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36、精霊召喚−2

「姿形を消すのは望めば出来る」

出来るー!! うしっ!


「良かったです。国外逃亡計画が駄目になるところでした」

「待って! アーシェ国外逃亡って何? 聞いてないんだけど!?」

「国外に逃亡する予定があるのか? 面白いやつだ」

「いえ ここで暮らせるならそれはそれで良いのですが、なぜか断罪される未来しか見えないもので」

「ほう? それは難儀なことだ」

「ちょっと、すみません 少し静かにお願いします! アーシェ、国外逃亡って何!?」

「こやつもなかなかの胆力をしておる」

「シーーーーーーーー!」

「ぐっ」

セルティスはつい精霊王様と魔王様に黙っているように促した。


「セルティが卒業してしまうと私にとってここは危険な場所でしょ? だからセルティが卒業するタイミングで一緒に学園を辞めようかと思って。なんだったら世界各国にある屋敷を渡り歩いて19歳…20歳まで戻って来なければ良いのではないかって思ったの!」

「ああ、そういう意味か…。てっきり私を置いてどこかへ行ってしまうのかと。

私と一緒に卒業記念の世界旅行に行くと言うことなら、良い考えだね」


「ふははは、精霊よりアシェリの心配か! うん気に入った」

「そーか、世界旅行に1年〜2年か…それでは弱い精霊では役に立たんな。ではチェンジだ!」

ええっ!? なんかすんごいの出た!

流石 精霊王様!! でももうセルティスの肩には乗れないレベル。


「これでアシェリは何があっても困ることはないだろう」

「そうだな、あとこれもやろう」

すると目の前にアンゴラ兎?毛むくじゃらのもふもふのボールみたいなモノがいた。


「これは我の眷属だ、名前をつけよ」

えーーーマジっすか!! 眷属!! 超カッコいい響き!

精霊王様の眷属 ヒャッホーイ! でも何故ウサギぃぃ? 可愛いがすぎるんでないかい? もふもふっていいかな? いいよね? だって可愛すぎるから。


「その辺でやめてやりなさい」

「へっ?」

既に無意識のままもふもふを貪っていた。

スーハースーハー 無臭だぁ〜、獣臭くない。指どころか顔も埋まる。顔も拭けるな。

これ…編み込めるなぁ。案外毛がないとスマートなんだよねー。

『うさお』じゃ可哀想すぎるよね。白くて丸くて賢くて星みたい、それだアレだ!

「シリウス! シリウスでどう? あなたの名前なんだけどかっこいいでしょう?

星の中で1番明るく輝いて見えるのよ! だからシリウス!」


「良いのではないか? まあ捻くれているかもしれないが、いざという時は役に立つだろう。シリウスを通して我らとも繋がることができる」

「わぁー! 凄い!! 激レアだ!! 凄いな 何ができるんだろう? ワクワクが止まらないな、じゅる 空飛んだり転移したり隠密魔法とか極大魔法…やー!とか? カッコ良すぎるぅぅ。 魔法の杖で巨悪と対決とか? 真夜中の美術館が動き始めたり? 死者の怨念が襲ってきたり? 悪役令嬢に何かが取り憑いたり? いやーん! 夢が広がるぅぅ! 癒しにモフれるとかって最高! あっ! このもふもふ 石鹸つければボディブラシになるんじゃ…ふっふっふ」

「アーシェ、頭の中身が漏れているよ」

「えっ! 聞いちゃ駄目なやつです。削除してください!!」

「無理を言うな」

「アーシェ無理だよ、寧ろ深く刻まれた。シリウスをボディブラシにしちゃ駄目だよ? 私がいいのを探してあげるからね?」

「はい、…そうします ごめんなさい」

しまった! アシェリちゃんが変態だと思われる!


「あの、沢山の精霊様を授けてくださりありがとうございます。私はどうしたらいいのでしょうか? 正直どう扱っていいか初めてで分かりません」

「まあ普通であれば契約による誓約をしギブ&テイクで魔力を受け取る代わりに力を貸し与える感じだな」

「だが、セルティスの精霊にセルティスが魔力を与えたらすぐに干涸びて死ぬな、はっはっは。今回は我らの命令ゆえそなたらから報酬を得ようとはしない、気にせず相談し使え。奴らも嫌なら嫌だと言うであろうが、基本は従うはずだ。但し セルティスに上位精霊を付けたが、命令系統は少し複雑だ」

「基本はセルティスの命令を聞く、だがあ奴らは我らの命令には逆らえぬ、我の眷属であるシリウスの命令も聞く、シリウスはアシェリの命令を聞く、つまりアシェリの命令もあ奴らは従うだろうと言うことだ」



「はい、承知致しました。すみませんが魔術師の者たちにも気づかれたくないのですが、大丈夫でしょうか?」

「2人揃って欲のないことだ。気配を消して離れさせておれば問題なかろう」

「欲とかではなく、問題が起きるといつもアシェリのせいにされてしまうので、彼らに理解できない脅威を手に入れたとなると更にアシェリが危険に晒される、そして王家がアシェリを囲い込もうとする…不要な争いに巻き込まれたくないのです。少なくとも卒業するまでに気付かれれば王宮に縛り付けられてアシェリの国外逃亡も叶わなくなります。ですから、身内以外には知られたくないのです」

「ふむ、構わぬだろう」


そんな話をしている間もアシェリはシリウスをモフっていた。

「なんて触り心地がいいのかしら? これは魔性ね。毛足が長くて柔らかいコ どこかにいたかしら? 愛玩物? 風呂場のタワシでは勿体無い…それに動物の毛では忌避感がでる、ここは化学繊維…ないかー! ぬいぐるみぃ? 年齢層が微妙だしなぁ、まずはチャームか! そうすればいいカムフラージュになるかも知れないし。ぷぷそう言えば前世でも流行ったり流行らなかったり、似てる。思い切ってドレスに尻尾みたいに付けたらウケるかしら? いや、座りにくいか。夏場はキツイけど冬場はいいなぁ。

ねえシリウス 小さく私の腰にチャームとしてくっついててくれる?」

「ふー、いいよ」

「ああ、そうそう いい感じ! これは女の子ウケ間違いなしね。こうすればいつでも一緒にいられるし」


さっき会ったばかりのシリウスに昔からの友人のように気やすいアシェリに皆唖然としたが、それがアシェリだと呑み込んだ。

最近のアシェリは少し変だ。それは自室で髪をてっぺんで団子にしていた時のように…偶に年齢が上がって見える。でもこのトランス状態の後、この世にはない凄いものを創り出す。最初はアシェリが乗っ取られた、何かが取り憑いたって思ったけど、普段の彼女は私の知っている可愛い女の子だった、だから天才は凡人には理解し難いこともあるのかな?と今では理解している。以前知ったバーバラは上品で淑女の鑑と言った感じだから、それとも違うとはっきり分かる。



その後も精霊の取り扱いを聞いて、アシェリの計画を聞いて精霊王様と魔王様と別れた。

セルティスは正直 お2人よりアシェリの方が異彩を放っている気がする、でも空気の読める良い子のセルティスはそれを口にしたりしない。

精霊王様と魔王様と別れた後、アシェリの影 サンに今日の結果を聞いた。

「結局 精霊召喚出来たのはドナルド様だけなのですね」

「そうだね、これも漫画とは違う結果になった。少しはアーシェの未来が良くなればいいのだけれど」

「あと1年ちょいだし」

「でも また色々と手掛けてるよね? 本当に国外に行くつもり?離れているとタイムラグがでるよ?」

「そっかー。それは困るか…。なら辞めてから自宅に篭ろうかな? 断罪さえなければ問題ないし」

「うん、そうだね。そうだ、スタッド伯爵領で篭ってもいいし! 他のガーランド公爵領でもいいしね、断罪さえされなければやりようはあるよ」

「そっかー! そうだね!」

ランジェリーもまだまだだしね、サテンの機械もまだ試行錯誤中、刺繍はデザイン通りの寸法に合わせて形を作っていくのはまだ模索中、お酒も売れてるけど熟成した商品はまだ出せていない、色々途中だな。ポテトチップスとかも次の商品も開発して漫画喫茶を盛り上げていかねば! フライドポテトにピザもいい! 唐揚げで若者の胃袋ゲット! そうだ、チョコレートが作れたのだからフォンダンショコラ、ガナッシュ、チョコケーキ、トリュフ、チョコタルト そうだ! 生クリームが必要ね! 押忍! 生クリーム好みの味で作るっす!


「アーシェ、帰ってきてー!」

「ごめんなさい、美味しいものの事考えてました」

「うん 何となく気付いてた、そう言えばマリアはやっぱり元のままだったよ、こんな筈じゃない! マリアと殿下が仲良く精霊を召喚して皆に認めて貰えるはずだったのに!ってヒステリックに騒いでた。あれもカミラの仕業だろう?」

「カミラが渡したカップケーキは特別で食べると渡された相手に従っちゃうの。きっとカミラは転生者だからマリアに今後の展開を話して聞かせているのね、だからカミラが言った通りになる未来を信じていて心酔している。でも…学園全体にカップケーキを配って歩くなんて出来ないから、別のアイテムがあるんだと思う。まずはそれを取り除かないと変わらないかもしれないわ」

「もう、自分のことなのに他人事みたいに話して!」

「でも、あと1年と少しだもの、ふふ 鬼ごっこみたい! 逃げ出せるかどうか」

「アーシェ!」

「ごめんなさい。でも私にはセルティも仲間もいるもの、きっと何とかなるわ!」

「ああ、そうだね。絶対何とかなる! いやする!」



翌日はドナルドの精霊召喚の件で持ちきりだった。

本人は王宮の魔術師団へ行っていないと言うのに、英雄か勇者かって言うくらいの熱気に包まれていた。皆前は『アレクシス王子殿下の側近の中に何故あの陰気なブサメンがいるか分からない』と言っていたのに 今では『寡黙でミステリアスで素敵』に変換された。


アレクシスは微妙な気持ちになっていた。

今までキャーキャー騒がれて自分の存在が誰かの影に隠れることなどかつてなかった。

アレクシスが目の前を通っても気づきもせずに話に夢中になる。仕方ないと理性を総動員させても蟠りが残る。他人が自分より評価されるなど生まれて初めての経験で上手く消化できないでいた。誰にも弱音など吐けない、誰よりも優れていなければならない。弱っているところなど見せてはならない。


「アレクシス様 顔色が優れませんわ、医師をお呼びしましょうか?」

「パトリシア嬢か…大丈夫だよ、心配しなくていい」

「ご政務が忙しいのですね? わたくしが何かお手伝いが出来ればいいのですが…」

「いや、パトリシア嬢の気持ちだけで嬉しいよ」

2人にもドナルドを持て囃す声が聞こえる。


「いつもならアレクシス様に黄色い声をあげているのにゲンキンなものですわね、移り気な雲雀たちは。わたくしがガツンと言ってやれればいいのですが、アレクシス様にご迷惑かもと思うと、申し訳ありません」

「ふふ、パティもそんな事言うのだね。有難う私の代わりに怒ってくれて」

「アレクシス様 私たちはまだ子供です、もっと感情を出してもいいと思うのです。外に出るとアレクシス様は難しいですが、わたくしにくらい素直な感情をお見せになった方が心が楽になれると思うのです。外で感情を素直に出せない分わたくしがちゃんと受け止めます! それくらいわたくしたちの間に信頼関係が築ければ嬉しく存じます」

「うんそうだね、有難う。パティのお陰で少し気が楽になったよ」

アレクシスとパトリシアは順調に仲を深めていった。



「アレクシス王子殿下! アレクシス王子殿下! あの人たち昨日まではアレクシス王子―!って言ってたのに酷いですよね!! でも私ならあなたの気持ちを理解できる! いつでも話を聞くよ!」

さっきまで私ならぐらっときたかもしれない。だけど今は彼女の言葉が薄っぺらなことがわかる。

「有難う、でも私にはパトリシアがいるから必要ない」

そう言うとアレクシス王子はマリアの前を去っていった。


「何よ! 全然王子が落ちないじゃない!」

そっと出てきたカミラが

「きっと今は揺れてる、ドナルドが戻ってきたら嫉妬と孤独感で一人ぼっちのアレクシスの話を聞いて、優しくしてあげんのよ! いい? す・る・と! 今までチヤホヤされてたのに皆がドナルドに夢中で疎外感を感じたアレクシスは優しくしてくれたマリアに落ちるって事! 今が勝負よ!」


「ねえ、ところでアレクシス王子の婚約者はやっぱりアシェリじゃなくてパトリシアって人みたいだよ、どうなってるの?」

「うーん、私も調べたんだけどそうみたい…、私の勘違いだったのかなぁ〜? ガーランド公爵家のアシェリだったはずなんだけどなぁー」

「なら、今後は悪役令嬢はパトリシア・クーゲルって事?」

「そうそうそう! これからは悪役令嬢パトリシア・クーゲルにシフトチェンジ!」

「了解です!」


この日を境に『悪役令嬢アシェリ・ガーランド』と言う者はいなくなっていった。

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