を奴隷として誘拐し酷使している事が事の発端だけど、どうやら魔法を込めた爆発物をムージマハル国民に持たせてムージマハル国に突っ込ませて効果的に殺戮を繰り返しているらしいの」

「何と惨い!!」

「なるほど、それでムージマハル国は手出しができないと言う事ですね?」

「ええ、そうなの。それにムージマハル国には爆発を止める手段がない」

「だから…、今までとは違う展開になる事もあるって事だよね?」


「はい。爆発物を持たされた国民は誘拐され人間扱いされずに、今また爆発物を持って自国の地に戻る、戻っても戻らなくても殺される未来しかないけど、恐らく『助けて!』そう叫びながら向かってくる自国民に殺せと言えば、国民は国に不信感を抱く、手をこまねいていれば味方が多く死ぬ。しかもセンダラーハン国には随分優秀な魔術師がいるみたいですものね、今回は勝ち目がないと思うわ」


「お嬢様は今後 進軍し我が国にも来るとお考えですか?」

全員の視線が集まる。

「当然そうなるでしょう。同じ手法かは分からないけどセンダラーハン国にしてみればムージマハル国より真に欲しているはこのスターチス国でしょうからね。国全体を奴隷とするつもりだと思うわ」


「タングストン侯爵は破られますか?」

「わたくしなら…タングストン侯爵は囮にして、パールバル伯爵領から攻め落とすわね。

それこそ、ハリボテの爆発物を巻きつけた人間を送り込み、その裏でパールバル伯爵領に潜入し爆発物人間を作り侵食するわ」

「なるほど。それでどうなさるのですか?」

「まあ、戦争のことはもう少し様子を見るわ。今は別の事を始末するつもり」

「別の事ですか?」

「ええ、カミラ・グラハム男爵令嬢。彼女がセルティスの誘拐を仕組んだ犯人なの。今回はカミラが誘拐を計画し、別件でガスパール伯爵が殺害を計画した。それを偶々同じゴロツキに依頼した事で起きたの」


「またあの女か!」

「悪いけど、カミラ・グラハムについて徹底的に探って欲しいの。ノーク、サン、ブル頼むわね」

「我々の方でも探ってみます」

「有難うグレン、頼りにしているわ」


皆と別れるとアシェリはセルティスの胸に飛び込んだ。

「どうしたの?」

「ごめんなさい、やっぱり巻き込んじゃった」

「心配かけてごめんね、でも今回バングルが役に立って良かった。それにシリウスはやっぱり凄かったね。有難うお陰で凄く助かったよ」

「大した事じゃないよ。アシェリの大切な人が無事で良かったね」

「有難うシリウス!」


「ねぇ そろそろ僕の話も聞いてくれる?」

「ああ、ごめんなさいノーク、それで何が起きているの?」

「実はさっき言ってた事と関係あるかもしれないんだけど…、マリアが孤立している」

「は? ちょっと前までまマリアがアレクシス王子殿下に擦り寄って、それを受け入れていたじゃないか? 私たちがいないこの短期間で何があったんだ?」

「それがさー、面白い事になってるんだよね〜。それこそカミラがいなくなると共に呪縛が解けるとでも言うように徐々に変化が現れた。

アレクシス王子や側近の者より、周りの外野?マリアに心酔していた生徒の方が早く正気に戻った、それで パトリシア嬢を悪し様に言っていた者はビビって全員休学してる。その後アレクシス王子や側近も正気に戻って呆然としてた。でも何が面白いってマリア自身も自分が何をしていたか分かってないみたいなんだよねー。

この間のテストの結果もマリアの実力からするとおかしいってなって再テストしたら惨憺たるものだったみたいで、今は皆に後ろ指刺されて孤立してる、味方だった奴は休学してるしね!」

「どう言う事?」

「マリアは自分の意思でアレクシス王子に近づいたんじゃないの!?」

「今までの行動にマリアの意思はないって事!?」


「カミラは私と同じ前世の記憶持ち、そして何かしらの力があると思う…だけど自覚は無いのだと思うの」

「何かしらの力? 無自覚? どう言う事?」

「覚えてる? 漫画ではカップケーキを得るためには、ミッションで20人に親切にすると『よろず屋』が開き購入できるアイテム。それをカミラはせっせとと貯めてマリアに渡してたの。(ゲームの世界では心優しいマリアが呼吸するように善意を施すので必要な時はいつでもよろず屋が開いていた、ヒロインチート!)

サンの話ではマリアは当初アレクシス王子殿下の好感度が低くカップケーキを受け取って貰えなかった…、そうか! カップケーキは物凄く強制力の強いアイテムなの、カミラから受け取ったカップケーキをアレクシス王子殿下に受け取って貰えなくてマリアが自分で食べたんだわ! だからより深い呪縛を受けることになったんだわ。きっとそう。


調べてきて貰った事から考えると、カミラは実家の借金を返済する為にマリアに近づいた、マリアに今後の展開を伝えてアレクシス王子殿下と恋愛関係にしたいのに上手くゲーム通りにいかない、そこで マリアがアレクシス王子殿下と上手く為には何が必要か?→マリアは聖女なのだから皆がマリアを好きになればいい!→みんながマリアに夢中になって欲しい! そうだ!テストで1番になったらきっと皆もマリアを見直すはず!→マリアの成績が良くなって欲しい! そう安直に考えたのでは無いかと思うの。


私も転生して変わった特技があるの、それと同じようにカミラにも…例えば魅了とか、念写とかイメージ転送などの能力があると思う、でも自覚が無い。だから、それを利用して意図的に仕掛けているのではなく、偶々強く願った結果 思い描いた未来になっているのだと思うの。それに効果の薄い別のアイテムも使っている気がする…」


推測するに乙女ゲーム『スターチスの聖女 マリアの献身』をプレイした事があるのは間違いない。『よろず屋』の開き方など王道をいっている、そう王道なのだ。裏技を使う様子はない。恐らくだが異世界転生ものチートあるあるも知らない、だから自分に特別な力があるか確かめる事もしない。報告を聞く限り転生前の年齢がかなり若いのかもしれない。圧倒的に人生経験が少ない、そう感じる。


「アーシェ、頭の中身が漏れてるよ。なるほどそう言う事なのか…。

カミラが未熟だからこの程度で済んでいたってこと?」

むむむ 私のお口 ちゃんとチャックしてくんなまし! まあ、いっか。

私が前世の記憶があると言う話はセルティスにはした、その過程でいつも影に潜んでいる者たちにもバレた。まあ、信用しているからいいけどね、漫画を読んだ者たちも前世があると知ってやっと納得した感じだったし。


「カミラの能力を知っているわけではないので断定はできないけど、例えば魅了を持っているなら手っ取り早くお金持ちにスキルやアイテムを使って借金返済させれば良いのに、マリアとアレクシス王子殿下をくっつけて物語に沿わせようとする事が解せないもの。能力使用の方向性が間違ってる…つまりは自分の能力を把握していないのだと思う」

「ホンマやな、知っててやっとるんならホンマのアホやん」

えっとー、誰? サンがハイになって人格変わってる。


「うん、確かに…。学園でも調査しましたがカミラは自分の能力は知らずに使っていると言われれば納得します。カミラの周りだけ いや彼女に物理的に近い位置にいると影響を受けている気がします」

「そうですね、だからカミラが学園に登校していない今はその支配下から逃れて正気を取り戻している。復学したらどうなるのでしょうね?」

「それもだけどセルティス様の誘拐騒ぎはどうするの?」

「あー」

忘れてたよ、助けて普段通りも良いけど……今は学園は行かないほうがいいかな?

宿屋にはトーマスJr.もいるのだった。


「セルティは数日後に救出されて衰弱して療養中と言うことにしましょう! そしてわたくしも看病という名目で休学します!」

「はは〜ん、アリバイ作りでしょ!」

「ふふふ」


セルティスが無事だからって私の家族に手を出したらどうなるか、覚えてなさいよ!

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